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175.魔王と大精霊とライア

 しばし食休め休憩。

 俺も厨房の片隅で茶でも飲むか。


 なんだかんだ連日肉ばっか食わせすぎたし、焼いてくれるアヤナミも働き詰めだ。

 ライアもそうだし、サラマンダーたちも交代制とはいえずっと魔法を使ってもらっている。

 もちろん俺も疲れている。


「みんなも休憩してくれ。長時間労働お疲れさま。」

「私達は丈夫にできていますから大丈夫ですよ。龍や下級精霊もそうです。」

「そうなのか?まあ、ちょうどいい機会だから休憩しよう。」

「お茶菓子でもご用意しましょうか。」

「いや、今は食べ物はいいや。アヤナミやライア達にあげてくれ。」

「ケイ様が食さないのに私だけ食べるわけにはいきません。」

「えー、アヤナミは真面目だなー。僕は食べたいでーす。」

「では、私もいただきましょう。」

 

 茶菓子を用意するシリウスに、いつの間にかやってきていたイリューシャ。どうやら村人からの伝言を届けに来たようだ。

 伝言を伝え、シリウスが出してくれたクッキーを齧る。

 ライアはともかく、サラマンダーまでクッキーを食べようとしたのは驚きだ。

 ライア曰く、サラマンダーは「火の通ったもの」なら何でも好んで食べるらしい。

 てっきり鉄くずや炭が好物なのかと思っていたら、火さえ通っていれば何でもいいのか。雑食。


「はぁ。それにしても上手くいかないもんだな。」

「サラマンダーたちの要領が良くなった分、近づいてはいますね。」

「焼き加減が不味かったのでしょうか?」

「そんなことはないよ。ただ魔族のみんなの細かい好みに合わせるのが大変なんだ。」


 人の味覚の好みなんて目に見えないもの、どうやっても手探りで合わせていくしかないもんな。

 魔王たちにも相当量の肉を食わせている。

 食べ過ぎて「豚肉はもういい!」とか言い出さなきゃいいけど。


 「てか、こんだけ肉詰め込ませといて『やっぱ出来ませんでしたー』とかなったら、それこそ魔王を騙したとかで敵対関係になったりするんじゃないのか?」

 

 あっちでは強気に出ちゃったけど、魔王や上位魔族に対してかなり無理をさせてるっぽいし。

 ブチギレられたらどうしよう。

 魔族領との戦争なんて、勘弁して欲しい。

 そう言うと、シリウスとイリューシャが同時に答えた。

 

「あの魔王に限って敵対はないでしょ。割とマトモそうだし。」

「十年前なら兵を率いてやってきたでしょうが、今はそのようなことにはならないでしょう。」

「?十年前?なんか関係あるのか?」

「魔王は十年程前に代替わりしたんですよ。」

「代替わり?」

「ええ、まあ、アクエラ様が先代魔王を葬り去ったためですけどね。」

「はぁ!?」


 シリウスがサラリと言う言葉に思わず反応する。葬り去った?勇者とかじゃなく、大精霊であるアクエラ様が??


「葬り去るって、なんでまた……?」

「それは……。」


 気まずそうに目をそらすアヤナミとライア。

 シリウスは「……魔王がご不興をかったと言いますか……。」とらしくもない歯切れの悪い返事。

 そんな中、イリューシャが事も無げに言った。


「確か、先代魔王がアクエラ様に『年増ババア』って言ったんですよ。それで怒り狂ったアクエラ様が魔王城もろとも氷漬けにしちゃって。」

「えええええ……」


 そんな理由で。

 てか、城もろとも氷漬けとか怖すぎるんですけど。


「……まぁ、これについては禁忌とされていますからね。」

「大精霊云々以前に、女性に対し失礼な態度をとった先代魔王が悪いです。私でも気分は良くありません。」

「ケイ様、くれぐれもアクエラ様の前でこのお話はなさらぬようにお願いしますね。」


 シリウス、ライア、アヤナミは気まずそうに言った。


「あ、ああ、わかったよ。それで、どうなったんだ?」

「それで、先代魔王は亡くなったんですけどアクエラ様の怒りは収まらず、同じ悪魔族を絶滅させたところで他の大精霊様方が止めに入ってやっと事なきを得たんですよ。そこから急遽代替わりってことでガルーダ族の現魔王が即位したって感じですねー。」


 なるほど。だから今悪魔族はいないんだな。俺のことを悪魔族の”生き残り”って言ったのもそういうことか。

 というか、他の大精霊たちも止めるの遅くないか?せめて絶滅前に止めてやれよ。


「ですので、現魔王……というか魔族側はアクエラ様関係に非常に気を使っています。その加護を受けたこの地に手出しするほど馬鹿ではないかと。」

「魔王側と交渉するなら、アヤナミでも連れていけば一発じゃない?」

「もうっ。笑い事ではありませんよ!」


 ……話を聞く限り、ここの土地になにかされる可能性は低そうだな。

 魔王との交渉にはアヤナミか。おぼえておこう。


「ま、どうにもこうにもならなくて困ったーって時は僕からエアリス様に口きいても良いですよ。ガルーダ族はエアリス様の直系の子孫だし、魔王も始祖であるエアリス様を蔑ろにはできないだろうし。エアリス様の気が向くかはまた別問題だけどね。」

「イリューシャさん、あまり期待をさせすぎるのも良くありませんよ。エアリス様も他の大精霊も、人間や魔族の小さないざこざに口を出したりはしません。彼らの仕事は世界を見守ること、そして時に世界を調整することなのですから。」


 シリウスがたしなめる。

 なるほど、エアリス様もアクエラ様もガイアス様も、加護をくれたとはいえ”神”なんだもんな。

 そんな簡単に相談して手助けを求めていい相手じゃないってことか。


「シリウス、大精霊が『世界を見守る』ってのはわかるけど、『世界を調整する』ってのはどういうことだ?」

「大精霊や創造神は文字通り『神』ですから、このエルネア世界全体を作り上げ、見守るのが役割です。『世界を調整』とは、時に新たな生物や植物を生み出してこのエルネアに多様性をもたらしたり、また逆に生物を滅ぼしたり災害や地殻変動によって生物の数を減らしたり。そういったこまごました調整を行っているのですよ。」


 なんかスケールのデカい話だな。

 調整のために大災害や地殻変動なんて、俺らちっぽけな生き物からしたらとんでもない話だ。


「大丈夫ですよ。私もそうですが、神々の『調整』が必要なのは数千年、もしかしたら数万年に一度の程度ですから。今すぐに何か起こるというわけではありません。」


 ライアが安心させるように言う。

 ぜひそうあってほしいものだ。

 そういえば、ライアの立ち位置ってどうなんだろう。

 大精霊たちとは顔見知りで親しげだったし、世界樹の精霊ってそもそも何なんだ?


「ライア、ライアは『世界樹の精霊』なんだよな。アクエラ様達大精霊とは違うのか?」

「そうですね。正確に言うとちょっと種類が違います。そもそも――」


 ライアによると、大精霊とは創造神ディミトリオス様がそれぞれの役割に特化して世界を見守れるように生み出した、いわば「ディミトリオス様の子どもたち」のことだ。

 火や水など、ディミトリオス様の力の一部を受け継いでいる。

 世界樹というのは、ディミトリオス様が地上の様子を見るために作り出した「ディミトリオス様の一部」だ。世界樹の周辺で起こったことはディミトリオス様にも入ってくるし、場合によっては世界樹を介してディミトリオス様自身が力を行使することも可能だ。

 世界樹の樹液や葉が生命にかかわるほどの絶大な効果をもたらすのも、生命の創造神の一部だからだ。

 そして世界樹の精霊ドライアド。これは世界樹を管理するための存在で、「ディミトリオス様の分身」に近い。

 動けない世界樹に代わって周辺の環境を整えたり、慈悲を求める生き物たちに施しや制裁を与えたりする。

 意識は別にあるし話せるし触れることもできるが、本体はあくまで樹だ。世界樹が枯れればドライアドも死ぬし、逆に世界樹が枯れない限りどれだけ痛めつけてもドライアドが死ぬことはない。

 すべてのドライアドは生まれた瞬間から意識の底で他のドライアドと知識の共有を行っているらしい。

 世界中に世界樹は複数存在し、ドライアドも複数存在するが、全ての大本はディミトリオス様。

 世界樹もドライアドも「個にして全」なのだという。


「ですので、大精霊か、と言われると少し微妙なところもありますね。でも、ややこしいので同じようなくくりにしていただいて大丈夫ですよ。」


 ……ライア、めっちゃ偉い立場の人じゃん!!!

 ディミトリオス様の分身って、ある意味大精霊より上の立場じゃね?

 普通に会話して畑仕事とか子どものお守りとかさせてたわ。


「その、なんか、すみませんでした。」

「やめてください。最初に言ったように、私は皆さんの仲間になりたいのです。崇拝してほしいわけではありません。」


 ……だから言わずにおいたのに……と、少しすねたようなライア。

 ま、そうだよな。もう三年以上友人として過ごしてきたんだし、今更神様扱いするのも違う気がする。こっちとしてもなんだかくすぐったいし。

 彼女の望み通り、これまで通りやらせてもらおう。


「そっか。ありがとな、ライア。これからもよろしく頼むよ。」

「よろしく頼まれました。さぁ、そろそろ次のお肉を用意しましょうか。」


 ふふふ、と笑うライアに促され、俺達は各自の持ち場に戻った。

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