153.イリューシャ
あれからいろいろ考え、本人とも話し合った結果、イリューシャには主に村の伝達係をしてもらうことになった。
エアリス様が加護を与えた影響で、この村に住むシルフの数がグッと増えた。
イリューシャは彼らをまとめ上げ、各場所に配置し、村人たちの伝言を受け取るように指示した。
村人たちが俺に用事がある時にはシルフを通じて話すことができる。例えば、畑にいるロベルトさんが俺に用事がある時は、いちいち俺を探さずに畑に配置されているシルフに用件を伝えればいい。シルフの見聞きしたものはすべてイリューシャの耳にも入るらしいので、それを俺に伝えてもらうという算段だ。
こちらから向こうへの伝達はイリューシャが直接行って伝えてくれる。伝書鳩みたいな扱いで申し訳ないと思ったが、本人は「一か所にいるより色々行けるからこっちの方が好き」と言ってくれたので良しとしよう。
「というか、シルフを従えるなんてできるんだな。他の龍にもできるのか?」
「やろうと思えばできますが、イリューシャさんには及びませんね。」
「風の力は『支配』を司るんですよー。だから誰かを使役するのは得意なんです。相手が格下ならなおさらね。」
「お、おう、そうか。」
「館にいた魔人君の能力も同じような感じかなー。あ、でも、ケイ様も僕の主になったわけだから、似たような力が使えるようになったんじゃないですかぁ?」
しらんけど、と適当なイリューシャ。
風の力は『支配』の力か。結界とかだけでもかなり強力な力だと思っていたのに、空間だけでなく人間まで支配できるって怖くないか。
こんなふんわりしたイリューシャだけど、実は一番怖かったりして。
エアリス様のあの強引に物事を進める感じも、『支配』の力が関係しているのか?
……いや、あれは単なる性格の問題だな。他の大精霊様方も強引さにかけては結構似たような感じだったし。
あと、村の結界もかけなおしてもらった。
ライアの結界はあくまで侵入者察知と軽めの魔物除け程度、害意ある人間や魔族をはじくようにはできていない。
イリューシャに頼んでかけてもらったのは、人間や魔族の攻撃も想定したものだ。こんな山奥の村に軍を出してくる暇人はいないと思うが、少しずつ外部との交流が始まった今、万が一のことを考えて安全を確保しておくのは大事だからな。
結界の専門家ともいえる風龍の結界。文字通り最強というにふさわしいだろう。
並みの人間や魔族、魔物じゃ絶対に攻略できないよな。
……静かで平和な農村を作っていくはずが、世界最強レベルの要塞都市になってしまった。
まあいいや、村民の安全が一番。使えるものは遠慮なく使っておきましょう、ってね。
エアリスは普段は村のあっちこっちを自由に行き来して過ごしている。
ほっつき歩いているようにも見えるが、村人からの伝達があれば不意に目の前に現れて伝言をしてくれる。
俺のそばにはシリウスがついているから別に二人も必要ないし、やることやってくれれば自由にさせておいてもいいかな。
それに、伝達の仕事だけでなくどうやら風に乗って村の周囲の安全確認や警護もしてくれているらしい。
さらには歩き回っているついでに学校が終わった子どもたちの遊び相手までしている。
風で空を飛んだり、風移動の練習をしたり。
子どもたちもすっかり懐いて、「イリューシャ!早く~!」なんて引っ張りだこだ。
適当に遊び歩いているように見えて、意外と仕事ができるやつだ。
なんか高校の時にもいたよな。勉強してる風も、部活頑張ってる風でもなく遊んでる感じなのに、なぜか成績もよくて部活でも上の方にいて。ついでにクラスの人気者。
いわゆる「上位カースト」の民だ。
残念ながらそういった”できる男”とは無縁の生活を送ってきたため、ちょっぴり羨ましくはあるものの、仲間になれば頼もしくもある。
普段のノリが軽いおかげで村のみんなとも打ち解けるのが早かった。
伝言係として村人と話す機会も多いし、何より子どもを手懐けたというのも大きいだろう。
たまに子どもたちを空高く放り投げすぎてテレサやエスメラルダに怒られているけどね。あれ、俺から見てもかなり怖いと思うんだけど、子どもたちはキャーキャー言いながら楽しんでいるからすごい。
怖いもの知らずって怖い。そして龍族にも容赦なく怒るテレサとエスメラルダも怖い。
まあなんにせよ、村に馴染んでくれて一安心。
エアリス様のようなワガママ駄々っ子なんじゃないかと言う心配も杞憂に終わった。良かった良かった。
「そういえば、今まではエアリス様の遊び相手をしていたんだってな。」
「そーですよ。天罰で竜巻を巻き起こしたり、大陸の端から端まで競争したり。たまーにお互いの手合わせってことで戦ってみたりなんかして。いやー、あの時はいろんな国で嵐が巻き起こって、あとから聞いたら人間の人類史に”未曽有の天災”として記録されたらしくて。百年位前かな?あはは、楽しかったなぁ。」
「………………。」
め、迷惑な……!
そして前言撤回。やっぱり風龍怖い。