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171.噂が広まるにつれて

「ん……ここは?」

「気が付いたか。ここは迷宮の入り口だよ。」

「あっ!火龍は!?私……」

「落ち着け。もう全部終わった。俺達助かったんだよ。」

「足を引っ張ってしまいすみません。」

「気にするな。俺も死ぬ寸前だったから。サラの魔物の知識が役に立ったよ。」


 迷宮の入り口に一旦転移し、気を失っているサラにアヤナミが治癒魔法をかける。

 高濃度の魔力に充てられて気を失ったということで、魔力の少ないこの場所にいればすぐ回復するだろうとのことだ。

 エルフ自体、体内の魔力量は高い方だからな。

 大方魔王城でシリウスが威圧した時のような感じになったのだろう。

 龍族の発するプレッシャー。イリューシャの結界越しとはいえ相当なものだったからな。

 逆に俺はなんで平気だったんだろうか。

 シリウスに問う。


「以前も申しました通り、ケイ様の体内には我々三体の龍の魔力が巡っています。ここまでの魔力量に耐えられるのであれば、魔力酔いして体調を崩すことなどまずないと思ってください。大精霊や龍族は別にして、それ以外の魔物や魔族からの魔法攻撃もすべて無効となります。」

「てか、エアリス様に『結界』の祝福貰ってる時点でケガすることはないと思うんだけどねー。ただエアリス様も成龍のブレスまでは想定してなかったっぽいから今回は例外だけどね。」

「魔法攻撃耐性に関しては私達と同じかそれ以上になると思いますよ。私の出番はなくなりそうです。」


 そういえば『結界』の祝福とかもらったっけ。

 どうやら俺の防御力は知らないうちに最強レベルになっていたらしい。

 まあ安全が確立されるなら何よりだ。

 アヤナミがいるからケガをしても大丈夫かもしれないけど、うっかり死んでしまったら終わりだもんな。

 ただでさえ短い余生だ。できるだけケガなく健康に生きたい。


「まあ、みんな無事に脱出出来て何よりだよ。とにかく村に帰ろう。村のみんなも心配してるだろうから。」

「村長と皆さんのおかげで、一生に一度の貴重な経験が出来ました。早く帰って資料として残さないと!」

「洞窟ばっかりでそろそろ空が恋しくなったしね。」

「帰ったら保存食でないちゃんとしたお食事を用意しますね。」

「では、皆様お集まりください。」


 俺たちは村の入り口に『転移』した。







「村長!おかえりなさい!」

「おおーーい!村長たちが帰ったぞ!!」


 村に戻ると、門番をしてくれていたコボルト族が皆に知らせてくれた。

 『荒野の迷宮』へと出発してから十日以上経っている。

 みんな心配してくれていたようだ。

 あっという間に人だかりができた。


「ケイさん!!」

「「「「「旦那!!」」」」」

「ああ、ヘイディスさん。それに『暁』の皆さんも。」

「良かった。戻ってきましたね。お怪我はありませんか?」

「この通り、ピンピンしてますよ。」

「安心しました。私の無茶なお願いのせいで友人を死なせてしまったのではないかと……」

「シリウスたちがいましたから、守りは万全ですよ。」

「まあそうだよな。旦那に限って死んじまうようなことはないと思ったぜ。」

「うそつけ、心配でそわそわしてやがったくせに。」

「それより旦那、冒険の話を聞かせてくださいよ!」

「てか、フレイムリザードいたんですかい?」

「上手く見つけられるか、それも心配だったんですよ。」

「まあまあ、立ち話も何ですしとりあえず屋敷に移動しましょう。ロベルトさん、報告会も兼ねたいからメンバーを集めてくれる?」

「よし、わかった。」


 そして屋敷の食堂でお茶を飲みながらの報告会。

 これまでの十日間のことを話した。

 サラは記憶が薄れてしまう前に記録に残したいとダンタリオンと共に籠ってしまった。

 ダンタリオンは魔王城に勤めていた時に写本や記録の作業スピードを上げる『効率化』という魔法を編み出したらしい。

 なんか事務職極めてるな。魔族って戦闘系が多いイメージだけど、ダンタリオンにいたっては完全に文官だ。


「『荒野の迷宮』じゃと!?あの伝説の場所に行ったというのか。」

「『荒野の迷宮』って言えば、俺ら冒険者の中でも有名な大ダンジョンだぜ。」

「誰もが一度は夢見るダンジョン、そして同時に、誰もが恐れて近寄らない危険なダンジョンだ。」

「まず、入り口にたどり着くまでが相当過酷だからな。普通の冒険者じゃ入り口にすら到達できるかどうか。」

「それに、フレイムリザードだけじゃなくヘルハウンドやアースドラゴンだって!?」

「BランクやAランクの魔物がうようよしてるとか……いったいどうやって生きて帰るんだよ。」

「まあ、戦闘は龍族三人組に任せてたから……」

「あぁ、なるほど。それでもすごいことだぜ。」


 ベヒモスやケルベロスの話を聞かせると、『暁』の皆さんは口を半開きにして夢中になって聞いていた。

 死体を持ち帰れなかったのが残念だが、サラが写真を撮っているみたいだし、後日見せてやることもできるだろう。


「すげぇ……すげぇよ旦那……そんな魔物がいたなんて……」

「ベヒモスやケルベロスなんて聞いたこともない。これまで誰も見たことがない未知の魔物なんじゃないか?」

「その頑丈さや凶暴性を聞く限り、間違いなくSランクだろうな。」

「Sランク……人間に討伐はほぼ不可能、街に出たら全員が非難するほかないというレベルじゃな。」

「そんな魔物が出たら、俺たち冒険者にできることはせいぜい住民の避難の時間を稼ぐことくらいだ。大半は死ぬと思うがな。」

「そんなのに勝った龍ってやっぱすげぇよなぁ。あぁ、できるならこの目でその戦いぶりを見てみたかった……」


 Sランクか……やっぱりベヒモスやケルベロスは規格外の強さなんだな。

 そしてそんなレベルの魔物相手に、ほぼ一方的に蹂躙していた龍族三人組。わかってはいたけど、とんでもない強さなんだと改めて実感した。


 ちなみにスヴァローグやイフリート様については伏せておいた。

 龍族や大精霊の居場所なんて人間が知るべきじゃない。下手にばらして噂が広まって、その威光を利用しようとする輩によってまた遠征軍なんてものが出来たら大変そうだしね。

 というか、子龍や人間が来るだけであの怒りようだったお二人のことだ。

 遠征軍なんてものが来て騒ぎまわったら、それこそ国ごと滅ぼしかねない。

 そして噂を流した俺のことも殺しに来かねない。

 サラマンダー遣わして監視するとか言っていたし。

 うん、このことは黙っておこう。あとでサラにも口裏合わせをしておかないと。


 その後も入れ代わり立ち代わり村のみんながやってきて、冒険の話を聞きたがった。

 俺は何度も何度も話をしてやり、そのたびに部屋中が「おおっ」とどよめいた。

 俺自身は何一つ戦闘に参加していないってのがちょっと気まずいところでもあるが、聞き手にとってはそんなことはどうでもいいようだった。

 あくまでみんなが聞きたいのはどれだけ危険な場所だったか、そしてどれだけ恐ろしい魔物に立ち向かっていったかだった。

 村人のほぼ全員が話を聞きに来たと思う。

 全てを話し終える頃には、辺りがすっかり暗くなっていた。


 夕食はレティシア発案の迷宮帰還祝いだ。

 いつ帰るかわからないからと、準備はばっちり整えていたらしい。

 せっかくなので、フレイムリザードの肉を出してみた。今回もシンプルに焼肉だ。

 塩だけでなくニンニクや焦がし醤油などのタレも相まって火山内で食べた時より美味しく感じる。

 酒もふるまわれ俺たちの意労をねぎらってくれた。

 というのは最初の方だけで、中盤からはまた冒険の話をせがまれたり、好き勝手に食べて飲んで騒いだり。

 結局俺が解放されたのは真夜中になってからだった。

 さすがに疲れた。

 これまでの蓄積した疲労のせいもあったのだろう。ベッドに入るとあまりの寝心地の良さに気絶するように眠ってしまった。






 

 翌日も、村の中では俺たちの迷宮攻略の話で持ち切りだ。

 大人も子どもも、食事をしながら、仕事をしながら迷宮の魔物の話をしている。

 それは良いのだが、一つ気になる点が。

 話をしていくうちに噂に尾ひれがつくように、だんだんと話が大きくなっている気がする。

 主に俺の活躍について。

 戦闘の際は結界の中に立てこもっていて、実際は料理や素材拾いくらいしかしていなかったのだが、いつの間にか俺の的確な采配と勇気ある決断によって一行は苦難を乗り越え、魔物の脅威を危機一髪のところで退けたことになっていた。

 やってもいない功績をここまで讃えられるとなんだか居た堪れない気持ちになってくる。

 子どもたちは「俺たちの村長はどんな魔物にも屈しない英雄だ!」と興奮気味に話していた。

 やめてくれ。

 俺はただのヘタレである。


「村長ってすごいよね!しってる?魔物の群れを一撃で蹴散らしたんだって!」

「そんなの当たり前だろ!なんたって、魔王にも負けないくらい強いんだからな!」

「『でんせつのゆうしゃ』って村長のことなのかな?」

「きっとそうだよ!」


 

 …………。

 これほど村の中が居心地悪いのは初めてかもしれない。



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