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165.『荒野の迷宮』下層①

「うわ……すごいな……」


 たどり着いたそこは、灼熱の地獄だった。

 耐熱結界越しでもじんわり伝わる熱。これ、結界魔法使えない人間が踏み込むのは無理だろ……。

 まず目に入るのは赤や黄色に光りながらドロドロと流れを作るマグマの川だ。

 当り前だけど、落ちたら死ぬな。

 地面や壁は黒っぽく、煮えたぎるマグマの光に照らされて赤黒く染まっている。

 中層よりもさらに広々としているが、流れるマグマのせいで行き先が限定されているのが痛い。

 ここにフレイムリザードがいるのだろうか。


「というか、こんなところにいる魔物を良く倒せたよな。」


 心核が有用であるということを知る者がいる。

 ということは、実際にフレイムリザードを倒してその死体を持ち帰った者がいるわけで。

 サラに問うと、すぐさま答えてくれた。


「火山の内部にいるフレイムリザードは倒せませんよ。たまに地表近くに出てくる”はぐれ者”を、冒険者総出で狩るんです。まあ数十年に一度くらいの頻度だと思いますけど。」


 なるほど。確かにこのエリアで狩るのは骨が折れるだろう。

 地の利が悪すぎる。

 ……あれ?俺達今からこのエリアでフレイムリザード狩るんじゃなかったっけ?

 だ、大丈夫だよな?俺達。

 

「こちらです。」


 シリウスを先頭にどんどん進んで行く。

 マグマの川にさえぎられている場所は、シリウスによる魔法の橋を渡って進んだ。

 安全がわかっているとはいえ、マグマのすぐ上を歩く時の恐ろしさと言ったら。

 半年しかない寿命がさらに縮んだ気がするぜ。


 最初にかち合ったのは、狼かと思うようなサイズの犬の群れだった。

 あの、口から火が出てますけど。

 真っ赤な体に、マグマのようにギラギラと赤く光る眼。


「サラ、あれは何だ?」

「確か、ヘルハウンドだと思います。詳しいことはわかっていません。」

「せいか~い。ヘルハウンドだよ。見ての通り、口から火を吐く困った子だよ。」


 下層の魔物ともなると、サラでも良くわからないものがあるらしい。

 代わりにイリューシャが何とも気の抜けた解説をしてくれた。


「所詮は犬。さっさとご退場いただきましょう。」


 シリウスがミスリルの散弾を飛ばす。

 ヘルハウンドは素早い動きで跳躍しそれを避ける。

 

 グサッ、ザシュッ


 着地した地面から何本もの鋭い杭が突き出し、ヘルハウンドたちを串刺しにした。

 腹を串刺しにされて絶命したひときわ大きなヘルハウンド。恐らくこいつがボスだったんだろう。

 ボスを失ったヘルハウンドたちは攻撃をやめて俺達から距離をとった。


「少しは知能があるようですね。引き際を見極めるのは大事ですよ。」


 絶対的強者のシリウスは悠々と歩く。俺たちも急いでそれに続いた。

 俺たちを取り囲むようにしていたヘルハウンドたちも、警戒はしていたが威嚇することもなく、襲ってくることもなかった。







 

 ヘルハウンドの群れを越えて進むと、赤く光る点がいくつも見えてきた。

 マグマ?いや違うな?なんだ?

 近づいてみると、それはこちらをにらんでいる巨大な狼の目であることが分かった。

 真っ黒な体躯につま先や尾の先が赤く燃えている。

 明らかにやばい、見てわかる。


「イリューシャ、あれは?」

獄炎狼(ヘルフレイムウルフ)、口から火を吐くのは勿論、体に触れただけでも燃えちゃいますよ。あと下手な武器だと溶けてなくなっちゃうかもね。」


 怖すぎだろ、まるで動く炎そのものじゃねえか。

 怯える俺とは対照的にアヤナミが前に出た。

 炎には水、相性的にはこっちが圧倒的に有利だが、あまり戦闘に参加しない優しいアヤナミ、大丈夫か?


「グルルルルルル」


 獄炎狼(ヘルフレイムウルフ)が低く唸る。

 アヤナミもまっすぐに獄炎狼を見つめる。


 ビシッ、パキィン!


 獄炎狼(ヘルフレイムウルフ)が動くより早く、アヤナミが魔法を発した。

 灼熱のエリアの中でもはっきりと感じられる冷気は真っ直ぐに獄炎狼(ヘルフレイムウルフ)を捕らえ、瞬く間に氷漬けにした。

 その間およそ0.5秒。

 まさにあっという間に決着がついた。

 こちらをにらみつけたままの状態で綺麗に氷漬けにされた獄炎狼(ヘルフレイムウルフ)は、まるでガラスに閉じ込められた剥製のようだ。

 仲間がやられたのを見た獄炎狼(ヘルフレイムウルフ)がさらに二体応援に駆け付けるが、アヤナミはその二体も淡々と決められた作業のように冷気で捕え、凍らせる。

 炎ごと凍らせるレベルの冷気って一体何事だよ……。

 

 その後も俺たちの行く先に現れる獄炎狼(ヘルフレイムウルフ)を次々に氷漬けにし、完全に戦意を喪失させるまでに時間はかからなかった。

 

 大人しいと思いきや、一撃必殺、容赦なし。

 アヤナミを怒らせるのはやめておこうと心に誓いました。







 さて、獄炎狼(ヘルフレイムウルフ)たちはアヤナミの姿を見て退散し、のこった氷漬けの死体をサラが魔法袋に入れ(全部は多すぎるから二体だけだ)、一行は次へと歩きだした。

 マグマの大河にかかる一本の橋、その先が次のエリアへと続いているようだ。

 橋のすぐ向こうに何かがいる。

 青白銀に光る三メートルほどの巨体。――ゴーレムだ。


「シルバーゴーレム?」

「いや、あれはミスリルかなー。全身総ミスリル製のゴーレムとなると、人間たちにとってはちょっと厄介かもね。」


 全身総ミスリル。

 つまり物理攻撃も魔法攻撃もほとんど効かない。

 こんなマグマの上に立っているところを見ると、炎も効かないし水も効かなそうだ。

 かろうじて攻撃が通ったところで、中の核を壊さない限り何度でも自動修復されてしまう。

 ミスリルより硬い武器って何だ?そんなもの存在するのか?

 物理も魔法も効かないって、ほとんど無敵じゃないか。

 さすが『荒野の迷宮』下層、とんだチートを配置するものだ。


 対するシリウスは余裕の笑みで、「ここは私が。」とアヤナミに告げる。

 最強のミスリルゴーレム相手にシリウスはどうするのだろうか。


「では、まずは耐久戦と行きましょう。どこまで耐えられますかね。」


 そういうとシリウスは無数のミスリル片を生成する。そしてそれを一斉に放った。

 前から後から頭上から、ミスリルの散弾が炸裂する。


 ガガガガガガガガッ!!


 ミスリルの散弾が、ミスリルのボディーにぶち当たる。

 ミスリル対ミスリル。

 どちらに軍配が上がってもおかしくはない。


 もうもうと上がる煙の中、ミスリルゴーレムは立っていた。

 シリウスの散弾を受けたボディーはボコボコになり、ところどころかけてしまっている。

 しかし、内部へ届く致命傷には至らなかったようだ。

 ヴン、とミスリルゴーレムの眼が光ったかと思うと、傷つけられたボディーはみるみる修復されていく。


 完全修復したミスリルゴーレムは、巨体に似合わず素早い動きでシリウスに襲い掛かった。

 重厚な腕を勢いよく振り下ろす。ズシンッと地響きがし、打ち下ろされた地面は大きくへこんでいた。

 土の地面じゃなく岩盤だぞ!?これ、一発でも当たったら即アウトだろ。

 獣のような素早さで次々に攻撃を繰り出すミスリルゴーレム。シリウスは軽やかにそれらの攻撃を避け、その長い脚で渾身の蹴りをお見舞いする。

 てか、肉弾戦も行けるのかよ。見た目は細身の知的なイケメンなのに。

 ミスリルゴーレムは腕でガードし受け止める。腕の装甲は、シリウスの蹴りにより少々へこんでいた。

 ミスリルの装甲を蹴り一つでへこませるとは……細身の男に見えてもさすがは龍だな。というか頑丈すぎて怖い。

 

「ほう、これは耐えましたか。では次です。これは――」

「ちょっとー、遊んでないで早くしてよ。僕だって遊びたいの我慢してるんですけど?」


 楽しそうなシリウスに後ろから文句が飛ぶ。

 さっきまで「僕の役目は……」と大人の対応をしていた人とは思えないほど、頬を膨らませぶーぶー言っている。

 そんなイリューシャを見て「わかりましたよ。」と苦笑するシリウス。そしてミスリルゴーレムに向き直った。


 「これ以上は怒られてしまいますので、これで終わりにしましょう。」


 そういうと指をパチンと鳴らした。

 その瞬間、ミスリルゴーレムはビクンッと小さく跳ね、そのまま動かなくなった。眼の光も消えている。


 ……ん?なにがあった?

 シリウスが何をしたのか全く見当がつかない。アクションが少なすぎる。


「えっと、シリウス、今何をしたんだ?」

「核を破壊しました。ゴーレムですので、中の核さえ破壊してしまえば動くことはありませんよ。」

「そうじゃなくて、どうやって……?」

「ああ……このように。」


 崩れ落ちたミスリルゴーレムの装甲を裏返す。

 すると内側は鋭い針が無数に伸び、中の核を貫いていた。


「ミスリルゴーレムの外殻であるミスリルを、私の力で”構築”し直したのです。さすがに体内まで防御することはできなかったようですね。」

「お、おう……」


 いや、相手のボディーをそのまま武器に作り替えるとか、そんなんありかよ!

 体の内側からいきなり針が出て心臓串刺しにされるとか、怖すぎるんですけど!


 固まる俺とサラを尻目に、ミスリルゴーレムの外殻と核をせっせと魔法袋に入れる三人。

 ……ほんと、万が一にも敵対してなくて良かったわ。



 

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