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16.祝福

本日もう1話投稿予定です。

 目が覚めると小屋の中だった。

 そっと起き上がり、持ち込んだものを確認する。よし、無事に全部転送できたようだ。

 早速明日みんなに渡そう。とりあえず外はまだ真っ暗なので二度寝する。

 二日間快適な病室のベッドで寝たせいか、なかなか寝付けなくなっていた。


 朝、大量の転送物を「神様が授けてくれた」と言って広場に運ぶ。

 ロベルトさんとセシルにも運ぶ手伝いをしてもらったが、二人とも大興奮だった。

 「神様の御心に感謝いたします」としきりに天を仰いでいた。

 ……ここの人たちって、ディミトリオス様の名前を知らないんだろうか。だったら俺もみんなの前では「神様」で統一しよう。


 広場で合流した女性陣も驚きのあまり口が開きっぱなしだ。

 とはいえ、いつまでもこのままじゃ話が進まないので早速使い方等を説明する。

 棟梁ノームもやってきたので、朝食をともにしながら今日の予定を話し合う。

 今日から大人組は予定通り探索だ。

とはいえ畑や家造りを丸投げするわけには行かないので、二グループに分かれて交代で探索することにした。

 片方が探索する日はもう片方が村で仕事。これを一日ごとに交代する。


 初日はロベルトさんとマリアさんが探索担当になった。俺はノームたちに家や水路なんかの指示を出さなきゃならないので二人が気を利かせてくれた。『賢者の書』を読めるのは俺だけだからな。

 今日説明を終えてしまえば、後はノームたちがやってくれるだろう。


 テレサ、セシル、フランカは畑の種まきをすることになった。

 今回追加で持ってきたのは単作作物のニンジン、ジャガイモ、ハツカダイコン、それに新たに小麦だ。

 綿花と亜麻はまだ出さないでおく。これは森で発見できなかったときの最終手段だ。


 ノームたちも続々と集まってきた。

 引っ越しの荷物は一旦広場においてもらう。木材などの加工道具はそのまま加工所エリアに設置。

驚いたことに、彼らはセメントの技術を持っていた。森を少し行ったところに石灰岩の露出した場所があるらしい。

よし、これなら漆喰壁の家ができる。

 『賢者の書』のハーフティンバー建築のページを広げ、これからはこの作り方で作ってほしいことを伝える。ノームたちはかわるがわる『賢者の書』を覗き込み、難なく構造を理解したようだ。




 早速作業開始。

 俺は食堂の広さと間取り、水路の設計など、順番に説明して回った。

 ノームたちの家は完全丸投げだ。住みやすいように好きに作ってくれればいい。

 セメント技術があるので、水路は急遽コンクリート製にした。ちょっと大変だけど後のことを考えるとその方が断然いいと思う。

 見ていて気がついたのだが、木材運びや実際の建築は男性?ノームが、資材の加工などの作業を女性?や小さな子どもノームが行っている。適材適所、しっかり役割分担ができているんだな。

 そして資材加工の手さばきの速さと正確さ。日本にもここまでの熟練の業はなかなかないんじゃないだろうか。

 宮大工づくりほど複雑な作りではないからか、作業がどんどん進んでいく。

 俺はあっちこっちに顔を出して回ったが、最終的にセメントをかき混ぜる担当に落ち着いた。大した戦力になれず申し訳ないが、できることをやっていこう。

 漆喰づくりに関しては、作り方だけ伝えてあとはノームたちに任せた。俺の拙い説明と『賢者の書』の簡易イラストで理解してしまうのだからすごい。

 石灰石を焼いたり混ぜたり、きびきび動く。

本当に土木関連はなんでもいけるんだな。

ハイスペックで羨ましい。







 夕方にはすべての建物の外枠が完成した。

 後は土壁が固まるのを待って、漆喰を塗れば外側は完成。その後家具を設置する。

 ノームたちはどんな家に住むのかと気になって覗いてみたら、見た目は食堂と同じハーフティンバーだった。どうやらあえてデザインを統一してくれたらしい。

 ただ、個別の家ではなく集合住宅を何棟か立てた団地形式だ。一つの建物に二十~三十人くらいが住むらしい。

 いつか彼らの家に遊びに行ったりは……うん、無理だな。入れない。


 テレサ一家は畑仕事を終えて夕食を作ってくれていた。

 畑が広がった分、水やりが大変だったようだ。

「早く水路ができるとありがたいね。」と汗を拭きながらぼやいていた。


 夕食ができる頃、ロベルトさんとマリアさんが帰ってきた。

 一メートルは超えているであろう大きなイノシシを仕留めていた。

イノシシの下を見るとノームたちが抱えてせっせと運んでいる。相変わらずの力持ちだな。

 そしてロベルトさんもさすが元兵士、年齢を感じさせない立ち回りだったようで、マリアさんが興奮気味に話してくれた。


そんなマリアさんも木苺をたっぷり抱えており、探索の成果は上々のようだ。

 立ち話もそこそこに、全員席につく。ノームたちには申し訳ないが今日も地面で食べてもらう。夕食を食べながら、今日の報告会だ。


 ロベルト・マリアの探索チームは、南のエリアにってきたらしい。以前、木苺や栗の木を見つけた周辺を中心に、川の向こうまで行って来たとか。

 木苺のエリアには他にも樫の木やシイが多くあり、秋には多くの木の実が期待できそうだと言う。

 また、木の実を狙ってイノシシやシカがうろついており、狩場としても期待できる。川の向こうはなだらかな丘で草が生い茂っており、もしかしたら綿花があるかもしれないとのことだった。

 なるほど、夕食を食べながらしっかりとメモしていく。割と俺たちの生活エリアに近いので、ここは定番スポットになりそうだ。

 綿花が期待できるという丘にも、早速明日行ってみよう。


「明日は私とケイの番だね。早速その丘とやらに足を伸ばしてみようか。」

「じゃが、野生動物には気をつけるんじゃぞ?」

「わかってるよ。ケイもそれでいいね?」

「ああ、ただ、もし凶暴な野生動物が出た場合ロベルトさんのように戦える自信はないな……。」

「それならノームたちがついておる限り安心じゃ。機敏な動きで敵を翻弄してな、わしが言うのもなんだが、なかなかの立ち回りだったぞ。」


 ロベルトさんは笑顔でそう言うと、人差し指を突き出し、もはやおなじみとなったポーズを取る。

 ノームたちって戦いもできるのか。まあ、森の中でくらしているんだからある程度の術は身につけているんだろう。


 俺たちの方の進捗状況も報告した。

 ノームたちの技術力の高さを伝えると、「たいしたもんじゃのう……。」と改めて感心していた。







 それから一週間、俺達は交代交代で探索・畑・建築を進めた。


 木苺は木ごと引き抜いて畑エリアに移植。

 またサクランボやプラムなども発見し、果実エリアを作った。

 野生の果実なので甘さが少なく、「すっぱーい!!」とフランカは気に入らない様子。

 ライアがここぞとばかりに品種改良を試み、現在改良品種を育てている。

 また、嬉しいことにオリーブの木も発見したのでこれももちろん移植。これでオリーブオイルが作れる。

 ライアの力でどんどん株分けされるので、収穫が待ち遠しい。


 綿花も無事に発見し、三日かけて大量に入手。

 大麻は残念ながら発見できなかったため、俺の持ち込んだ亜麻を栽培した。

 世界樹の加護のおかげで成長が早い早い。もう少しで亜麻第一号が収穫できそうだ。

 ノームたちに綿繰り機や機織り機なんかも作ってもらい、いざ製糸作業へ。

 テレサは休む暇もなく服作りに専念し、見事綿を使っての新たな服第一号が完成した。

 記念すべき第一号はフランカに。フランカは大喜びだった。

 姉貴デザインも好評で、特に女性陣の袖丈の調整はありがたいと喜んでいた。

 うんうん、これはしっかり姉貴に伝えてやろう。きっと更に燃えてくれると思うぞ。




 そして喜ばしい発見。

 なんとフランカが『祝福』持ちであることが発覚したのだ。

 きっかけはシルクスパイダーだった。探しに探し回って、なんとか一匹捕獲。

 だが当然虫なので言葉は通じないし、糸は吐くものの近づくと威嚇するため糸なんか取れやしない。まあ、自分の巣を壊されそうになってんのに「はいどうぞ」と大人しく差し出すはずがないよな。

 そんなとき、フランカが「あのね、私達お洋服がほしいの。それであなたの糸を分けてほしいの。絶対に乱暴しないし、お家とご飯もあげるからだめかなぁ?」と蜘蛛に話しかけた。

 俺たちはフランカの無邪気さにほっこりするものの、相手はタランチュラ級の大きさの蜘蛛だ。威嚇の拍子に噛まれでもしたら危険なので引き離そうとする。

 するとフランカの言葉を聞いた蜘蛛が大人しくなったのだ。

 さらに蜘蛛とフランカは数秒見つめ合い、「もうちょっと広くて明るいお家がいいんだって。あとお肉とオリーブの実が好きみたい。」と言い出した。

 さすがにこれはただごとではないと、ライアに相談。するとライアがこんなことを告げたのだ。


「この子は多種族の生物と心を通わせる『祝福』を持っているようです。蜘蛛やノームたちと意思疎通ができていたのはこの『祝福』のおかげでしょう。」


 詳しく聞くと、フランカには虫や動物、果ては魔族の言葉を聞き取れる。またフランカの発する言葉は虫たちにも理解できる言葉となって届くというのだ。


 当然その夜はお祭りさわぎだった。

俺に続く2人目の『祝福』もち。厳密に言えば俺のは少し違うけど。

 テレサはフランカをギュッと抱きしめ涙を流す。他のみんなも歌え踊れの大騒ぎだった。

 セシルは少し羨ましそうにしていたものの、妹が祝福持ちということでとても誇らしげだった。


 そんなフランカの『祝福』のおかげで、シルクスパイダーは俺たちに協力的になった。

 この蜘蛛、かなり優秀である。

 シルクスパイダーの糸は紡ぐ必要がなく、巻き取るだけで丈夫で光沢のある糸になるのだ。

 さらにフランカが糸の巻取り係をしていたのだが、その手付きを見てどうすればよいかを理解したらしく、自分で糸巻きまでしてくれるようになった。

 フランカは「シルキィ」と名付けかわいがっている。

 シルキィは肉とオリーブの他に地球産のたまねぎが気に入ったらしく、大量に食べては糸を吐き続けた。

 シルクスパイダーは食事の量に応じて糸の生産量が増えるため、一匹とはいえかなりのシルクができた。過食、過労が心配になったが、食事と生産を繰り返して成長して行くものらしく、捕まえたときより元気そうだ。

 もともとタランチュラのような短い毛で覆われていたのだが、毛の量も増え、薄い金色のもふもふの蜘蛛になった。


ブクマ、評価、どうぞよろしくお願いします!!

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