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180.ついにこの日が来た

 俺たちはいろいろと急ピッチで動いている。

 季節は冬に差し掛かっている。

 作物が育たない冬は、逆に言えば研究や工業が盛んになる時期でもある。

 まず魔豚のクローン第二弾を作成開始。これが上手くいけば、雄二頭、雌九頭から繁殖をスタートさせる。

 和牛のクローンも作り始めなければ。『松阪牛』の肉片をアンブローズに渡しておく。

 生まれた豚や牛も勝手に育ってあの肉質になるわけではない。

 餌や住環境を調べて整える必要がある。


 パウチの機械化も進める。工業エリアに工場を建て、レトルト魔豚の生産ラインを作る。

 パウチづくり、肉の解体、調理、消毒、防腐加工、包装。それぞれの工程で機械化できるところは機械化を、人の手が必要な所は人材育成を。

 消毒(浄化)や防腐加工はかなり高度な魔法になるので、使えるものが限られる。エルフについてもらうのと同時に、それ専用の魔道具も開発を依頼。必要な魔力分の魔石はいくらでもあるからそこは問題なし。

 アルミの製造工場も大きくしておこう。


 冬の間に魔豚クローン第二弾と、松阪牛のクローンが誕生した。

 春になり、うまくいけば妊娠して新たな魔豚や牛を産んでくれるはずだ。

 それまで病気にならないように気を使って丁寧に育てる。

 コボルト族の数人に飼育を依頼。餌や掃除の仕方などを丁寧に教える。

 ここが上手くいかないと、あのしっとりとした霜降りの肉質には育たない。

 絶対に手を抜いてはいけないことを念押ししておく。









 

 雪が解け、春が近くなった。

 畑の耕作が始まる。

 今年から魔豚や牛の飼料用に新たに区画を増やした。

 種まきをし、豊作になるように祈る。

 魔豚や牛たちも繁殖のための引き合わせを始めた。

 シンバの見立てでは、多くの魔豚が発情期に入っているらしい。

 村の中で魔豚の数を増やすためにも、早くたくさんの子どもを産んでくれ。


 俺はヘイディスさんに手紙を書く。

 新たな人手を探すため、オットー氏に連絡を取ってほしいというものだ。

 返事が来たので本格的に暖かくなってから日にちを決めてキークスへ。

 シリウスの転移魔法でキークスの街中にひとっ飛び。細い路地の影に隠れたけど、見られてないよな?

 オットー氏からは新たに三十人程奴隷を買った。

 前回のこともあり、マクシムが特に良さそうなのを見繕ってくれたらしい。

 前回と同じように人目につかない森の中に連れて行き、一気に転移で村の前へ。

 鎖をはずし、村の事情やルールを説明する。

 怯えていたものもいたが、元奴隷だったレティシアやティア・ティナ姉妹の世話により安心したようだ。


 「料理の経験がある人」という枠でやって来た数人をアヤナミの元へ。

 アヤナミに魔豚や和牛の料理を徹底的に仕込んでもらう。

 魔族に渡す料理で、これの味で人肉食がどうなるかの運命が決まると知った面々は真っ青な顔をしていたが、覚悟を決めたのだろう。時に質問をしながら真剣に調理手順を学んでいった。


 鍛冶の経験がある人(見習いも含む)にはアルミ工場やパウチ製造ラインで働いてもらう。

 バルタザールやジークベルトの名前は彼らの祖国にも轟いていたらしく、めちゃくちゃ感激していた。

「ほれ!しっかりやるんじゃぞい!」と激励され、目をギラつかせながら仕事を覚えていった。まあ、あこがれの人に応援されて、その仕事ぶりを見られているんだから当然か。こういうところでは評判や名声は大いに役に立つ。







 


 桃やプラムの花も咲き始め、あともう少しで春真っ盛りといった頃、ついに魔豚と牛が妊娠した。

 魔豚は五頭がすでに妊娠し、残りの四頭も期待できるとのこと。

 牛は二頭が妊娠したらしい。

 豚は一回に十頭前後の子を産むと聞いたことがある。全員無事に生まれてくれれば数が一気に増えるな。

 魔豚の安定供給に向けて期待が高まる。

 その他にも、羊や水牛のお腹も大きくなり、こちらはそろそろ生まれるらしい。

 次々とやってくる嬉しい報告に村も活気づく。

 だからだろうか、エルフのコンスタンツェが子どもを産んだ。

 冬前ごろからお腹が目立ち始め、妊娠していたのは知っていたがもうそんな時期になっていたんだな。

 生まれたのは女の子で、母子共に無事だという。

 まずは良かった良かった。

 続けざまにコボルト族やケットシー族からも出産の知らせが。

 当然、村はお祭り騒ぎだ。

 子どもが生まれるのは安定した暮らしができている証拠。

 この村で初めての子どもだ。子は宝。大事に育てよう。









 

 レトルト魔豚の生産ラインが整った。

 パウチづくり、消毒、注入、防腐加工、封をする工程は機械化された。

 魔石を使った魔道具の中を通り抜けることで消毒(浄化魔法)や防腐加工の魔法が施される。

 自動で通り抜けられるよう、ベルトコンベアのようなものも開発した。

 発明家チームがかなり頑張ってくれたよ。

 調理は新たな移住者たちが大鍋で大量に作ってくれる。

 今計画しているメニューは「煮豚」「ポークチャップ」「ステーキ」「生姜焼き」「豚の照り焼き」「ソテー」の六種類だ。

 必要に応じて増やしていこうと思う。

 写真を張る工程は、キルスパイダー達が担ってくれることになった。

 彼らは「粘糸」と呼ばれる強い粘着性を持つ糸を出すことができる。これを紙の裏に吐き出し、その粘着性でパウチにシールのように張り付ける作戦だ。

 フランカに通訳を頼んだら難なく理解してくれた。

 シルキィもそうだったけど、結構知能が高いよなぁ。

 そうそう、紙の生産も始めた。

 これまではヘイディスさんから買う羊皮紙に色々なことを書いていたけれど、学校で大量に紙を使うし、西洋紙があったらいいなと思っていたんだよね。

 俺の地球の知識を元に、冬の間にケットシー族が手掛けてくれたよ。

 見た目は雑誌や新聞紙のようなやや強さに欠ける紙だったが、強化魔法や防水魔法を施すことで格段に丈夫になった。

 





 

 そして、あっという間に月日は流れ、本格的な夏を目前に控えたある日。

 魔豚たちが子供を産んだ。

 同時期に妊娠したためか、連日のように出産ラッシュだ。飼育係は大慌てでお産の準備をする。

 もちろん村人からも応援に駆け付けた。


「皆無事に生まれました。母子ともに健康ですよ。」


 出産ラッシュを終え、魔豚の体調を診ていたシンバの言葉にひとまず安堵する。

 生まれた子豚は全部で六十八頭。一気に大所帯だ。

 母親のお乳に群がる姿はとてもかわいい。

 これが無事に育てば半年ほどで出荷可能な大きさになる。

 何より、クローンではなく自然分娩で繁殖が可能になったのだ。

 魔豚を出荷していく中で最も大きな関門をクリアしたと言っても良いだろう。

 魔豚飼育チームとシンバを屋敷に招いて慰労会をする。

 まだまだこれからとはいえ、よくやってくれたからな。


 そして、ついにこの日がやって来た。

 魔族領に卸す最初の魔豚の加工。

 二頭分の魔豚が解体され、いよいよレトルト製造ラインが動き出す。

 気合を入れる調理チーム、固唾を飲んで見守る機械チーム。

 製造ラインは順調に動き、最後にキルスパイダーたちがパッケージシールを張り付けて完成。

 ついにここまで来た。

 魔王ガルーシュとの会談から一年。

 長かったな。

 上手くいかなくて悩んだこともあった。

 サラマンダーがいなかったらどうなっていたことか。

 そう考えると『荒野の迷宮』で死にそうな目にあったのも良かったと思える。

 レトルト食品の製造ラインも、エルフやドワーフをはじめいろいろな種族が協力してくれたからできたものだ。

 人族と魔族の未来のために、様々な種族が協力してくれた。

 誰もが尊重され、自分たちの特技を伸ばせる街。

 そんな目標に少しは近づいた気がする。


 魔王と手紙をやり取りし、いよいよ納品の日。

 歴史が変わる日ということで、ちょっと格式高く行こう。

 テレサたちが作ってくれたシルクの服に袖を通し、いつぞやの龍車にレトルト魔豚を乗せる。

 魔王城に行くのは俺とシリウス、サラ、ダンタリオンだ。

 見送りには村のほとんどの人が来てくれていた。

 

 「えー、みんな、長いプロジェクトだったが、それぞれが己のもてるすべてを出し切ってくれたおかげで今日この日を迎えることができた。本当ならここにいる全員を連れていきたいところだが、そうもいかないということを理解してほしい。俺たちの様子は広場に映し出される。どうかこの村から俺たちのことを、この村の未来を見守っておいてくれ。」


 ワアアァァァア!!!

 

 シリウスの魔法により、世界樹の広場に俺たちの姿がテレビのように大画面で映るらしい。

 これで食人撤廃宣言の瞬間を見守れるってわけだな。

 村民の代表として、堂々とした姿を見せないと。

 

 村民に手を振って見送られ、俺たちは魔族領へと出発した。




 

次で魔族編ラストです。

思ったよりものすごく長くなってしまった……

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