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151.エアリス

「いやー、キミ、面白いね!合格合格!!」


 そんな声とともに、目の前につむじ風が巻き起こり、一人の少年が立っていた。

 いや、正確に言うと少し浮いている。

 そのまま空中を歩き回り、前から横から、俺を観察しだす。


「あ、あの……君は?」

「あ、ボク?エアリスだよ。風の大精霊。」


 空中を泳ぐようにくるりくるりと動き回り、上から下から俺を見ながらこともなげに言う。


 は?風の大精霊??

 すると……


「あの、さっきのは君の仕業なのか……なのですか?」

「そ。この村の力がどんなもんかなーって思って、ちょっと試させてもらった。いやー、すごいね!龍がいるとはいえ、ボクの風をどこまで受けられるかなーと思ったら、あんなボヨンボヨンの結界を作るなんて。」


 俺の目の前でうつ伏せになったような格好で、頬杖をつきながら楽しそうに言う。

 見た目といい、話し方といい、完全にただの子どもだ。宙に浮いている、という以外は。


 これが風の大精霊?

 本当なのだろうか。


「……なんのためにこんなことを?」


 試す、なんて言ってたけれど、こっちは試される覚えなんてない。

 それに、一歩間違えば大災害になりかねないところだった。


「うーん、それはボクの加護を与えるに相応しいかのテストかな?弱いヤツに加護なんて与えたくないし。どうせなら最強の村を作りたいじゃん?」


 加護?

 この村に加護をくれるって言うのか?

 会ったこともないのに??なんで??


「あの、話が見えないんだけど……」


 もはや大精霊に対する口調がどうとかいう話ではない。

 俺の知らないところで何がどうなっているんだ?


「まー簡単に説明すると、魔王が頭下げて、シルフが泣くからさー、それでしょうがなく?」

「……………………。」


 ……(かなーり苦労して)詳しく聞くところによると、先日の魔王城での一件がエアリス様の耳にも入って来たらしい。それで「魔王が頭まで下げる人間の村なんて興味ある~!」と、うちの村に興味を持ち、ここで暮らしているシルフの数人を呼び寄せた。そしてうちのシルフがエアリス様に会った際、「ノーム(土)もオンディーヌ(水)も大精霊の加護をもらって龍までいるのに、自分たちだけ何もない!自分たちにも何か欲しい!」と駄々をこねたそうな。

 ……シルフさんや…………。

 子どもじゃないんだからそんな「僕だけお菓子ない!」みたいなこと言わないの。

 ……あ、シルフは子どもだった。

 それでエアリス様はこの村に加護を与えに来たらしい。ついでに本当に龍を従え、加護を受けるに値する場所なのかを確かめに来たんだと。


「ま、結果は見ての通り。キミは面白い結界を作ってボクの風をいなした。バッチリ合格だよ。というわけで、加護もあげるし風龍もつけてあげる。これでもっと最強の村になるね!」


 ニッコニコのエアリス様。

 いや、突然そんなことを言われましても。


「いやあの、最強の村を作っているわけでは……」

「えー!?男なら最強に憧れるでしょ!?違うの?キミ、それでも男??」


 俺の股間にグッと顔を近づける。

 こらこら、子どもがそんなところを見るんじゃありません。


「いや、まだ龍をつけるとかの説明もないですし……」

「そうですよ、エアリス様。」


 急に別人の声がする。

 大きなつむじ風が巻き起こり、思わず目を瞑る。


 ようやくおさまって目を開けると、そこには執事風のイケメンがいた。


「ジャバウォックか。」

「エアリス様、このような戯れはお止め下さいと何度も申し上げているでしょう?それに色々と勝手に決められても、そちらの人間も困っていらっしゃいますよ。」


 ジャバウォック、と呼ばれた青年は、眉をしかめてため息混じりに言う。

 アッシュグレーの髪を一つ結びにし、落ち着いた佇まいはまさに主に仕える有能執事といった雰囲気を醸し出している。


「ちょうどいいや、この人間に仕える龍を一体呼んでよ。……そうだ、イリューシャが良い。アイツはボクに似て柔軟だからね。お前みたいな頭のかたーい龍が仕えても面白くないだろうし。」

「勝手に決めないでください。それにイリューシャは既に管理地も決まり、準備を進めています。こちらに来てしまったら、残された谷はどうなさるのですか?」

「それを何とかするのがお前の仕事じゃん。もう決めたのー。口答えしても遅いんですー。」


 口を尖らせてそっぽをむく姿は怒られて言い訳をする子どもそのものだ。それもかなり反抗的な。

 ……ジャバウォックさん。苦労してそうだな……。

 なんだか一気に親しみが湧いた。


 その後もジャバウォックさんはあの手この手でエアリス様の説得を試みるが、当のエアリス様はツーンとそっぽを向いたまま真面目に聞こうとしていない。

 それでもめげずに話し続けているところを見ると、普段からこんな感じなんだろう。


「ですから――」

「ジャバウォック。」


 ジャバウォックさんの意見を遮るように名前を呼ぶ。

 今までとは違う冷たい声だ。

 心無しか周りの空気が変わってきた気もする。

 あれ?怒った……のか?……もしかしてやばい?


 ジャバウォックさんはハァ、とため息をついて言った。


「……分かりましたよ。イリューシャをここに呼びます。それで良いんですね?」

「うん!ヨロシク〜♪」


 ジャバウォックさんは深いため息を一つついて、一陣の風と共に消えていった。

 うわ……ジャバウォックさんが根負けしたよ。

 ということは俺の意見は置いといて龍がこっちに来ることは確定になったっぽい。

 正直、不安だ。非常に不安だ。

 このワガママ駄々っ子なエアリス様が「ボクに似てる」というような龍だぞ。

 苦労する未来しか見えない気がするのだが。

 ジャバウォックさんが消えると、エアリス様は俺に向き直りニッコリと笑った。


「と、言うことで早速みんなを集めてよ。」

「え、いや、あの……」

「あ、なんだ。あの建物の中にみんないるじゃん。じゃあちょうどいいね!」

「いや、だから……」

 

 なんかどんどん話が進んでるけど、もう少し説明と考える時間が欲しい。

 そう言おうとすると、エアリス様がパチンと指を鳴らした。


「うぉっ!?」


 ドサッ


 顔をあげると目の前には荘厳な神殿。

 どうやら”風移動”で神殿の前に連れてこられたらしい。

 隣には竜巻に囚われたはずのシリウスやアヤナミ、そしてダンタリオンまでいた。


 ご、強引だ……。


「ほら、はやくはやく♪」


満面の笑みを浮かべるエアリス様に逆らえるはずもなく、俺は中に入りみんなに説明する。


「みんな、もう大丈夫だから安心してほしい。それと急で悪いんだけど、風の大精霊様の加護を受けることになった。」


 急に訪れた平穏、そして「精霊の加護」という俺からの爆弾発言に騒然となるも、なんとか神殿に全員が集まった。


「あのお方が風の精霊様?」

「まだ子どものように見えるが……。」

「大精霊様ですから、姿形も自由自在なのでしょう。」


 初めて見るエアリス様に戸惑う声。

 ま、こんな子どもが風の大精霊と言われても普通は信じられないよな。

 しかし、この世界の住人は俺よりも理解が早いのか、子どもの姿のエアリス様もすんなり納得したようだ。


「我が名は、風の大精霊エアリス!この地は風の精霊の加護を得た!我が名を裏切らぬ限り、この地に幸福な風を呼び込むことを約束しよう!」


 エアリス様による宣言が行われ、俺たちの村は新たに風の加護を受けることになった。


 世界樹と水と大地と風の加護か…………。

 もしかしなくても、ここってこの世界で最強の土地なのでは?



 この土地が「神々に愛されしエデン」と呼ばれるようになるのは、もう少し先の話である。



 

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