143.気が乗らない誘い
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魔王の使いがまたやってきた。
確か、名前はベリアルと言ったな。
シリウスとサラに連れられ、屋敷の応接室に案内する。
「ご無沙汰しております。こちら、ほんの気持ちですが……」
「あ、これはどうもご丁寧に。」
律儀に手土産をくれた。またしてもでかい。ヘイディスさん行きかな。
「最近はいかがお過ごしですかな?」
「おかげさまで畑も広げ、住人も増えて楽しくやっておりますよ。ああ、先日手土産に頂いたキメラ、剥製にさせて頂きました。ありがとうございました。」
「それはそれは。あのキメラは魔王様が狩りで直々に捕らえた獲物なのですよ。魔王様もお喜びになります。」
「そうですか。見事な腕前ですね。そちらは最近いかがですか?浅学ゆえ、貴領については詳しくないのですが。」
「……相変わらず人間領との戦争は続いておりますな。まあこれは永久不滅の問題でしょう。ただ最近は人間たちの武器の性能が上がってきまして。おそらくドワーフでも雇ったのでしょうな。」
「へぇ……それはそれは。」
ドワーフが人間に売った武器が増えている……?
うちはドワーフに酒を売っている。
そのドワーフたちは酒代を稼ぐため人間に武器や道具を売っていると……あれ?これもしかして俺のせい?
考えすぎ、だよ、ね。ははははは。
「……この村は様々な種族がおられるようですが、人間領との安全保障などは?」
「ああ、何にもしていませんよ。と言いますか、まだ認知もされていない小さな農村です。」
「はぁ。それは良かった。」
「?」
「ご自覚がないようですが、あなたがたの戦力は人間領の大国をはるかに凌ぎます。そんな場所が人間領に味方していれば、こちらとしては頭が痛い問題です。」
「買い被りすぎでは……」
「龍族が二体もいる国など他にありますか。」
……確かに。うちは戦力過剰とも言えるな。
あとベリアルには言わないけど、アラクネとは共闘の約束はしてるんだよな。
「……それでですね、その件に関して、魔王様がぜひお話をしたいと。」
「え?」
「私を通じて相互不可侵の約束は取り付けておりますが、互いの安心のために一度首脳会談を開くのが良いとのことですが、いかがでしょう?」
「首脳会談だなんて、そんな大袈裟な。私はいち農村の村長にすぎませんよ。」
「我々はそうは考えておりません。」
「いや見れば分かる……」
「魔王様が人間の首長に対し、直々に会いたいと言う、それだけでこの村がどのような立ち位置であるかお分かりいただけるかと存じます。」
「でもねぇ。」
魔王なんて、正直会いたくない。だって怖いもん。
お互い不可侵で、知らん振りでいいんじゃないの?
てか、YESかNOかをこの場で言わなきゃダメ?他の人とも話し合いたいんだけど。
「……少しお時間を頂けますか?」
「分かりました。良い返事を期待しております。」
とはいえ、客人をただ待たせる訳にも行かない。
アヤナミに大量のご馳走を作ってもらいベリアルに提供する。酒も沢山出そう。
ビールにワインにシードルにウイスキー。大盤振る舞いである。
まあ魔王の使いなんてこの村では断トツの上客に違いないし、出来うる限りの接待をさせておく。
話し相手にはサラ、ティア、ティナ、アヤナミ、を派遣。
サラは魔族領に詳しいから話も合うだろうし、本人も魔族研究は進めているみたいなので喜ぶだろう。
給仕はティアとティナに任せる。伯爵家に仕えたその実力を今こそ発揮してもらおう。
アヤナミは見張り要員でもある。これでティアとティナに何かされることもないだろう。
俺は緊急会議を開く。
会議室に集まったみんなに今あった出来事を一通り話す。
「というわけで、魔王の使いが今来ていて、俺に魔王に会えと言っている。俺としては不可侵条約は結んでいるから無視でもいいんだけど。」
「魔王」というワードに全員驚く。無理もない、というか俺も驚いてるよ。
「魔王か……噂でしか聞いたことがないが、本当に存在するんじゃのぅ。」
「でも魔王の誘いを断ったりしたら、それこそ私たち皆殺しにされるんじゃないの?」
「相互不可侵を取り付けていてもですか?」
「絶対安全とは言いきれないじゃない。」
「魔王側も、今の私達と同じような気持ちなのかもしれませんね。」
こんな事態は初めてだ。大きすぎる出来事に全員困りあぐねている。
「村長、よろしいですか?」
「どうしたレティシア?」
「政治的な面から申し上げますと、会談の誘いを理由もなく断るというのは非常に失礼に当たります。相手の顔に泥を塗ることにもなりますし。話を聞く限りでは向こうがこちら側に対して危害を加えることはまず無いと思われますが、相手を立ててこの先も良い関係を築くためには、了承の一択かと。」
「この先も、か。やっぱり関わり続けるしかないのかな。」
「一度結ばれた縁というのはなかなか切り離せません。このまま素っ気ない態度を貫き通し心象を悪くしていきますと、いつか何かの拍子に……ということも考えられます。人間のわたくしからしたら、それがいちばん恐ろしいのです。」
「確かに。不可侵とはいえ、 関係ができてしまった以上上手く付き合って行くしかないじゃろうな。」
「じゃあ、了承するよ。相手を待たせるのもアレだし、細かい内容はまた後で話そう。」
食堂にいるベリアルの元へ合流した時、既にベリアルは出来上がっていた。
どうやらこの村のウイスキーが気に入り結構な量を飲んだらしい。
そのまま俺も酒宴に加わる。
酒のせいもあってからベリアルは先程とは違いかなり砕けた感じになっていた。俺としてはこっちの方が話しやすい。
「魔王ってば、酷いんですよ!」
すっかり酔っているベリアルが魔王の愚痴をこぼし始めた。
なんでも吸血鬼伯爵の息子が寝込んだことで城中が騒ぎになったとか、魔族領にとって脅威とも言える村にたった一人自分を派遣したこととか。
龍族やドライアドがいる地への配属なんて、責任が重すぎる……などなど。
「龍族二人に挟まれて、私がどんな気持ちだったか……あいつらは城でのんびり働いてるだけだからわからんのですよ!」
そう言ってグラスを一気に煽るベリアルを「まぁまぁ。」となだめる。
ベリアル、苦労してたんだな……。他国の大使ながら少し同情した。
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