177.プロジェクト始動
「それで、どうするつもりなんじゃ?」」
会議室に集まる各種族の代表たち。そして各部署のリーダーたち。
村民会議で、第二回試食会の内容について共有した。
肉自体は良いものが見つかったこと、調理の問題が浮上したこと。
その問題の解決をもって最終判断が下されること。
「魔族全員分の調理だなんて、私達にできるかしら?」
「それに出来立てを提供しなければならないとしたら、一気に作り置きすることもできません。」
「それについては考えがある。『缶詰』を作ろうと思うんだ。」
「缶詰?」
聞いたことのない単語に首をかしげる一同。
俺は缶詰について説明をする。
「『缶詰』って言うのは、新種の保存食みたいなものだよ。作った料理の味や風味が何日も損なわれずに保存できるんだ。これを作れば魔族領に輸送する間に肉が劣化することもなくなるだろうと思って。」
「確かに画期的ですが、我々に作れるものなんでしょうか?」
「高度な魔法が必要なのでしたら、大量生産はまず不可能かと。」
「どのみちわしらはその『缶詰』について何もわからん。まずは作って見なければな。その過程で必要な材料や人材、かかる費用なども考えていく必要があるじゃろう。」
「ああ、でもそのためには村民の協力が必要だ。みんな、協力してくれるか?」
「もちろんですよ。私達人族の未来に関わる問題を、どうして村長だけに押し付けられましょう。」
レティシアがすぐさま答えてくれた。
人族だけじゃない、エルフも、ドワーフも、鬼人も、全員が深く頷いてくれた。
「村長の方針に逆らうものなんていませんよ。これまでの事業も画期的なものばかりでした。」
「そのおかげで我々はこうして素晴らしい生活を享受できているんですから。」
「その『缶詰』とやらが魔族に売れれば、村にもガッポリ金が入るんじゃろう?景気のいい話じゃわい。」
「僕たちにできることは何でもするワン!何なりとお申し付けくださいだワン!」
「魔法に関してはきっとお役に立てると思うニャ。」
こうして俺たちの『缶詰プロジェクト』がスタートした。
「とりあえず、この豚肉からクローンを作ってほしい。」
俺は試食会で絶賛された肉の余りをアンブローズに渡した。
魔族用の豚ということで、『魔豚』と名付けた。
味が人肉ということでどうしても俺たちは手が伸びないが、この村では最も重要な食料の一つだ。
「つがいで作りますか?」
「そうだな。できるだけ早く繁殖にも成功させたい。メスを多めに頼む。」
「お任せください。」
アンブローズたちクローン研究班はすぐに魔豚のクローン作製に取り掛かった。
よし、まずはここが重要部分だ。
次、エルフ魔法研究所へ。
「防腐剤の魔法について研究しているって言ってたよな?」
「はい。」
「研究はどの程度進んでいる?」
「魔法式自体は完成しました。今は効果を少しずつ調整しています。食品でないものなら実用化を進めています。」
「食品はダメなのか?」
「今の技術では強すぎて体内で分解されないのです。食べたものが消化も発酵もされずにそのまま出てきます。……猛烈な腹痛と共に。」
「……それはやだな。」
「ですよね。なので今は効果持続時間を調節し、体内の胃液に反応して魔法が解けるように魔法式を組み替えています。」
「完成したらすぐに報告してくれ。」
「はい!」
時間はかかりそうだがここも道筋は見えている。大丈夫だろう。
次。
「こんな風にアルミを筒状にして……」
「この程度儂にかかれば造作もないわ。」
「作るだけじゃなくて、ほとんど自動で出来るように機械化して欲しいんだ。」
「あん?わざわざそんなもん作らんでも、儂らが作った方が速かろう?」
「今はそうかもしれないけど、大量に作ることになったら機械化した方が良いんだよ。ヴォルフラムだって缶ばかり作ってる訳にも行かないだろ?」
「確かに。じゃが機械は専門外じゃからな。エルフの技術者を寄越してくれ。」
「了解。オリバーに相談するよ。」
次。
「アヤナミ、試食で出したステーキだけど、作り方を出来るだけ細かく書いてくれないか?」
「作り方、と申しましても、肉の様子を見ながら両面を焼くだけですが……」
「それを出来るだけ正確に書き出すんだ。何分焼いたらひっくり返して、また何分焼いて、火加減はどのくらいで……とか、とにかく全部。そのレシピの通りにすれば誰でも同じステーキを作ることができるように。」
「かしこまりました。一度時間を計りながら作ってみます。」
「ああ、頼むよ。」
「このくらいの区画と、このくらいの規模で豚舎を作ってほしい。餌はトウモロコシとかの穀物を中心に、飼育係は……」
「家畜のえさ用の畑も広げた方が良いのう。」
「そうだね。飼料穀物の区画を広げよう。」
「うんにゃ、畑はわしに任せて、お前さんは他のところに行ったらいい。」
「ありがとう、ロベルトさん。あとは任せたよ。」
他にも色々な場所に行って、色々な依頼や相談をして、魔豚の缶詰作りに取り組んだ。