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181.歴史が動いた日

リアルの生活が忙しくなり、執筆の速度が落ちたため更新の方を週一回にしようと思います。

毎日通ってくださる方には本当に申し訳ない思いです。

私事ですが数年前から身体が万全ではなく、一日に起きていられる時間も限られています。

無理をして全く書けなくなるよりは細々とでも書き続けたいと思い決断しました。

更新は毎週土曜の20時を予定しています。

ゆっくりではありますが、これからも作品を愛していただけると幸いです。

 俺たちは魔王城の控えの間に通された。

 この後、魔王との会談があり、そして大広間で世界中に向けて『食人撤廃宣言』が行われる。

 そして初めての魔豚の納品が行われるという流れだ。


 落ち着かなくて、幾度となく服の襟を正す。

 今回はいつもみたいな気軽な訪問じゃなく、村の長としての正式な招待だからな。

 初めての会談の時を思い出す。

 あの時はとにかく魔王が怖くて緊張しまくっていたんだっけ。

 今やお互いにかなりよく知った仲だ。大丈夫。怖いことなんてない。






「改まってそなたと話をするのはむず痒い気分だな。」

「そうだな。いつも通りの感じで会談は進めようと思う。」

「それが良いな。我とそなたの仲だ。魔王たる我が唯一信頼を寄せる人間だ。隠すような腹もない。」

「そんな風に言ってくれるなんてありがたいよ。」

「そなたの領地では我ら魔族の食人の代替となる『魔豚』を肥育し、我らに十分な量を卸す準備がある。間違いないか。」

「ああ、今まで魔族が食べてきた量、いやそれ以上の肉を提供できる準備がある。しかも調理済みで、だ。」

「で、あるならば我らがわざわざ人間に焦点を当てて襲う理由はなくなる。そなたの望み通り、魔王国に属するものは今後一切の人肉食をやめることを約束しよう。」

「こちらも、魔族領が人肉食を行わない限り、十分な量の『魔豚』をこれまでと同程度の値段で提供すると約束するよ。」


 用意された書面に互いにサインをする。

 互いに見つめ合い、うなずき合う。

 魔王がス、と手を伸ばしてきた。

 しっかりとその手を握り、互いに固く握手する。これで調停はなされた。


「正式な調停は済んだことだし、そなたは最初に提示した条件以上のものを見せてくれた。今後はそなたらの領地を『国』と認め、国同士の正式な国交を結びたい。」

「国か……。正直ピンとこないんだけど、俺たちの村って国になれるのかな?」

「国家の設立に必要なのは領土、主権、人民だ。規模こそ小さいが、そなたらはどれもクリアしておる。物資の豊かさや技術力はそこらの国とは比べ物にならんほどだ。国家を名乗ってしまえば他国との正式な取引もでき、領地を主張すれば不用意に入ってくるものも減るだろう。まあ戦争や侵略があれば別だが。たった一つでも他国から承認されれば、国際的な『国家』として認められる。武力蜂起で勝手に建国した国とは別物だ。いわば『国』としての身分が保証される。我がその保証人になってやろう。」

「そっか。じゃあ、国を作るよ。」

「国家の王はそなただとして、国名は何というのだ?」

「え、国名?えっと……」


 まずい、国の名前なんて考えたこともなかった。

 これこそ会議で決めるべき内容じゃないか。

 チラリとサラを見る。


「王はあなたなのですから、村長のお好きな名前で。反対するものなんていませんよ。」


 そう言われるとさらに迷う。

 えっと、うちの村の特徴……地球の知識を取り入れたチート村。「チート王国」?

 それはないわな。ボツ。

 多種族が共存してるから……「共存国トゥゲザー」。

 だっっさ!!はっずかし!!今のはナシナシ!!!

 世界樹があるから……「ユグドラシル」とか?

 うーん、もうちょっとひねりたい。

 精霊の加護を受けまくってるから、「精霊王国」。

 それとも『精霊(エレメント)』からとって「エレメンティオ」とか?

 ああ、迷うな。もういっそくっつけちゃうか。

「精霊王国エレメンティオ」。お、悪くない気がする。


「じゃあ、国家名は『精霊王国エレメンティオ』で。」

「『精霊王国エレメンティオ』か……確かにそなたの領地は世界樹をはじめ精霊の加護もあり龍族も暮らしておる。なかなか良い名ではないか。」

「素晴らしい名前です。『精霊王国エレメンティオ』……誇らしい気分ですね。」

「さすが村長、いえ、国王陛下。良い名を付けられましたね。」

「ガイアス様をはじめ、大精霊の皆様方もお喜びになるでしょう。」


 サラ、ダンタリオン、シリウスにも好評だ。うん、良かった。

 国名が決まったら、次は領地だ。

 魔王の右腕ランベールが優雅な身のこなしで地図を広げる。

 世界地図なんて初めて見たぞ。こんな地形になっていたんだな。

 魔族領と暗黒の森は、ギア山脈に隔てられる形で南北に位置している。

 ギア山脈から南側一帯、暗黒の森からデスマウンテン、その南の不毛の大地までを俺の領地としてよいという。

 できたばかりの国にしては破格の待遇じゃないか?というか、勝手にそんな広々と領地を決めて大丈夫なのか?

 そんな疑問を持つ俺に、「心配いらぬ。」と魔王ガルーシュは返す。

 なんでも暗黒の森は長きにわたり人間も魔族も紛争ができない「不戦の森」だという。

 過去に人間だか魔族だかが侵略しようとしたときに神々の怒りに触れたとかで、そう呼ばれるようになったとか。

 つまりここに建国しようなんて奇特な人間は俺しかいないってことだ。

 デスマウンテンについても然り。そもそもあの周辺は魔物が強すぎて下手に手を出せない。

 その分眠っている資源は豊富なはずなので、俺たちに管理を任せて資源を融通してもらう方が効率が良いという考えなのだろう。

 親切を計らうようでいてしっかりと自国の利益を考えているな。

 不毛の大地も似たような理由で領地に付け加えられた。

 押し付けられたともいう。

 というわけで、今まで暮らしていた暗黒の森からグッと領土を広げ、行ったこともない場所まで領土として治めることになった。暗黒の森だけでもオルテア王国がすっぽり入ってしまう広さだ。

 この地図が正しいなら、俺たちの領土は大国に匹敵する広さを誇ることになる。

 いいのかな、こんなんで。

 まあ、頑張って開拓していくことにしよう。

 それから俺たちは国家同士の条約として、改めて相互不可侵と中立の維持を取り付けた。

 さらに魔豚をはじめとする物資の取引と通行許可証の発行。

 街道の整備などの取り決めがなされた。

 街道はぶっちゃけシリウスが魔法で一気に整備できるから、工事は全面的にこっち持ちで。

 その分魔族側には通行料を払ってもらう。

 その他にも関税や情報共有、技術提供についても話し合いが行われた。

 俺と魔王の話し合いというよりは、右腕として政治に詳しいランベールVS資料室勤めでヒト・モノ・カネの流れをすべて把握しているダンタリオンの水面下での戦いのような感じになったが。

 ……ダンタリオンを連れてきて大正解だったな。

 

「今夜、『世界の声』を通じて食人撤廃宣言と精霊王国エレメンティオの国家樹立の承認を行う。」

「『世界の声』?」

「全世界に声を届ける魔法だ。場所や種族を問わず全ての者に声を届けることができる。国家としての立場の表明や宣言などを行う際には便利だぞ。あとで魔法式を教えてやろう。」

「それは有難いけど、いいのか?そんな重要な魔法を俺に教えても。」

「構わん。そもそもほとんどの国の国家元首が知っておるはずだ。使う魔力が強大であるために、人間の国ではおいそれと使えたものではないがな。まあそなたなら使いこなせるだろう。」


 予定通り、夜になって俺たちは広間に集まり、魔王国の官僚たちが見守る中で宣言が行われた。


「我が名はドゥアト=ヘルヘイム魔王国の魔王ガルーシュ。我が魔王の名において宣言する。今宵をもって、我ら魔王国民は食人の文化を完全に手放すものとする。そして、食人撤廃の功労者である人間・ケイを国家の主と認め、『精霊王国エレメンティオ』の建国を承認する!」


 広間は拍手に包まれる。

 正直、人肉をやめるということに難色を示す者も少なくはなかったが、前回のシリウスの件もあり表立って騒ぐ者はいなかった。

 みんなの目の前で俺の手から初の魔豚が魔王ガルーシュに手渡された。納品の儀も無事に終了だ。

 そのまま晩餐会へと移行。晩餐会では早速魔豚を官僚たちにふるまった。

 貰ってすぐに食べさせるあたり行動が早いな。

 まあ不満の芽は早くに摘んでおくに越したことはない。魔豚の味を本人たちに確認させれば納得してもらえると踏んだのだろう。

 実際、魔王の読みは正しかった。

 人肉に未練があった者も、魔豚のレトルト料理に舌鼓を打ち、少なくとも魔豚を拒否してまで人間を……という意見はなくなった。

 俺としても、多くの魔族が「美味い!」と言ってくれるのは嬉しかった。苦労した甲斐があるというものだ。

 晩餐会は遅くまで続いた。食後にはあのクッソ苦いコーヒーも出てきたよ。

 こんなことなら酒樽の一つでも土産に持ってくればよかったかな。







 その日、歴史が動いた。

 『世界の声』がおよそ四百年ぶりに発動されたのだ。

 前回発動されたのは、ヴァメルガ帝国が勇者を筆頭に魔族領へ進軍するという宣戦布告だった。

 その宣言はやがて多くの国を巻き込み、歴史に残るほどの大規模な戦いが起こったのだ。

 そんな世界を揺るがすほどの影響力を持つ『世界の声』。しかも魔王からの言葉。

 なにより人間たちを驚愕させたのはその内容だった。

 魔王ガルーシュが自らの名のもとに食人をやめると言い出したのだ。

 それは千年にもわたる人魔大戦の終結を意味していた。

 なぜ?いきなり食人をやめるに至った理由は?

 功労者の「ケイ」とはいったい何者なのか。

 暗黒の森に国を興した?ただの人間が?

 様々な疑念が各国の上層部の間をめぐる。

 しかし確実に言えることが一つ。

「ケイ」という人間が、魔王をはじめ魔族の食人をやめさせるだけの力を持っているということ。

 弱肉強食の魔族たちの中でそれを認めさせるには、本人にも相当な実力がないと不可能だ。

 そして、国家の樹立を承認するほど、精霊王国エレメンティオと魔王国は親密な仲であるということ。

 もしもケイとやらが魔王と共に人間の敵となったら。

 それこそ人族は一巻の終わりである。

 どうにか友好しておくべきか、人類の敵として早急に潰すべきか。

 いずれにせよ、無視はできない。

 各国は水面下で忙しく動くことになった。

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