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164.下層へ

 下層に行く前に、俺たちはここで一夜を明かすことにした。

 下層は溶岩流の通り道、今よりもさらに過酷な道になることは必至だ。

 アースドラゴンもいなくなったし、ここで十分に休養をとって進むのが良いだろう。


「やっぱ、大迷宮なだけあって広いな。」

「それでも、私達はシリウス殿のおかげでほとんど最短ルートで探索できていますから……本来であれば上層だけでも何十日も彷徨う羽目になると思います。その分魔物とのエンカウントも多いでしょうし、気力も体力も相当消耗するはずです。」

「僕も何となーく周りの構造把握しているけど、道を一本間違えただけで相当大変なことになりますよ。」

「私達よりも地形把握に長けている、地龍であるシリウスさんに感謝ですね。」


 そうだったのか。まあ、そうだよな。

 普通の人間が迷宮を最短ルートで攻略できるはずがない。六百年ほど前の遠征軍とやらはきっと正解の見えない洞窟の中を何十日も彷徨い続けたんだろう。

 うわ、考えただけで恐ろしいな。

 龍族がいてくれて良かった。それも三体も。

 

「それにしても、中層でここまでの魔物が出るなんて……」

「俺は魔物とか全然わからないんだけど、ここの魔物って相当強いんだよな。」

「当然です。ロックリザードやゴーレムでCランク、ガルムやブラックケイヴパンサー、ジャイアントケイヴバイパーなどはBランク、通常は熟練の冒険者や軍隊五十名ほどが束になってようやく敵うかといった相手です。さらにアーマーサウルスやアースドラゴンなどはB+ランクに相当するでしょう。」

「そんなにか?」

「ええ、本来こんな少数のパーティーで討伐できるような魔物ではないのですよ。今は亡き私の魔物研究の師匠も、アースドラゴンに遭遇して命からがら逃げ伸びたと言っておりましたし、敵対すること自体死を意味するに近いです。」

「じゃあ、サラはアースドラゴンを見るのは初めてなのか?」

「はい!なのでぜひとも村に持ち帰って研究したいのです。またとない機会ですから……」


 ダメですか?と上目遣いでお願いするサラ。普段クールビューティーな女性がいきなりそんなギャップを見せると男は弱いんだ。

 まさか、最初からそれを狙ってやっているのか!?サラ、恐ろしい子……!


「も、持ち帰るのは良いけど、俺の鞄に入るかな?」


 魔法鞄には様々な野営道具や食料をはじめ、今まで倒してきたブラックケイヴパンサーの毛皮やホーンサーペントの角など魔物の素材も結構入っている。

 まだ余裕があるとはいえ、さすがにこの巨体は入らないのでは。

 仮に入ったとしても、俺たちの目的はフレイムリザードの心核だ。それが入らなくなっては困る。


「ケイ様、それでしたらこちらを……」


 アヤナミがスッと差し出したのは、屋敷に保管していた魔法袋だった。


「もしかしたらこういうこともあるかと思い、勝手な判断ではありますが持ち出してまいりました。」

「うお、まじか!いや、全然いいよ!よく気付いたな。」


 やだ、なんてできる娘。さすがはアヤナミである。

 決して出しゃばらず控えめな態度を貫いているが、有能さがあふれ出ている。

 ”勝手に”とは言っていたが、貸し出しの管理はほぼアヤナミに任せていたようなもんだから何の問題もない。

 サラも「これがあれば……!」と顔を輝かせている。

 俺の許可も下り、サラは弾むような足取りで中央に横たわるアースドラゴンの死体に駆け寄っていった。

 『小型転写機』でその全体像を撮り、さすがに大きすぎるのでいくつかの部位に解体して魔法袋に入れる。


「村長、魔法袋もたくさんあることですし、下層の魔物も持ち帰っても構いませんか?本来私なんかがこのような場所にこれるチャンスなど無きに等しいのです。今後の魔物研究や人々の安全にもかかわります。どうかお願いします!」


 どうやらアースドラゴンは勿論、それ以上に強い魔物となると資料がほとんどなく、生態がわからないままだという。

 六百年ほど前の遠征軍の記録にも中層あたりのものまでしかなく、その先へは進めなかったと考えられている。

『荒野の迷宮』の下層に入るこの機会は貴重だ。ぜひとも記録に残したいというのはサラだけでなく全人類の願いともいえるだろう。

 俺としては何の問題もない。フレイムリザードの心核さえしっかり手に入れられれば、あとは何を持ち帰ってもOKだろう。


 俺たちはしっかり食事をとり、就寝した。

 そして翌日、温かいスープとグリッシ特製のカンパーニュで朝食を済ませ、準備は万端。

 下層へと続く大穴へ向かった。


「デカいな。そして深いな。」

「昨日のうちに調べておきましたが、深さは約百メートルといったところでしょうか。」

「下にちらちら赤く見えるのは?」

「マグマの川のようです。広くはありませんが足場もしっかりあるようですのでご安心を。」


 シリウスがしっかり下調べをしてくれていたみたいだ。


「ここからは選手交代、アヤナミが主力だね。僕は結界に集中するよ。」

「いいのか?戦いたいみたいに見えるけど?」

「僕の役目はあくまでケイ様を守ることですから。今回は僕が下がるのが最良です。」


 一見軽薄で快楽主義にも見えるイリューシャだが、以外にも自分の仕事を弁えているんだな。

 自分の好きなように前に出ることもできるだろうに。

 これが「大精霊の世話係」として生み出された存在か。

 

 今まで前を歩いていたイリューシャが俺の後ろに来た。そしてアヤナミが前へ。

 下層は灼熱のマグマ地獄だ。当然生身の人間など燃えてしまう。

 イリューシャの耐熱結界で一行はしっかりと守られた。

 あと、全てを消し去る物騒な結界(退魔結界というらしい)はここからは無し。うっかりフレイムリザードの心核を消し去ってしまっては意味がないからな。

 対物理結界、対魔法結界、耐熱結界の三重で包んだ。


「では、参りましょう。」


 シリウスの作った金色の円盤に乗り、俺たちは静かに下降していった。

 

 






 

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