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18.視察

 やっと村に帰り着いた。

 休憩を挟みながらとはいえ、往復六時間以上。

 さすがのフランカも最後の方はヘトヘトだった。

 それでも泣き言を言わなかったのだからすごいと思う。

 そんなフランカを見て、オンディーヌが何かを語りかけている。

 フランカが両手を出すと、パシャッと水が落ちる。

 「飲んでいいの?」とフランカが尋ねると、オンディーヌはコクリとうなずいた。


「ゴクッ。……あれ、なんかちょっとだけ元気になったみたい…………?」


 かすかに微笑むオンディーヌ。きっと何かしらの魔法でフランカの疲労を和らげてくれたのだろう。

 フランカもそれを察し、「ありがと!」と笑いかけた。


「おかえりなさい!それで、どうだった?」

「無事オンディーヌの棲家は見つかったのか?」

「オンディーヌはいたのか?」

「随分と遅かったから、心配したのよ。」


 テレサ、ロベルトさん、セシル、マリアさんが次々と質問する。

 みんなも気になってヤキモキしていたのだろう。

 俺は安心させるように「ああ。」と答えた。


「棲家は無事に見つかったよ。オンディーヌも一度村の様子を見に来てくれてる。フランカがいたおかげでスムーズに交渉できたよ。」

「よかったわ!みんな気になって仕事が手につかなくって!」

「フランカちゃん、頑張ったのねぇ。」

「さすがだな!フランカ!」

「何にしろ、疲れたじゃろう。話は食堂で聞かせておくれ。」


 とりあえず俺たち一行は食堂へと移動する。

 オンディーヌはフランカの影に隠れながらもしっかりついてきた。









「改めて紹介するよ。彼女が水の精霊、オンディーヌ。」


 全員が席についたので俺はそう切り出した。

 フランカが「ほら、大丈夫だよ。」と声をかけると、フランカの髪をかき分けてオンディーヌはひょっこりと顔を出した。


「まあ、かわいらしいわねぇ!」

「この方が水の精霊か……なんとも清らかな。」

「すっげー!羽生えてる!」

「はじめまして、来てくれて嬉しいわ。」


 次々と話しかけるみんなに、戸惑った様子のオンディーヌ。

 まあ、人間に囲まれること自体おそらく初めてだろうししょうがないよな。


「恥ずかしがり屋なの。大丈夫、怖くないよ。」


 フランカがそう説明する。


「ようこそ、水の精霊オンディーヌ。呼びかけに応えてくれて嬉しいわ。」


 ライアが声をかける。

 オンディーヌは机に降り立ち、丁寧にお辞儀をした。

 世界樹の精霊の前では、恥ずかしがっている場合ではないらしい。


「彼らは私の大切な友人たちです。彼らの困りごとを解決するには、あなたの力が必要なの。助けになってあげて。」


 優しい口調だが、威厳がある。

 オンディーヌも深々とお辞儀をして応えた。


「ありがとう、オンディーヌ。早速だけど、村を案内するから一緒に来てほしい。助けてほしいところとか、あとまだ作り始めたばっかりだけど新しい水辺もあるから、住みやすくなるように意見を言ってくれ。」


 とりあえず今いる食堂から案内する。

 説明はテレサに任せた。食事の用意なんかで一番ここを使っているのは女性陣だからな。

 次に俺たちの家、広場、ノームたちの家、畑と順番に案内する。

 そして最後に水路とトイレ。ここは特に丁寧に。それぞれの構造を説明し、困りごと、つまり排水や浄化槽なんかについて話した。


 オンディーヌは俺たちの説明を聞くと、浄化槽に近づき両手を前に伸ばした。

 オンディーヌの両手からキラキラとした光が放出され、浄化槽に降りかかる。

 するとゴミなんかが浮いて少し汚れていた浄化槽がきれいになった。

 すごい。魔法だ。魔法を間近で見るのは初めてだから思わず興奮してしまった。

 あ、いや、正確には二度目か?さっきフランカに水をやっていたのも魔法っぽかったし。

 でも、こんだけ目に見えて効果がわかりやすい魔法は初めてだ。

 ノームやライアも魔法を使うんだろうけど、目の前でわかりやすく力をつかうというより、いつの間にかなんか起こっているって感じだったからな。

 ほかのみんなも俺と同じ気持ちだったようだ。


「すっげー!!!魔法だ!!見た!?あっという間に!!」

「手からキラキラが出てた!すごーい!すごーい!」

「こんなあっという間にきれいになるなんて……。」

「こりゃあ驚いたわい。」

「精霊様の力ってすごいのねぇ……。」


 興奮して顔を赤くするセシル。ぴょんぴょんと飛び跳ねるフランカ。ぽかんと口を開ける大人たち。

 そして誰からともなく拍手が起こった。

 パチパチと手を叩くのが自分への称賛であるというのを理解したオンディーヌは少し恥ずかしそうに笑ってくれた。


 次にトイレの浄化作業。くさいだろうに申し訳ない。

 オンディーヌは同じように両手から光を出し、トイレにふりかける。

 流石に底がどうなっているかは見えなかったが、臭いは消えた。

 良かった、本当に良かった。

 俺たちは何度も頭を下げて礼を言った。

 オンディーヌは少し反応に困ったようだが、うれしそうに笑ってくれた。

 出会ったときと比べ、笑顔をみせてくれるようになったのも良かった。

 すこし打ち解けてくれたのかな?


 最後に建設中のオンディーヌたち用の水場へ。

 ノームたちがせっせと穴を掘ってくれている。

 セシルが「おーい」と呼びかけ、空中に向かって人差し指を突き出す。するとあちらこちらで作業をしていたノームたちも同じように返した。

 エアハイタッチみたいなものか。そういう使い方もありなのね。

 忙しいらしく、すぐにノームたちは作業に戻る。


「ここがオンディーヌたちの家になる予定なんだけど、どういうふうにしたらいいのか意見をくれないか?」


 俺の言葉にオンディーヌはふわふわと飛んでいき、工事中の水場を確認して回った。

 ノームたちは突然現れたオンディーヌに少し驚いたようだが、お互い小さく会釈をしてあとはノータッチだった。

 うん、仲は悪くないようで安心。

 一通り見て回った後、フランカに何かを語りかける。

 フランカとはすっかり打ち解けて信頼しているようだ。


「フランカ。オンディーヌはなんて言ってるんだ?」

「えっとね、なんかお花がほしいんだって。」

「花?」

「うん、なんか水の中に咲くお花があって、それがオンディーヌさんのご飯とかベッドになるみたい。」


 水の中に咲く花、か。

 きっと特別なものなんだろう。


「それって、オンディーヌの泉にはあるのか?あるならそれを何本か抜いてきて、こっちに植え替えるとか……?」


 オンディーヌはしばし考え込む。

 そうだよな。今の住処の花を引っこ抜くなんてあんまりいい気はしないだろう。

 全員引っ越してくるならともかく、残るオンディーヌたちも泉が荒らされるのは嫌うだろうし。


「泉のみんなと相談しないとダメみたい。」

「そっか、わかった。他に欲しい物とかあるか?」


 再びフランカの耳元でなにか語りかけるオンディーヌ。

 フランカがそれをすぐに通訳する。


「水場の周りにもっと植物がほしいって。」

「なるほど、ありがとう。じゃあこっちで色々植えてみるよ。もし好きな花とか植えてほしいものがあったらまた教えてくれ。」


 そういうとコクリと頷くオンディーヌ。

 とりあえず、一旦食堂に戻って再び話し合いだ。





 食堂に戻り、ライアや棟梁ノームたちも含めたいつものメンバーで再び会議。

 特に水の中に咲く花ってやつだな。花だったらライアが知っているか?


「ライア、水の中に咲く花って知ってるか?オンディーヌの家に必要みたいなんだけど。」

「『水霊花』のことですね。限られた場所でしか生きていけない、精霊の力を帯びた特別な花です。」

「それってここじゃ生きていけるのか?オンディーヌの泉から持ってくるにしても、枯れてしまったら意味ないし・・・」

「それなら大丈夫ですよ。ここは世界樹の直ぐそばですから。どんな植物でも元気に育つでしょう。2、3本植えることができれば、私の力で増やすこともできます。」

「じゃあ、なんとか2、3本譲ってもらおう。もし植えられたら、ライアの力で増やしてくれるか?」 

「ええ、わかりました。」


 オンディーヌはライアのもとへ跪き、丁寧に頭を下げる。

 ライアは「良いのよ。」と微笑んだ。


「じゃあ、もう一度オンディーヌの泉に行って、その『水霊花』を譲ってもらおう。あとはオンディーヌたちにここに住んでもらえるように説得だな。」

「私たちは水場の周りに植える花を森から探してくるよ。」

「そうねぇ。たくさん植えて気に入ってもらえるようにしなくちゃね。」

「畑の方はわしがやっておこう。」

「おれはノームたちの工事を手伝うよ。」


 それぞれの役割分担は決まった。

 さすがにもう夕方だし、フランカの体力も限界だろうから今日は夕食を食べて寝る。

 出発は明日の朝に決まった。

 オンディーヌは先に帰って仲間たちにここの様子を報告するらしい。

 見送りのとき、心配そうだったもんな。早く帰って安心させてやったほうが良いだろう。

 問題はオンディーヌがこの場所をどう感じたかだ。

 いい方向に仲間に報告してくれるといいんだが…………。



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