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149.成人

 ゼノがあと数日で十五歳になる。こっちの世界では成人だ。

 大変だったあの出会いから三年。大人びた子どもだったゼノも、すっかりたくましい青年になった。

 月日は早いものだよなぁ。そんなことをしみじみ考える。

 こっちでは個人の誕生日を毎年お祝いする風習はない。せいぜい五歳、十歳などの節目を家族でささやかに祝うくらいだ。

 でも成人の時は違うらしい。

 テレサたちに聞いてみた。


「村では、村長のもとに挨拶に行って村長に一人前の大人になったと認めてもらうのよ。村長に認めてもらうと結婚もできるようになるの。」

「わたくしが住んでいた地域では、成人を迎える少年少女は神殿に集まりますの。そして水の女神様と神官様から祝福を受けて成人と認められます。結婚が許されるのもその儀式が終わってからですわね。」


 テレサがいた村と、レティシアがいた都市部ではだいぶ違うようだが、成人式的なものがあるのは共通なようだ。

 ゆくゆくはこういう文化的な行事を取り入れたいと思っていたし、ゼノは村で初めての成人者となるわけだし、丁度良いかもな。


「よし、成人式をしよう!」






 早速詳しい情報収集をする。

 どうやら成人式の風習があるのは人族のみらしい。

 エルフやドワーフなどの長命種は年齢にあまりこだわらないらしいし、コボルトやケットシー族もそういう式などはしたことがないそうだ。

 なので、村の人間を集めてどんな成人式をしていたのか聞いてみる。


 鬼人族:新しい毛皮や動物の牙や骨で作ったアクセサリーを渡していた。

 ガストン・マルセル夫婦:この日のために母親が縫ってくれた服を着て神殿に挨拶に行った。

 グリッシ:男は重たい小麦の袋を重ねて運び、女は十人分のスープを作らねばならない。

 スモーク:いつもより豪華な食事で、肉が出てきた。


 などなど、様々な意見が集まった。

 大まかに分けると、記念品を渡す系、おめかしして出かける系、何らかの試練みたいなのをクリアする系、豪華な食事で宴会をする系、あとはさっき聞いた偉い人に挨拶に行く系だな。

 どれか一つを選ぶのもあれだし、ここは一つにまとめちゃおうか。

 意見が偏らないように、各種族の代表を集めて話し合う。


「全部やってしまえばいいのでは?」

「それだと成人者が忙しすぎませんか?」

「せっかく神殿があるのですから、神殿に行って何かをするのは良いと思います。」

「そもそも誰が参加するのですか?成人者、その家族、第三者……村人総出の祭にします?」

「基本的には成人者とその家族、式の運営に第三者が何人か携わる感じでいいんじゃない?」

「関係のない人も、お祝いの雰囲気を楽しめるようにしたいですね。」


 様々な意見が飛び交い、この村の成人式の形がだんだんと決まっていく。

 初めての成人式はゼノの誕生日の日に間に合わせたい。

 村の大人たちは急ピッチで準備を進めていく。









 そして当日。鬼人族は神殿に集まった。

 主役のゼノは新しい服に身を包み、鬼人族特有の狩った魔物の牙を加工したアクセサリーを身に着けている。


「今日のこの日まで、村で良く育ってくれた。これから村の大人の一員としてその責務を全うし、健やかで幸せな人生を送ってほしい。」

「ありがとうございます。これからも精進いたします。」

「これをもって、ゼノを村の大人として認めよう。」

 

 神殿の広間で村長の俺が言葉をかけたら晴れて大人の仲間入りだ。

 最初はなんて言って良いかわからず緊張したが、みんなのアドバイスをもとにそれっぽい言葉を何とか集めてみた。

 成人の記念品として花冠を送る。これは村の子ども、ゼノの妹であるカルナが作ったものだ。

 もっと豪華なものにしようかと思ったが、この先人口が増えて大量生産を考えた時に高価なものは負担になるということで花冠にした。

 これを頭にのせていれば今日の主役であることが一目でわかって、みんなにも祝福してもらえるだろうしな。

 ま、この辺は今後の様子を見て変えていけばいいと思う。


 村の成人第一号ということで、村全体がお祭り騒ぎだった。

 食堂では大宴会が開かれ、主役のゼノや鬼人族は勿論エルフにコボルト、様々な種族がお祝いしに寄ってくる。

 パン屋では記念の甘めのパン(はちみつや干した果物をふんだんに使ったらしい)、燻製屋では様々なソーセージやベーコンなどを串にさして売っていた。

 エルフが開発した花火の魔法を打ち上げたり、みんなで歌を歌ったり、ただ一人のための成人式とは思えない賑やかさだ。

 ま、ゼノはずっと子どもたちのリーダーとして頑張ってくれていたし、自分たちの村の子どもが成人するまで健やかに育ったということは、ある意味村が平和で豊かな証拠でもある。みんなが喜ぶのもそういう意味もあるんだろう。

 ゼノだけじゃなく、他の子どもたちもみんな健やかに育てよ。

 そんなことを思いながら俺も宴会に参加した。







 ゼノは探索チームに復帰した。探索チームは東に範囲を広げ、海辺の調査にも手を付け始めたところだが、海岸線が入り組んでいて魚などが豊富だという。これは本格的に海の漁を導入したいところだ。

 また、いくつかの魔物や種族っぽいのも見つけたが、お互いに接触はなし。場所が遠いのでこの村と衝突の可能性は今のところ低いらしいがどうするかという報告も受けた。

 まあ、村に手を出さなければなんだっていいよ。別に俺たちだけの森ってわけでもないだろうしな。


 大人になってますます張り切るゼノは村でも評判の働き者だ。

 人当たりよく話しやすい雰囲気を出しているし、力も強く村でもエルフやケットシーたちの荷物を持ってあげたり、マリアさんロベルトさんのサポートも進んでやる。

 おまけに顔もビオラそっくりのイケメン、鬼人ゆえに体格も良い。

 となれば、当然モテる。

 成人式ではエルフのクラリスが「私もすぐに大人になるから待っててね!」と愛の告白をかましていたし、同じくエルフのカミラも「ゼノってかっこいいよねぇ。好きな人とかいるのかな?」とアリスに話しているところを聞いた。

 クラリスは十歳だからまだわかるとして、カミラ、今一体いくつなんだ?

 エルフにとっては年齢の百年や二百年どうってことなさそうだけど……。

 それどころかコボルト族やケットシー族、移住者の女性の中にもゼノに気がある者がいるらしい。

「私が知っているのがそれだけで、たぶんまだまだいるんじゃないかしら?」とテレサは楽しそうに言っていた。

 まじかよ。ここにきてハーレムを地で行く男が。というかテレサは色々耳が早すぎないか?

 ゼノに限ってそんなことはしないとは思うが、くれぐれも女性関係でトラブルを起こすことはやめてくれよ。

 そして相手は慎重に見極めるように。


 …………。


 

 …………羨ましくなんてないからな。断じて。



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