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147.怒り

 会談の内容は大臣達に向けて発表されるらしい。大臣らに俺の顔を覚えさせるために、と、俺もその発表に参加することになった。


 玉座の間には多くの魔族が集まっていた。

 一見人間のように見える者、巨人、鬼っぽい者、下半身が馬になっている人間……確か、ケンタウロスと言うんだっけか?それにあっちに見えるのはグリフォンだ。その他にもたくさんの魔族が勢ぞろいしており、並の人間なら卒倒してしまいそうなほど迫力は満点だ。

  全員もれなく俺達を凝視している。

 うへぇ。おっそろしい。

 それでも村の長として緊張や恐怖が顔に出ないよう精一杯頑張った。


「――以上をこの村との取り決めとする。」


  決められた合意を魔王の口から発表すると、玉座の間はザワついた。

 

「人間が魔王様と対等の立場だと?」

「戦争に介入する権利とは……何様のつもりだ?」

 

 俺達に対する視線はますます厳しくなった。シリウスが居るとはいえ、こんだけ大勢の魔族、しかも城に仕えるような立場の人間に睨まれたらさすがに怖いんですけど。


「静粛に!この取り決めは魔王様が決定されたことです。皆様は関係各所に通知の徹底を……」

「ぐっ!」

「……サラ?」


 突然、サラが苦しみ出した。

  胸を押さえ、息苦しそうに身体を丸める。


「サラ!?どうした!?」

「村……長……っ」


 その瞬間、シリウスが俺達の周りに結界を張った。同時に物凄い殺気がシリウスの身体から放たれる。今までも度々「やりすぎだ」と思うことはあったが、これはその比ではなかった。

 この場にいる魔族達は立っていることも出来ずに次々と崩れ落ち、中には気を失っている者もいる。息が出来ないのか胸や喉を押え苦しそうだ。

 魔王ですら、立っているのがやっとの様子だ。味方である俺も、少しだが肌がピリピリして寒気がする。

 サラはシリウスの結界に守られているせいかもう平気なようだ。


「シリウス、どういうことだ?」

「ケイ様、あなた方はここの魔族共に狙われたのです。先程のサラ殿が苦しみだしたのは、あの者の持つ魔力を威圧として放出したもの。今私がやっていることと同じようなものです。それにサラ殿は当てられたのです。ケイ様には魔法攻撃の類は一切効きませんのでご安心を。」


 『あの者』とシリウスが指を刺したのは、赤黒い肌を持つ大柄な鬼のような男だった。確かサラは『オーガ族』と言っていたっけ。

 一際苦しそうに地面にのたうち回っている。

 そうだったのか。全く気が付かなかった。というか、俺に魔法攻撃が効かないってどういうこと?いつからそんな設定になったんだ?

 色々突っ込みたいが今はそれどころじゃない。


 ビシィッ!!!


  城中がガタガタと揺れ、床には亀裂が入る。シリウスを起点に亀裂はどんどん広がり、壁にも到達している。

 シリウスは相当怒っているのか魔王に対しさらに威圧を強める。


「不可侵を宣言した直後のこの仕打ち……魔王よ、この国は我が主に恥をかかせ、我らが領地に敵対の意を表明する。そう捉えてよろしいですね?」


「ぐっ……ま、待て!」


 その時、魔王ガルーシュの後ろにいたランベールが動いた。

 光でできた鎖を出現させ、件のオーガを縛り上げると、そのまま俺達の目の前に引きずり出した。

 オーガはシリウスの威圧と締め付ける鎖に苦しみもがいている。


「地龍殿、大変失礼を致しました。そしてお手を煩わせてしまい申し訳ありません。そして領主殿、この反逆者の非礼を心よりお詫び申し上げます。この者の処遇は如何様になさっても構いません。どうぞ、領主殿のお気の済むままに。……それで良いですよね?魔王様。」

「ああ、好きにしてくれて構わない。どうか、いったん気を静めてほしい。」


 このままではここにいる魔族達は勿論、城まで壊れてしまいそうだ。

 ひび割れは壁を伝い、天井に届きかけているものもある。

 壁や天井から石のかけらがパラパラと落ちてくる。


「シリウス、いったんストップ!」


 俺がそういうとシリウスの威圧は収まり、地震や城中を伝うひび割れも止まった。

 とはいってもまだ燻ぶった殺気がシリウスの身体の周りを漂っているが。

 解放された魔族達はハァハァと荒い息を繰り返している。

 いつもだったらやりすぎだと思うが、今回はサラの命が危ないところだった。

 もしこれがレティシア達のような人間だったら?セシルやフランカのような子どもだったら?

 この先再びこういうことを起こさないためにも、ここは厳しく行く必要があるな。

 怖いなんて言ってられない。

 俺は魔王に向き直った。


「魔王ガルーシュ、貴殿らは先ほどの宣言を反故にし、俺達と敵対する。そう捉えて良いんだな?」


 俺の問いに対し、魔王は首を振り、そしてはっきりと言った。


「我が魔族領はそなたの村と争うことはない。その者はこの魔王ガルーシュに対する反逆者として断罪する。とはいえ、此度のことは完全に我の監督不行き届きだ。オーガ一族の序列は下し、その者の処遇はそなたの言う通りにしよう。どうか謝罪を受け入れてはくれないか。」


 俺の前に立ち、丁寧に頭を下げた。

 魔王が頭を下げた。それも公の場で。これに諸侯達は大いにざわついた。しかし、反対する者はいなかった。目の前の人間達の怒りを買ってはいけない。敵対は魔族全体の死を意味する。それだけの力をたった今身にしみて感じたのだから。


 一応ポーズはとれたし、他の魔族達もこれでちょっかいは出してこないだろう。

 魔王ガルーシュ自体は別に悪くないわけだし、今回はこの辺で手を引いてやるか。

 あとこのオーガ、これの処遇を任せられても正直困るんだよな。

 魔王の反逆者でサラの命を狙った敵とはいえ、「殺せ」とは言いにくいし、だからと言って何もなしじゃ両者に対して示しがつかないし。

 こういう時の丁度良い処罰って何だ?そんな経験ないからわかんねーよ。

 ……そうだ、とりあえずこうしとこう。


「よし。魔王ガルーシュに免じてこれ以上は追及しない。相互不可侵も継続だ。そしてこのオーガについての処遇だが、魔王ガルーシュ、貴殿に一任する。この者の扱いとこれからの貴殿らの動きを見て、こちらも対応を決めるとしよう。」

「……わかった。寛大な対応に感謝する。」


 めんどくさい時は他人に丸投げ、これに限る。

 もちろん釘をさすことはしておくけどね。すぐに許す甘ちゃんだと思われても嫌だし。

 ……ま、今後の魔族領の運命が決まるんだ。きっちり処罰はしてくれるだろう。

 そして他の魔族達にも釘を刺してくれることだろう。


 その後もやや慌ただしく会は幕を引き、俺達は帰路に就いた。

 さすがに城をヒビだらけにしといてそのままは申し訳なかったので、シリウスの力で元に戻しておいた。

 魔王ガルーシュからは「本当にすまなかった。そして感謝する。」と再度頭を下げられた。


「サラ、もう大丈夫か?」

「はい。もう何ともありません。ご心配おかけしました。」

「危険な目に合わせて悪かった。」

「何を言うんですか!危険は承知の上でついて来たんです。村長こそ、会談お疲れさまでした。」

「ありがとう。じゃあ、帰るか。」


 帰りには、土産兼お詫びの品として八頭の魔馬を贈られた。

 「グルファクシ」と呼ばれるこの種は金の鬣を持つ非常に美しい馬で、その脚力とスタミナは折り紙付き。「一日に千里を駆け抜けた」という逸話もあるとか。また、そこいらの魔物は蹴り殺すほど強く、殺しても死なないほど丈夫らしい。

 異世界の馬、すげぇな。いやグルファクシが特別なのか。

 お詫びということもあり、かなり良い馬をくれたようだ。

 とはいっても、さすがに龍車に馬八頭は入らない。仕方がないので眠らせてシリウスの身体に括り付けた。ちょっと、いやかなりかわいそうなことになってるけど、丈夫な馬だと聞いているし、大丈夫だよな?




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