14.村民会議
夜にまた投稿します。
ノームたちの話し合いの結果、ほとんどのグループはここに残り、残りのいくつかのグループは森の生活を希望した。
うん、もちろん歓迎だ。
全員でなくても、彼らが居ればさらに村は発展するだろうし、森を選んだノームたちもたまに食事なんかに招待してやろうと思う。良好な関係を築くことが第一だ。
他のみんなも異論はないようだ。
早速、ノームたちの住む居住スペースについて話し合いが行われた。
と言っても、話し合いは俺、セシル、ロベルトさん、ライア、棟梁ノーム、それにいくつかのグループの代表ノームたちだ。そんなに大げさな話はしないしね。
テレサたち女性チームは食事の片付けに入り、終わり次第合流することになった。
まず居住スペースについて。
これは広場の西側の木材加工スペースを使ってもらう。ノームたちによると大抵家のすぐそばに木や石を加工する設備を置いているんだそうで、それなら無理に俺たちの居住スペースに家を作る必要も無いんじゃないかという話になったからだ。
彼らがどんな家に住んでいるのか全く想像がつかないから、自由に作ってもらうことにした。
ただ、加工所についてはこの先人間も使うかもしれないから、そこだけは伝えておく。彼らに丸投げするのが早いかもしれないけれど、ゆくゆくは人間の技術者も育てたいからね。
それと、食事。
森に残るノームたちはいるものの、それでも大勢が村に移住する。そのため食事はじゃがいも、バーダなどを支給し、各自で食べてもらうことにした。
あ、もちろん昨日のバーベキューみたいな宴会には呼ぶよ。あと全員でなくてもいいから、交流を深める意味でもたまに食事は共にしたいかも。そう言うと満足そうに頷くノームたち。
そのままの流れで、今俺が気になっていることを挙げた。
一つ目は、地理。
正直俺はここがどこなのか、周りに何があるのか、どんな気候で季節はいつなのか、全く知らないのだ。
この当たりも記憶喪失ということにして情報を得ておきたい。
また、情報を共有するためにも地図の作成が必要だと思う。
二つ目は、水路。
人数も増えて畑もできた今、水汲みは結構な時間と労力を使う。子どもに任せるのは荷が重いだろう。かと言って、人員を増やす余裕は今のところない。
三つ目は、衣食住の「衣」について。
現状、俺たちはほとんど着の身着のままに近い。
せいぜい替えの下着やシャツがあるくらいで、衛生的にも宜しくない。もう少し衣服が欲しいところだ。
この国ではどのような繊維で衣服を作っているのか。それは俺たちで調達できそうなものなのか。
綿や麻が自生していればいいが、なければ地球から持ってくることも検討しなければ。
素材があっても糸をつむぎ布を織り、縫い合わせて服を作る技術もいる。もし必要ならば町や人里に行って買わなければならない。
いつの間にか戻ってきていたテレサたちにも参加してもらい、第一回村民会議が始まる。
代表ノーム以外のノームたちは森に帰り、早速引越し準備に取り掛かるようだ。
セシル・フランカはノームたちを見送っていった。いつの間にかかなり仲良くなっている。言葉が通じないはずなのに、子どもの順応のはやさには舌を巻く。
一つ目の地理については、ロベルトさんとライアが答えてくれた。
エルネアは四つの大陸からなり、ここはそのうち最も大きな大陸「ウォルード大陸」という。
その中で最も力を持つのが「ヴァメルガ帝国」。
その次に「リンメル王国」「トリノ公国」が拮抗しており、その他小国が連なる。みんなの故郷である「ノーラッド王国」は小国に当たる。
ロベルトさんたちが住んでいたのはノーラッド王国の一番端、山間に位置する「ルミエール村」という農村だ。
この空き地を含む周辺の森はノーラッド王国の北東に当たり、山を隔てた南西に王国、北側には魔族領がある。
村からかなり離れているため、滅多に人間は来ない場所だそうだ。
ライアの説明を聞いて、「いつの間にかそんなところまで来てしまったのねぇ……。」とマリアとテレサは顔を見合わせた。
この辺り一帯は人も魔族も出入りがなく、未開拓の原生林が広がっているらしい。
また、大陸の端に位置するため、東側には海があるのだとか。
気候や季節についてだが、今は初夏に当たるらしい。
一年を通して比較的温暖で安定した気候だが、冬には雪が降り、山間部は厳しい寒さに見舞われる。
山間部からの雪解け水は貴重な水源となっているようだ。
ロベルトさんやテレサいわく、今はまだ大丈夫だが、冬を越すためにはしっかりとした備えがいるだろうとのことだ。
ふむふむ、つまり今が一番作物も育ちやすく、森の中の食料も豊富ということだな。
ちなみに、植えたばかりの世界樹の精霊であるライアがなぜ周辺のことに詳しいのか尋ねると、ドライアドは辺り一帯の森の守護者となる代わりに、森の木々や花々から情報を得ることができるらしい。
だから周辺の事情や異変には敏感なのだそうだ。
「地図を作る、っていうのには賛成ね。村の開拓するにも、ここで生き抜く上でも、周辺の情報はみんなが知っておいたほうがいいわ。」
「ライアさんの情報もすごく役に立つけれど、やっぱり自分たちで調べるのも必要かしらねえ。川の形とか、どこにどんな植物があるかとか知っておけば、きっと役に立つわ。」
「そうじゃな。食料も安定して手に入るようになったし、これから少しずつ森の調査に踏み出したほうがいいのう。」
「植物といえば、ライアの力で一気に収穫できたけど、アレは後は枯れるのか?だとしたらまた種撒きもしとかないと……。」
「枯れることはありませんよ。確かに急成長させるのは私の精霊の力を使いましたが、ここには世界樹があります。世界樹が元気でいる限り、周辺の植物には世界樹の加護が与えられます。なので栄養不足で枯れたりすることはまずありません。もちろん、最低限の水は必要ですが。気候が違う地の植物もこの森でならちゃんと育つはずです。成長速度も他の地と比べて早くなりますよ。」
それはいいことを聞いた。畑を作る上で連作障害とかは気になっていたからな。
それがなくなると言うならば、輪栽式やら畑を寝かせる必要もない。必要なものはどんどん育てていこう。
気候が違う植物が育つというのなら、イネや果実なんかを育ててもいいかもしれない。
次に、水路。
これはノームたちが助けてくれることになった。
川からこの空き地まで土を掘って水路を伸ばしてくれる。
せっかくなので溜池も作りたい。衛生面を考えて上水、下水もしっかり分けておかないと。
ここらへんは地球に帰って調べ直してこよう。設計図やイメージ図をノームたちに見せれば、きっとそのとおりに作ってくれるはずだ。
水路ができれば飲料水の確保も手軽になるし、農業用水の問題も解決する。畑も広げやすくなるだろう。
ゆくゆくは風呂も夢ではないかもしれない。
うん、水路づくりは第一優先で取り組もう。
今夜辺り、早速地球に転移するか。
次に、衣服。
テレサによると、この国では綿花や大麻から取れる繊維で衣服を作っている。
あとはリンメル王国の特産品であるシルク。これは相当な高級品で、貴族クラスでないとまず手に入らない。王国お抱えの職人が極秘の手法で作っているらしく、原料は不明ということだ。
シルクだったら、確かカイコっていうガの幼虫が吐き出す繭だったよな。
地球で調べればできないこともない。
問題はカイコがこの辺にいるかどうかだ。これは森の守護者であるライアに聞くのが手っ取り早い。
「シルクって、カイコっていうガの幼虫だと思うんだけど、ライア、この辺にカイコは生息してるのか?」
「カイコ、ですか?残念ながら聞いたことがありませんね。この森にそのような生き物は住んでいません。」
「そうか……。」
カイコって言ったら、前にテレビで見たけど品種改良の末人に世話されないと生きて行けなくなったとか言ってたもんな。自然の森にいるはずもないか。残念。
「ですが、衣服にできそうな繊維を作る生き物ならいますよ。シルクスパイダーという蜘蛛です。」
「!!!」
それだ。シルクスパイダーって、まんまの名前じゃないか。
「それだよ!多分シルクスパイダーの糸からシルクができると思う。シルクスパイダーを捕まえて村で飼おう!」
「なんと……まさか蜘蛛の糸から上等な布を作っとったとは……」
「面白いことを考える人もいたのねぇ。」
「というか、なんでケイはそんなことを知っているの?シルクの扱いはリンメル王国の中でも一部しか知らない機密情報のはずよ。」
「あ、いや、『賢者の書』に書いてあったんだ。ちょっと読み間違えてたみたいだけど。」
困ったときの言い訳、『賢者の書』だ。
「シルクスパイダーってどのへんに生息してるんだ?というか、ノームたちみたいに呼び寄せられる?」
「私が直接何かを指示できるのは精霊と植物のみです。虫たちを直接使役することはできません。ただ、シルクスパイダーの生息場所なら木々たちが知っていますよ。」
「それなら、わしらがその場所に行って確保してくるしか無いのう。まあ、森の探索がてら行ってみるのもありじゃと思うぞ。」
「綿花と大麻が生えてないかも探しに行きましょう。あと機織り機と糸紡ぎさえあれば私が織れるから、服も作れるわ。」
「テレサの織った布は質が良くって人気だったのよ。」
「そうだったんだ。機織り機と糸紡ぎか……ノームたち、作れそうかな?」
自信たっぷりに頷くノーム。よし、解決だ。
じゃあ、機織り機と糸紡ぎの設計図も調べてプリントアウトしておこう。
「んじゃ、ここまでのことをまとめると、俺たちはこれから森の探索。主に周辺の地理や植生について、そしてできればシルクスパイダーと綿花、大麻の確保。水路と機織り機はノームたちに一任する。ライアは俺たちが探索している間、村と畑、子どもたちを見ていてほしい。あと他になにかある?」
俺は議事録(ノートに走り書きした簡単なメモだが)を読み返した。
「急ぐわけじゃないけど、調理場と食事場は屋内に移したいわね。今のままじゃ雨が降った時大変よ。」
これはテレサの意見だ。
確かに、今まで雨が降ったことがなかったから気にならなかったが、いつまでも外でというのもな。
「となると、食堂のような建物が必要になるけど、お願いできるか?」
俺の言葉に問題と言うように頷くノーム。あれもこれも頼んでしまって悪いが、餅は餅屋と言うからな。
ノームたちの住居造りに並行して、食堂も作ってもらうことになった。
そういうわけで、第一回の村民会議が終了した。
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