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169.龍

「火龍……。」


 そうか、確かここは火龍の管理地とアヤナミが言っていたっけ。

 三人が焦っているのはそれが理由か。

 見るからにさっきまでの魔物たちとは格が違いそうだし、早いとこ謝って退散しよう。


「あの――」

「突然の訪問、あいすみません。下層の落石に巻き込まれ、ここまで避難してまいりました。我々はすぐにでも退散いたします。ご容赦を願いたく――」


「黙れ小僧。」


 シリウスが丁寧に説明を試みるも、一蹴されてしまった。

 直接しゃべってはいるが、さっきと同じ声。どうやらさっきの声もこの龍で間違いなさそうだな。


「お前たちは子龍だな。管理地も決まらぬ子龍がつるんでこんなところにフラフラと……大方自分の力を過信した愚か者だろう。」


 ……あんまり人の話を聞かない龍っぽいな。

 交渉には骨が折れそうだ。

 というか、俺とサラのことなんて見えてすらいないんじゃないか?


 「あの!俺はケイと言います!いきなりお邪魔して申し訳ありません。ここにはフレイムリザードの心核を手に入れるために来ました。あなたと敵対するつもりはないし、すぐ帰るので、見逃してくださると――」


「なんだ?矮小な人間か。身の程知らずに聖域に手を出すとは……よかろう、貴様らのような生意気な小僧どもには分というものを教えてやろう。」


 ゴォッ


 火龍から放たれた衝撃波が俺たちを襲う。

 うわ、足が……気を抜いたら吹き飛ばされそうだ。

 イリューシャが結界を張ってくれたおかげで何とかしのげたが、結界越しでもこの威力かよ。


「ヤル気満々、みたいだね。」

「イリューシャはケイ様達の守りを。あなたの結界が一番強いですから。私とアヤナミさんで相手をします。」

「わかってるって。キミ達の分の結界もバッチリかけておくから、攻撃に集中するといいよ。あ、でも回避は怠っちゃ駄目だからね。」

「わかりました。」

「では、参りましょう。」


 そういうと、二人は龍の姿に戻った。

 深い青色の龍と淡い砂色の龍。単体で見ると家程もある大きな龍だと思ったが、火龍は比べ物にならないほどデカい。

 村の屋敷よりデカいんじゃないか?

 三対一とはいえ圧倒的体格差だが、勝てるのだろうか。


 ふわ……


 アヤナミが白い霧を繰り出す。

 ひんやりと冷たいそれは吸い込むと極度の眠気に襲われ、体がマヒしたように動かなくなるらしい。

 霧が火龍の身体を包み込む。

 しかし


「フン、効かぬな。」


 ゴオッという衝撃波と共に、白い霧は吹き飛ばされてしまった。

 次は巨大な水球(ウォーターボール)をいくつも繰り出す。同時に水刃も放つ。

 しかし、それらは火龍の身体に触れる前に蒸発し消滅してしまう。


「ただの水では効きません……だったら――『絶対凍結(アブソリュート・ゼロ)』」


 ピキィン!


 火龍のいた小島が凍り付いた。

 マグマの煮えたぎる中で凍り付くなんて、とんでもない技だな。

 火龍はすんでのところでかわす。しかし、はじめて火龍が動き、その場から離れた。

 あれに触れたらさすがの火龍でもやばいんだろう。


 飛び立った火龍にアヤナミの『氷結波(フリージングレイ)』、シリウスの『龍鱗』が襲い掛かる。

 火龍は巨体を器用に動かし、時に結界で防御し、時に躰でかわしながらすべての攻撃をいなした。


「あの動きを見るに、氷系の技はあの火龍に有効みたいだね。アヤナミ、どんどん撃っちゃいな。」


 イリューシャの言葉にアヤナミが小さく頷く。


「小賢しい。では、今度はこちらから行くぞ。」


「イリューシャ!来るぞ!」

「わかってますって!」

 

 火龍は機敏な動きで一気にシリウスに距離を詰めると、鋭い爪を振り下ろした。

 イリューシャの結界がそれを阻む。


 ボロッ


「うわマジ!?」


 イリューシャが慌てた様子で結界を張りなおした。

 防いだように見えたんだけど、強度が足りなかったのか?


「イリューシャ、大丈夫か?」

「大丈夫ですけど、あの爪、腐蝕攻撃が付与されてます。普通の結界じゃ腐蝕効果で塵になっちゃいました。魔法攻撃耐性上げたのを多重にかけとこ。」


 腐食攻撃って、まじかよ。

 今までそんな魔物いなかったぞ。どんな属性なんだよ。


 ガガガガッ


 次々と繰り出される腐蝕攻撃の斬撃をシリウスが懸命に躱す。

 アヤナミもここぞとばかりに火龍を攻撃する。

 と、火龍の眼が金色に光った。


「二人とも、目を閉じて!」


 イリューシャの鋭い声が飛び、反射的に目を閉じた。

 火龍が目から光線を出したらしい。目を閉じていても視界が明るい。

 

「もう目を開けていいですよ。」


 光線がやみ、イリューシャの声を聞いてそっと目を開ける。


「今のは?」

「火龍による石化光線です。僕の結界があるとはいえ、直接あの目を見てたら人間やエルフはあっという間に石になってますよー。」

「うわぁ……」

「……イリューシャ殿がいてくれて良かったです……」


 腐蝕に石化。火龍なのに火と全く関係なさそうな攻撃がバンバン来る。

 いったいどうなっているんだよ。

 

「火龍って、炎の攻撃じゃないのか?」

「炎の系譜が司るのは”変質”。物質を変化させるのが得意なんですよ。腐蝕や石化も”変質”の応用だね。これ以上は人化したままだとヤバそうなんで、元の姿に戻ります。二人は僕の足元に隠れてて。」


 そういうと同時に、ビュオッと突風が吹いた。

 イリューシャの華奢な体が瞬く間に巨大な龍の姿に戻っていく。

 真っ白な体にふわふわの鬣、シリウスやアヤナミと違って鱗の代わりに鳥のような羽毛に覆われた姿は真っ白な色も相まって神々しかった。

 そういえば、イリューシャの龍の姿は初めて見たな。

 イリューシャの足元に移動し、尾に包まれるように身をひそめる。

 アヤナミ・シリウスと戦っていた火龍は龍化したイリューシャを見ると、フン、と鼻で笑った。


「龍化で結界を強化したか。どれ、どの程度持つのか見てやろう。」


 ゴオオォォッ


 炎を伴った凄まじい衝撃波が襲い、アヤナミとシリウスは吹き飛ばされる。結界のおかげでダメージは軽そうだが、龍を二体いっぺんに吹き飛ばすなんて馬鹿げた力だ。

 火龍は俺たちにまっすぐ向き直り、口を開けた。

 中では赤黒い炎が渦巻いている。

 頭の中の警告音が鳴り響く。

 魔法のことなんてよく知らない俺でも直感でわかる。あの炎を受けたらヤバいんだと。


 カッ!


 特大の黒炎が俺たちに向かって放たれた。



 

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