15.計画は大事
早速探索に、と思ったが、流石に何の準備もせずにあてもなく探す訳には行かない。
昨日収穫した野菜たちも、ニンジン等の単作作物はまた種まきをする必要もあるし。
時刻はもう昼頃、種まきしてからの探索はすぐに日が落ちて効率が悪いだろう。
話し合った結果、今日は畑の仕事をすることになった。種まきと水やり、あとは探索で新たな作物が見つかることを期待して耕地面積も広げておく。
探索にはノームが案内役としてついてくれることになった。家づくりもあるのに大丈夫かと思ったが、問題なさそうだ。彼らが優秀なことはよくわかっているし、ここは甘えておく。
その晩、俺は今日の議事録を握りしめて眠りについた。しっかりと「転移」と心の中で唱えるのも忘れない。
さて、地球に戻ったらやることがいっぱいだ。姉貴にも色々協力を要請して……
____いつの間にか、俺は眠りについていた。
――――白い天井。
いつもの病室だ。今回は四日ぶりの転移だからとても懐かしく感じる。いや、地球の時間では二時間しかたってないけれど。
やっぱりふかふかのベッドはいいよな。
体が慣れたせいか、草の葉ベッドでも問題なく眠れるようにはなったが、睡眠の質が違う。
向こうの村にもふかふかの布団を早く取り入れたいものだ。
綿花があったら綿布団が作れるし、鳥を捕まえて羽毛布団もいいな。冬には重宝するだろう。
でもあれ?綿布団って高いんだけっけ?ということは作るのが大変なのか?
布団の種類や作り方についても調べておくか。
姉貴は夕方に来てくれた。
挨拶もそこそこに現状を報告する。
いや、元から挨拶なんてなく唐突に差し入れ持って来て、唐突に帰っていく人だったけど。
ログハウスを作るつもりが神社ができたことについて、「デザインとかしっかり伝えておかないからそんなことになるのよ。」と怒られた。
姉貴はアパレルショップの販売員だが、服飾系のデザイン専門学校を出ている。
デザイナーたちのそういった苦労を知っているからか、結構本気で怒られた。
「だいたい、話聞いてるとみんな西洋人ぽい顔なんでしょ?だったらヨーロッパ風の建築デザインとかがいいに決まってるじゃない。あと、全体のバランスとか統一感も大事よ。現代風の自転車置き場に神社にログハウスって、ちぐはぐにも程があるでしょうが。」
そう言われても、作ってしまったものはしょうがない。それにデザインなんて気にする余裕なかったし。
これからは気をつけるよ。
そう言うと姉貴は「はぁ…」とため息をついて、またまた分厚いファイルを見せてきた。
「ヨーロッパ風の木造建築でしょ?こんなのはどうよ。木と石と土壁の家!これなら今のあんたたちにも作れそうじゃない。おまけに可愛いし!!」
開いたページには、中世ヨーロッパにも多く立てられたという「ハーフティンバー様式」の家の写真と設計図があった。柱や梁を外壁に露出させた形式のアレだ。
確かに、この家なら見た目西洋人の彼らにも似合う。それに中世から作られていたのなら、向こうでもなんとか作れるだろう。
「寝るのが主な用途の家なら、ベッドと棚と、せっかくなら個室にしたら?プライバシーの確保って、生活の上で意外と大事なのよ。あと食堂、キッチンはこんな感じで……。」
サラサラとノートにデザインを書いていく姉貴。
上手い。畑は違えど、さすが専門家は違う。
「あと、服も私がデザインしていい?ファンタジー風なドレスとかプロデュースするの夢だったのよー!」
完全にノリノリだ。こうなったらもう止められない。
まあ、デザインとか俺にはまったく向かないから、姉貴に任せてしまったほうがいいだろう。
俺はできたものをチェックして、要望を伝えるくらいかな?
今日も面会終了時間まで居座り、あーだこーだ話し合った。あとはプリントアウトして『賢者の書』に挟み込めばよい。
ノームやライアたちのおかげで不要になった資料もあったので、差し替えて整理しておこう。
姉貴は明日は来れないらしく、また服のデザインを考えたいからと二日後に来てくれることになった。
その間は俺も地球でのんびり調べ物やらをしておこう。
うーん、やっぱりプリンターが欲しくなってきたな。
「ねえ、やっぱプリンター設置しない?私一人じゃけっこう大変だし、あんたも自由にプリントアウトできたほうがやりやすいんじゃないの?」
さすが血のつながった姉弟、同じことを考えていたようだ。
どうやら姉貴の友人がプリンターを買い替えたらしく、お古の引き取り手を相談されていたらしい。
立ち上がりは遅いがプリントアウト自体は問題なくできるということなので、俺が引き取らせてもらおう。
早速姉貴は友人に連絡し、明日の帰りに引き取るそうだ。相変わらず仕事早いな。そして姉貴の人脈の広さに感謝。
それから二日間、俺は議事録をもとに色々とパソコンで調べまくった。
機織りなんかはテレサができると言っていたけど、俺が持っていく機織り機や糸紡ぎのやり方と同じかわからないので一応機織りの仕方、糸の作り方なんかを調べておく。
綿花と大麻があるかもわからないから、種の購入もしておく。
流石に大麻は警察沙汰になりそうなので、亜麻の方を用意した。
シルクスパイダーは……うん、わからん。放置。
建築関係を調べていたら、レンガの作り方や土器の作り方なんかにもたどり着いたので、それらも追加。
竪穴住居から一気に発展しそうな予感。
姉貴はいつも通り大量の荷物と共にやってきた。俺ももういちいち驚かない。
最初は怪訝な顔をしていた看護師さんも今や完全にスルーだ。
「いやー、服のデザインに気合入っちゃってさー、何パターンか用意したからちょっと見てよ。」
そう言うと姉貴は何パターンどころではない数のデザイン画を出してきた。
どんだけ気合い入れたんだよ。目の下クマができてるけど、もしかしなくても寝てないんじゃないか?
ただ、姉貴の気合は若干空回り気味だった。デザインに凝りすぎて動き回るのには向かなかったり、機能性以外の装飾が多い服が大半だったからだ。
あのな。こっちは布どころか糸すらまだないんだぞ。必要最低限の布の量で作れる服にしないと。
結局、女性用は膝下丈のワンピースに腰で結ぶタイプのエプロン、水仕事がしやすいように袖口は細いリボン付きで、それを縛ることで袖丈が調節できるようになっている。
男性用は尻が隠れるくらいのシンプルなシャツとベルト、長ズボンという形になった。
シンプルな形だからと、その場で型紙まで作ってしまった。大量の厚紙はそのためか。
ただ、可愛い服も諦めていないらしく、「技術が発展したら作ってね!」と数パターンの(主に女性向け)デザインを、半ば強引に『賢者の書』に挟み込まれた。
他にも建物の工法や機織り機等の設計図、追加の作物の種、木製の箱に入った裁縫道具、その他諸々を詰め込み、結局布のバッグがパンパンになってしまった。
これ、全部転送できるのか?
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