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148.新たな仲間は有能だった

 ようやく村に着いたその翌日、再び魔族が訪ねてきた。

 いや、昨日まで一緒にいたんだからいっぺんに来いよ。忘れ物か?

 ダンタリオンと名乗る歳若い男は恭しく挨拶をし、魔王から、と俺に手紙を差し出した。

 その場でご確認くださいと言われ開けてみる。

 手紙には魔王城での事件に関するお詫びとお礼。そして謝罪と友好の意を表すためにダンタリオンを送る。村での扱いは俺に一任すると書いてあった。

 どうやらこのダンタリオンという男、ベリアルの息子らしい。魔王国の外務を担当する副官であるベリアルの息子、人間ならそれなりの地位を持ったお貴族様だ。

 そんな相手が謝罪と友好の証として送られてくる。

 これは完全に生贄だな。可哀想に。


「ここにいて、魔王たちに有利になるようにお前が動く可能性はないのか?」

「父と魔王様より、『絶対に敵対するな、村の利益だけを考えその身を捧げよ』と仰せつかっております。私は貴方様に忠誠を誓います。」


 恭しく頭を下げ宣言するダンタリオン。優雅な動きで実に様になる。

 ま、大丈夫そうだな。あんなことがあったんだし、昨日の今日でスパイを送ってくるほどあの魔王は馬鹿じゃないだろう。


 聞くところによると、ダンタリオンは魔王城の情報資料室で資料整理の仕事をしていたらしい。

 つまり魔族領や人間との戦争についてどこよりも情報が入ってくるということだ。

 おいおい、詫びとはいえ、そんな機密情報の塊みたいな男をここに遣わせて良かったのか?

 それも含めて「敵対しない」という表明なのか?

 まあいい。せっかくなのでそのまま事務職をしてもらうことにした。

 うちの村の戸籍情報や収穫物の出納、ヘイディスさんやドワーフたちとの取引の記録。

 色々なものを記録してはいるが、そのまま積み重ねているだけの状態だった。

 これらの管理を任せよう。

 俺の館の執務室の隣に資料室がある。そこがダンタリオンの職場だ。

 そして、ダンタリオンはベリアルと同じ『魔人』という種族らしい。親子だから当然か。

『魔人』とは、見た目は人間と変わらないが、保有する魔力がずば抜けており、その力はエルフよりも上だという。

 そして恐ろしいことに、ダンタリオンの得意な魔法は『精神支配』だという。洗脳して意のままに操ったり、幻惑や幻痛で相手に精神的な苦痛を与えたりすることができるとか。

 なんつーおっそろしい男を送ってくるんだあの魔王は。

 本当に友好する気ある?

 なんか色々突っ込みたいぞ!?

 当然、この村に来た以上『精神支配』は全面禁止。絶対に使わないように命じた。

 シリウスが、「私は魔力の流れを感知しています。もしあなたが命令に背いて村の方に害をなした場合、あなたを含め数万の魔族の首が飛ぶことをお忘れなく。」と釘を刺していたので大丈夫だとは思う。

 当然ダンタリオンは真っ青、何度も首を縦に振りながら「使わないと誓います!!」と宣言してくれたよ。






 ダンタリオンは実に優秀だった。

 資料室の整理と書類の整理・保管が主な仕事なのだが、これまでただの書類だった様々な記録をまとめ、麻ひもで綴じこみ、地球で言うあいうえお順に並べ、どの資料がどこにあるかを正確に覚えている。

 バラバラのメモだった村民会議の議事録を雛型を作って見やすくしたり、これまでの議事録まで雛型に沿って写してくれたりと抜かりがない。

 さらには記録や学校の授業用に使う紙やペンなどのこまごました備品の在庫も完璧に把握しており、「あと何週間ほどで紙がなくなりそうです。次の人間との取引に入れておきますか?」など事前にお知らせもしてくれる。

 なんて有能、なんてできる子。

 細やかな気遣いが素晴らしいよ。

 魔王城で見た感じ魔族ってなんか野蛮で武力が一番!みたいなイメージだったけど、こんなに整然と保管したり分類したりが得意なタイプもいるんだな。

 まるで大学入学当初に色々助けてくれたスーパー事務員さんのようだ。

 そして個人的には大量の紙を魔法でバサバサと舞わせながら整理していく様子が何ともファンタジーな感じで好きだ。

 今はまだ村程度だからそのうち仕事は少なくなりそうだが、これから規模が大きくなるにつれてますます重宝するだろう。

 いやー、魔王は良い人材を派遣してくれた。

 俺はホクホクである。

 逆に魔王城の資料室は有能な子が抜けて大丈夫なんだろうか。

 




 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【ダンタリオン視点】


「お前は例の村に行け。」


 例の村。当然知っています。

 今日の会談のことも、突然の地震のことも、その裏で何があったのかもつい先程報告を受けたばかりなのですから。


 龍族を従える人間の村。

 魔王様が興味を持ち、城に迎えた。

 その席でオーガ族の者がエルフの従者に手をかけた。

 そして龍族の怒りによりその場に居たものは立つこともままならないほどになり、城中に亀裂が入った――。


 オーガ族は領地を追われ、寒さの厳しい北の大地に住むことになりました。

 人間の領主へは、お詫びにこの世に十六頭しかいない幻の魔馬を送ったとか。


 そして「例の村にいけ」という命令。

 考えるまでもありません。

 私は領主の怒りを納めるための『生贄』として選ばれたのです。


 難攻不落の魔王城をいとも簡単に破壊し、精鋭中の精鋭である軍部や大臣たち全員を一瞬で下す程の圧倒的な力。

 それを複数従える人間。

 そんなところに私は行くのです。無礼を働いた国の詫びの品として。

 どんな目に合うのかは想像すらつきません。

 

 初めて人間の気持ちがわかりました。


 理不尽に選ばれ、死刑宣告を受ける絶望を。

 得体の知れない化け物の元へ差し出される恐怖を。



 



 

 お会いした領主は、普通の若い人間でした。

 こんな男が?と思いましたが、侮ってはいけないことはよくわかっています。

 魔王からの書状を渡すと、領主殿は読み始めました。


「ここにいて、魔王たちに有利になるようにお前が動く可能性はないのか?」

「父と魔王様より、『絶対に敵対するな、村の利益だけを考えその身を捧げよ』と仰せつかっております。私は貴方様に忠誠を誓います。」


 当然です。そのために私は遣わされたのですから。

 もはや魔族領に戻ることもないのでしょう。

 ここで一生奴隷以下の扱いで働かされるか、最悪見世物として大勢の前で嬲り殺されるか。


 しかし村長はそうはしませんでした。

 自分のことを「村長」と呼ぶように言い、私に館の資料整理の仕事を与えました。

 ……こんな簡単な仕事をのんびりやるだけでいいのでしょうか?

 正直、戸惑っています。

 書類自体も少ないし、割と綺麗に整理されていたのであっという間に終わりそうです。

 魔王城では本当に知能があるのか問いたくなるほど乱雑に書かれた記録を一枚一枚丁寧に書き直し、ただ積み重ねられ紙の魔窟と化していた資料室を整理するのに百年以上を費やしました。

 おかげで城仕えする者たちからは「資料室の知識の魔人」などと呼ばれていたのも今となっては良い思い出?です。

 とにかく、前の職場に比べたら天国のような待遇です。


 そして、何より生活が快適すぎます。

 食べ物が美味しい。今までも肉も酒も果物も食べていたはずなのですが、ここの食べ物は全く違います。

 食べたことがないほど複雑で奥深い味を出す料理に、甘さや酸味が絶妙に合わさった果実類、そして香りとのど越し、コクが三位一体となって押し寄せる素晴らしい酒。

 今まで好まなかった穀物も野菜も、全てが美味しいのです。

 魔王領では貴族としてかなりの地位にいたはずですが、こんな美味しいものは食べたことがありません。

 こんなものが毎日食べられるというだけで、「生贄万歳!!」と叫びたくなります。

 さらに豪華な浴場があり、村人は無料で入れるというのです。もちろん私も含めて。

 今はまだ『洗浄』の魔法で身体を綺麗にしているので入ったことはありませんが、そのうち入ってみようと思います。

 もはや生贄なのか何なのかわからなくなってきましたが、言えることはただ一つ。

 この地に、この村長に仕えている限り私の生活は安泰そのものです。

 これからも全力でお仕えすると誓います。


 生贄、万歳!



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