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159.荒野の迷宮

 村を出て、まずは蜘蛛の洞窟に転移する。

 アラクネに会って話を聞くためだ。

 同じデスマウンテンの麓に住むアラクネなら、フレイムリザードの住処やデスマウンテンの内部のことも知っているかもしれない。


「アラクネ、いるかな?」


 最深部の広い空間に着くと、デーモンスパイダーたちが鎮座していた。そのうちの一匹が俺たちを見てさらに奥へと進んで行く。しばらくすると、デーモンスパイダーがアラクネを連れて戻ってきた。


「今日は大所帯だな。どうした?」

「実はさ――」


 俺たちはこれまでの経緯についてアラクネに説明した。

 説明が終わると、アラクネは口を開いた。


「フレイムリザードか。火の者と我らは生活が合わんからまず交わることはない。我ら蜘蛛の一族はデスマウンテンの麓やその周辺の洞窟をねぐらにしているが、フレイムリザードたちはもっと内部の方だろう。山の内部に入る道はいくつかあるが、手っ取り早いのは山頂まで登って火口に飛び込むことだ。まあできるものは限られているがな。人間でも入れる入口なら――そうだな、南側の麓に大きなダンジョンの入り口があると聞く。中が入り組んでいて道のりは遠くなるが、比較的安全に内部に入れるだろう。」

「大きなダンジョンって、まさか『荒野の迷宮』のことですか?」


 アラクネの説明に、驚いたように声をあげたのはサラだ。

 なんだ?『荒野の迷宮』って?


「サラ、なんだ、その『荒野の迷宮』ってのは?」

「『荒野の迷宮』は、この大陸でもっとも大きなダンジョンの名称です。複雑に入り組んだ洞窟はデスマウンテンの内部から、南の『不毛の大地』の地下全域にまで張り巡らされ、その大きさは小国群の半分の面積にもなると推測されています。昔人間の書いた文献で読みましたが、今から六百年ほど前、小国群がまだ『ビリンガム王国』という一つの大国だった頃、一万人の軍を率いて『荒野の迷宮』の攻略を試みました。しかし、誰一人として無事に戻ってくることはありませんでした。ただ一人、魔導師だった男が城に戻り、記録を残すも、ケガや疲労が凄まじく三日後には亡くなったと……」


 まじかよ。そんなところに俺たち行こうとしてんのか。

 でもここまで来たらもう後には引き返せない。

 それに、こっちにはアヤナミ・シリウス・イリューシャの三人がいるんだ。

 まだ半人前とはいえ龍が三体。そのパワーは一万の軍勢より強力だろう。


「アラクネが言うのは、その『荒野の迷宮』で間違いないのか?」

「人間たちにどのように呼ばれているかは知らんが、おそらくそうだろう。中には様々な魔物がいる。当然上層よりも中層、中層よりも下層の魔物の方が強い。心していくことだ。とはいえ、この私を簡単に従えるそなたなら大抵の魔物なら問題ないだろう。あとはダンジョンはこの『蜘蛛の洞窟』よりもかなり広く複雑なつくりをしている。方向を見失わないように注意することだ。」

「わかった。ありがとう。あ、シルキィにもよろしく言っといてくれ。」


 アラクネから情報を聞き出し、蜘蛛の洞窟の入り口までもどる。

 そこからはシリウスに乗ってデスマウンテンの北側へ回り、上空から入口を探す。


「デスマウンテンが噴火した際の溶岩は南側に流れ出ることが多く、その火砕流のせいで南側一帯は草木の生えにくい荒野になってしまったそうです。『不毛の大地』と呼ばれています。」

「へぇ……」


 サラのガイドを聞きながら下を見ると、なるほど、俺たちがいた森とは全く違う。

 赤茶けた岩肌の大地がどこまでも広がり、木々もぽつりぽつりと生えるだけだ。

 水場の気配もない。ここで生きていくのは厳しそうだな。

 この荒涼とした大地にも、『荒野の迷宮』の入り口があるらしい。

 六百年前の遠征軍はそのうちの一つを発見して入ったんだとか。


 デスマウンテンの岩肌も、南側の方が赤黒くてごつごつしている。

 上空からいくら見ても、それらしき洞窟の入り口は見つからない。


「……ないな。」

「見つかりませんね……」

「私も龍になって別行動で探しますか?」

「それよりさー、一回下に降りません?僕いい方法知ってるんです。」


 イリューシャの言う通り、俺たちは一旦山の麓に降りた。

 イリューシャの言う「いい方法」って一体なんだろう。まさか山ごと吹っ飛ばすとかしないよな?

 

「イリューシャ、『いい方法』ってのは何だ?」

「ケイ様、忘れてもらっちゃ困りますよ。僕は風と支配を司る龍だってこと。」


 そういうと、何もない空間に手をかざし、「シルフ、出ておいで」と呼び掛けた。するとあちらこちらからシルフがしゅるんしゅるんと現れ、イリューシャの前に並んだ。

 うちの村のシルフじゃない、ここら辺を住処にしている個体なんだろう。

 イリューシャは集まったシルフ達に小さく告げると、シルフ達は一斉に飛び去った。


「ここら辺のシルフ達に洞窟の入り口を調べさせています。シルフの全情報は僕に入ってくるので、見つかるまで僕たちはのんびり待ちましょー。」


 「ケイ様も座って座って」と、いつの間にか敷かれた敷物の上で手招きする。

 そして険しい山の麓で五人座ってのお茶会が始まった。

 

 ……え、こんな優雅な感じで大丈夫?







 

 しばらくして、昼寝をしていたイリューシャが起き上がった。

 というか、ダンジョンに行こうってのに普通に昼寝するな、しかもこんな険しい山で。


「どうした?」

「ケイ様、ビンゴです。見つかりましたよ!」


 そうとくればさっそく出発。アヤナミによってお茶会セットは瞬く間に片付けられ、イリューシャの風移動によって問題の場所までひとっ飛び。

 たどり着いたそこはせり出した岩に隠れるようにあった小さな穴だった。

 蜘蛛の洞窟に比べて大分小さいな。大人の男だと背をかがめて入らないといけない。

 大型の魔物が出てくる心配がない一方で、中で襲われて一刻も早く出たいときにはかなりきついな。

 まあ、出入口付近にそんなに凶悪な魔物がいないことを願う。

 身をかがめて狭いトンネルを二十メートルほど進むと、広い空間に出た。広いと言っても天井まで三、四メートル、通路の幅も同じくらいの細い道だ。

 とはいえ、ずっとかがんだ状態で移動せずに済むのは楽だ。

 軽く伸びをし、態勢を整える。持ち物よし、『水神の眠り(トライデント)』よし、サラの作った灯りで視界も良好。


「よし、行くか。」




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