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166.『荒野の迷宮』下層②

 橋を渡りトンネルを抜け、次のエリアに行く。

 次はマグマの滝が流れる岩山だった。


 赤黒い岩肌に、ごつごつと尖った岩が点在する。

 足場も少なく、なかなか通り抜けにくい場所だ。


「あ、あれは!?」


 サラが指さす方向には、三メートルほどの巨大なイグアナ?カメレオン?のような生物がいた。

 赤い鱗に金色の角と爪。全身が炎に包まれている。

 あれがフレイムリザードだな。

 見たまんま、「火竜」って感じだ。


「フレイムリザードは水が弱点なんだよな?」

「はい、高温を保っていないと動きが鈍くなります。遠距離から水をかけて弱らせてからとどめを刺しましょう。」

「よし、じゃあアヤナミ、頼んだぞ。」

「はい。」


 アヤナミは一歩前に出ると、両手を軽く広げた。

 灼熱のマグマが流れる岩盤から、勢いよく水が噴き出し、みるみるうちに形作る。

 そしてそれはあっという間に、巨大な水蛟(ミズチ)の姿になった。

 いつだったか、うちの村にやって来たナントカ子爵に対してアクエラ様がかけた魔法と似ているな。


「グオォッ」


 水蛟(ミズチ)に気付いたフレイムリザードは咆哮を轟かせる。

 向きを変え、こっちに突進する体勢をとった。そして足を一歩踏み出したのと同時に、アヤナミの水蛟(ミズチ)も動いた。

 大口を開け、互いに全力で駆ける。

 水蛟(ミズチ)はフレイムリザードを一飲みにした。

 透明な腹の中でフレイムリザードがもがくのが見える。が、水蛟(ミズチ)の腹を破るほどの力はなく、躰の熱を奪われたフレイムリザードはどんどん動きが鈍くなり、やがて完全に絶命した。


「終わりました。どうぞ。」


 アヤナミは水蛟(ミズチ)を解除し、フレイムリザードの死体を俺にさし出した。

 死んだフレイムリザードは躰を包む炎も消え、深紅の美しい鱗がマグマの光に照らされテラテラと光っている。

 こうしてみるとなかなか綺麗だな。

 この躰の中に心核があるのか。

 他のフレイムリザードが寄ってきては面倒なので、一旦トンネルの手前まで死体を引きずって戻る。

 サラに頼んで手早く解体し、心核を探す。

 じっくり観察したそうな顔をしているが、場所が場所なので村に帰った後でな。

 心臓のあたりにルビーのような真っ赤な丸い石があった。

 おそらくこれがフレイムリザードの心核と呼ばれるものだろう。


「この心核は強い耐火・耐熱の効果があり、魔道具にもってこいなんですよ。侯爵が言っていたブローチにするのも良いですし、師匠が生きていたころのエルフの里では重要な建物の屋根に取り付けて火事を防いでいたそうです。勿論皮も鎧や盾に重宝されますし、角や爪も使えます。」


 なるほど、確かに火事を防ぐお守りというのは良い手だな。

 ヘイディスさんに渡す分のほかに、うちの村用に何匹か狩っていこうか。

 皮や他の素材も重宝されるというのなら、ヘイディスさんに売ってしまえばいいし。

 またとない機会だ。存分に狩らせてもらおう。


「よし、フレイムリザードの縄張りに戻ろう。アヤナミ、うちの村用にあと数匹狩ってくれるか?」

「はい。かしこまりました。」


 俺たちは再びトンネルを抜け、フレイムリザードの縄張りに戻った。

 アヤナミの繰り出す水蛟(ミズチ)が次々とフレイムリザードを飲み込んでいく。

 俺たちは吐き出された死体をせっせと魔法鞄に詰めた。

 例によって一匹分は丸ごと魔法袋に放り込んだ。サラがまるで恋する乙女のような顔で鱗を撫でたのを俺は見逃さなかった。冷静沈着に見えても、やっぱりエルフの血なんだな。


 気が付けば二十匹近くのフレイムリザードを狩り、さすがに勝てない相手と悟ったのか残りはマグマの大河の中へ散り散りになって逃げだした。

 俺たちが攻撃をやめても近寄ってくる気配はない。

 今回はこのへんでやめにしとこう。解体も楽じゃないしな。

 サラがせっせと解体し、アヤナミが洗浄の魔法で綺麗にし、俺が魔法袋に収納する。

 一連の流れ作業を黙々と行っていると、どこからか良い匂いが漂ってきた。

 なんだ、このにおい。香ばしくて、妙に食欲をそそるような……?

 匂いの元をたどって辺りを見回すと、足元から立ち上っていることに気が付いた。

 下を見ると、そこには解体で邪魔になったフレイムリザードの肉。

 灼熱の溶岩の上でジュージューと焼けている。

 え、ナニコレ?超美味そうなんですけど!?

 防火手袋をしっかり装着し、岩盤で焼けた肉塊をひっくり返してみる。

 非常に良い感じに焦げ目のついた肉は、こんな迷宮にはふさわしくないごちそうの香りがした。


「サラ、これを見てくれ!」

「村長、何か良い匂いが……これは……!」

「なんかすごい美味そうな匂いなんだけど、フレイムリザードの肉って食べられるのか?」

「さすがに肉の味に関しては何も……すごく美味しそうに見えますが……」


 問題は食べられるのかどうか。こんな美味そうな肉でも実は猛毒なんてことになったらシャレにならない。


「アヤナミ!これって俺たちが食べても害はないかな?」

「え?はい、特に人間やエルフにとって毒となるものは含まれていないようです。」


 よっしゃ。

 そうと決まれば食すの一択だ。

 急遽解体の手を止め、俺たちは溶岩の近くに座ってフレイムリザードの焼肉パーティーをすることにした。


 こんがり焼けた肉の塊をミスリルのナイフでひと口大に。

 耐火特性のある種族なだけあって火が通るのに時間はかかったが、溶岩の遠赤外線効果で中までジューシーに焼けている。

 意を決して、パクリ。

 もぐもぐ。ごっくん。


「美味い!!」


 これは驚き、香ばしさの中に淡白だが上品な旨味の感じられる肉だった。

 溶岩で焼いたことで、まるで炭火の焼き鳥を食べているかのような。

 軽く塩を振っただけでも十分美味い。うわ、これ焼き鳥のタレとか絡めたら絶対合うだろうな。

 ビールと合わせてもいいかもしれない。

 とにかく、あの獰猛な顔つきの、しかもデカいトカゲだというのに、鶏肉のような癖のない味だった。


「美味しいです!フレイムリザードがこんなに美味しかったなんて!新発見ですよ!」


 サラも興奮しながらバクバク食べている。

 まさかこんな場所で焼肉が楽しめるなんて。

 ダンジョンも来てみるもんだな。


「村長、計画変更です。捨て置いたフレイムリザードの肉もすべて持ち帰りましょう!」

「そうだな。村のみんなへのお土産としてふるまうのもいいかもしれない。」


 シリウスとイリューシャがせっせとフレイムリザードの肉をかき集めてくれている間、俺たちはアヤナミが焼いてくれたフレイムリザードの肉を存分に味わった。









「ふう、腹いっぱいだ。」

「とても美味しかったです。」


 フレイムリザードの焼肉を存分に楽しんでしばし休憩。

 色々あったけど、当初の目的は達成できたな。

 さて、あとは帰るだけだが――


 ――ズシン、ズシン。


 どこからか地鳴りがした気がする。


 ――ズシン、ドシン。


「グルオオォォォオ」


 目をやった先には、鋭い角の生えた巨大な魔物が仁王立ちしていた。



 

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