156.新たな問題と試行錯誤
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試食会はお開き、そしてそのまま宴会へ。
試食会では味に集中するために出さなかった酒も解禁する。
魔王とベリアルは酒精の強いウイスキーがお好みのようだ。
ヴァレリー伯爵はワイン、グリークスは果実の蒸留酒が気に入ったようだ。
さっきの真剣な様子はどこへやら、みんな料理や酒をうまいうまいと言って飲んでいた。
すっかり盛り上がり、そろそろ帰ろうかという頃には辺りは真っ暗になっていた。
なんかもう、試食会というより宴会がメインになっていないか?
まあ、魔族の好む傾向がわかって来ただけでも一歩前進だ。
今後も違う肉を用意した時には呼ぶように魔王ガルーシュから言われた。
四人そろっていなくとも、我だけでも行く、と。
……それ、ただ美味い肉を食いたいだけじゃないのか?
思わず出かかった言葉を飲み込む。協力してくれるのは有難いことだしな。
俺の村との連絡用に、オルディス商会との連絡に使っている『転移の水盆』が使えないかなと思い相談。
シリウスがそっくりそのまま同じものを作り出してくれた。
『構築』の力、すごい。
魔王もこともなげにかけられた魔法を解析し、やり方も知らないはずなのに登録まで済ませてしまった。
曰く、「人間どもに使える魔法が我に使えないはずがないだろう。」とのこと。
魔王もやっぱり圧倒的にすごい存在なんだな。再確認した。
「では我らは帰るとしよう。」
「ああ、わざわざ来てくれてありがとう。」
「あの、領主殿に一つお願いというか、お聞きしたいことがあるのですが。」
そう言ったのは吸血鬼のヴァレリー伯爵だ。
なんだろう、改まって。
「何か問題でも?」
「見ての通り、吾輩は吸血鬼です。人間の血を飲みます。人肉をやめる方向で動くのなら、血液の供給についてはどうお考えでしょうか?」
「えっと……」
まずい、完全に頭から抜け落ちてた。
俺としては人肉が食べられなくなれば万事解決だと思っていたけど、血という問題もあったんだな。
「……吸血鬼は人間の血液しか食べられないんですか?」
「いえ、普段は普通の食事をとりますし、血液は栄養補給――薬のようなものです。人間の血がない時には動物の血でも代用はできます。ただ、やはり人間の血でないと我ら吸血鬼族に必要な栄養分が十分に行き渡りません。長く人間の血液を断つと心身ともに著しい不調をきたします。おそらくあなたはその状態になった我が息子を目にしたと思います。」
なるほど。吸血鬼にとって必要不可欠なサプリメントみたいなものなのか。
それは「我慢しろ」で終わらせるわけにはいかないな。動物の代用も難しそうだし。
うーん。
「……今すぐには答えは出ませんが、双方が納得できる形を提示したいと思います。」
「なにとぞよろしくお願いいたします。吾輩にとって、いえ、一族にとっては死活問題となりますゆえ。」
ヴァレリー伯爵は一礼し、魔族ゲスト陣は去っていった。
血液か。ここにきて新たな問題が増えたぞ。
色々知恵を絞らないとな。
翌日、朝食を済ませて身支度を整え、試食会を通してわかったことをまとめてみる。
まずは魔族たちの好みの傾向。
香り→『青森県産奥入瀬ハーブポーク』
肉質、歯触り→『中国産金華豚』
赤身と脂のバランス→『スペイン産イベリコ豚』
旨味と脂の甘さ→『ハンガリー産マンガリッツァ豚』
後味→『沖縄県産アグー豚』
つまり、ハーブポークの香りで金華豚の滑らかな肉質を残しつつ、イベリコ豚のような絶妙な霜降り加減、そしてマンガリッツァ豚の赤身の旨味と脂の甘み、かつアグー豚のさっぱりとした後味の豚肉を探せばいいんだろ?
……って、できるか!
そんな夢のコラボレーションがあったら地球でも大人気だろうよ。
そんな都合の良い全部混ぜがあるわけがない。
うーむ。
全部混ぜか……肉を混ぜる?
いっそミンチにして全部混ぜてみたらどうだろう?
それぞれの良いとこどりをした理想の合い挽き肉が完成するんじゃないか?
物は試し、俺はキッチンに行き、アヤナミと一緒に残った豚肉をミンチにした。
そしてそれを一つにまとめ、合い挽き豚の完成。
ひき肉を使った肉感を感じられる料理と言えばハンバーグだ。
今日の昼食はハンバーグの試食だな。
昼飯時になり、贅沢ブレンド豚のハンバーグを作ってダンタリオンと実食。
結果は思わしくなかった。
「正直、それぞれの良さをつぶし合っていると思います。香りも弱いですし味も中途半端。勿論美味しいのは美味しいですが……それと、魔族は肉の歯ごたえを楽しむ者が多いので、このようにミンチのみにしてしまうと受け入れられないのではないかと思います。」
ダンタリオンの酷評が続く。
俺も正直、単体で食べた方が美味しいなと思った。
もちろんブレンドすることで旨味や脂の甘みを何倍にも感じられるが、その分どうしてもくどくなる。
あとミンチは受けない、か……。
こりゃハンバーグ案は不採用だな。
せっかく魔族側の好みがはっきりしてきたところだが、贅沢ブレンド案はいったん保留。
地球でもう少し豚肉を探してみるか。
ところ変わってエルフの研究所。
食人問題解決の重要な要素の一つ、安定供給について相談するために来た。
ぶっちゃけ魔族たちが地球の豚肉を気に入ってくれたところで、この世界で量産できなければ意味がない。
あのブランド豚たち、三キロ分でも数万円はした。これを毎回大量に、なんて考えたら金がいくらあっても足りやしない。
そこで俺は考えた。ずばり、クローンの生成についてだ。この世界では世界樹の樹液で作る『フルポーション』で、四肢の欠損部位を再生できるほどの効果がある。
それを応用すれば、俺が買ってきた肉から豚を丸ごと一頭生み出せるんじゃないのか?
地球だと倫理観がどうのと問題になりそうだが、ここは地球じゃないし、多少のことには目を瞑ろう。
さらにそれを交配させて数を増やすことができたらこの世界でブランド豚の畜産が可能となる。
豚の畜産自体は考えてはいたけど、問題はどうやって生きた豚を地球からエルネアに運ぶかってことだったもんな。
病室に豚なんか持ち込めるはずもなく、そもそも生き物って転移で持ち込めるんだろうか。
というわけで、豚の畜産計画に必須なクローンの研究をエルフたちに依頼したい。
オリバーに声をかける。
「おーい、ちょっと相談があるんだが。」
「はい、何でしょうか。」
「肉体の一部から同じ肉体を完全再現させることは可能なのか?」
「それは……欠損部位を再生させる、という意味でしょうか?」
「うーん、似てるけどそうじゃなくて……たとえば、俺の髪の毛一本から細胞を培養して、もうひとり俺を作ることは可能か?」
「ふむ……それは、『もう一人の俺』がどの程度かによりますね。たとえば顔立ちや身体だけであれば比較的容易です。今現在の筋肉や脂肪の付き方、今の村長の肉体年齢的要素も加味するなら環境による要因が絡んできますので、難易度は上がります。ただやり方によっては不可能ではないでしょう。そして性格や思考パターンなどまで完全再現となると、それらは長い年月と周りの環境・人間関係が複雑に絡んできますので、とてつもなく時間と労力がかかりますね。」
「身体……というか、肉質だけでいい。それならできそうか?」
「それでしたら、可能です。ただ、少々お時間をいただきます。」
「ああ、問題ない。じゃあ今度培養してほしい動物のサンプルを渡すから、よろしく頼む。」
「はっ。」
よし、これならなんとかなりそうだ。
オリバーは早速人員を集め、クローン研究班を立ち上げた。研究班主任はアンブローズだ。
この先も重要な研究になると思うので、ノームたちにも大急ぎで新たな研究室を作ってもらう。
あとは、魔族たちが気に入る豚肉をどうやって調達するか、だよな。
まあ、一日二日で解決するものでもないというのはわかりきっていることなので気長に考えよう。