139.収穫祭と歓迎会
あらかた案内も終わったので、移住者たちの仕事の割り振りをする。
まず食堂を経営していたという夫婦。名前はガストンとマルセル。彼らはマリアさんと一緒に食堂を担当してもらう。
この世界の調理法はまだまだ確立されていない。せいぜい「煮る」か「焼く」くらいだ。
マリアさんに教えたいろいろな料理を学んで、村の食事を一層豊かにしてほしい。
そういうと、「お任せください!」と力強く答えた。うん、良い返事だ。
次にパン職人だったという、チョビ髭の男。名はグリッシ。彼にも引き続きパンを焼いてもらう。
これまではマリアさんが料理も作ってパンも焼いてと大忙しだったからな。これで村にパン屋誕生だ。
パン屋用の店舗と設備は新たに作らなきゃいけないから、あとで教えてもらおう。
グリッシは、「またパンが焼けるなんて……皆さんのためにも頑張ります。」と涙ながらに言っていた。
同じく元燻製職人のスモークも、燻製工房を任せることに。保存食としてもよし、普通に食べてもよし、美味い燻製を期待している。
鍛冶場見習いと陶工見習いの二人も、その職を続けてもらう。陶工見習いは工房で陶器づくり。もう見習いではなくプロだ。
鍛冶場見習いはジークに弟子入りさせた。「ボンクラはいらん!」とジークは言っていたが、何とか押し付ける。あとは頑張ってついて行ってくれ。
元鉱山夫だったという三人はゲオルグにつけた。徐々に鉄やボーキサイトの需要が高まっていってるから、しっかり頼む。
農民出身者は同じく畑仕事へ。女性陣で機織りが得意というのが二名いたので彼女たちは機織り小屋の方へ。
農民枠で一人十二歳の男の子がいたので、彼は仕事免除。他の子たちと同じように学校へ通わせる。
うちは成人する十五歳未満は仕事は免除。税金も当然免除だ。学校の授業料も無料。子育てと教育には手厚くいこう。
彼の親たちは唖然としていたが、「それがうちの方針。みんなやってるから、君たちの息子だけ特別扱いはしない。」というと「ありがとうございます。ありがとうございます!」と涙ながらにお礼を言われた。
あと、農民の中でも羊飼いをやっていたという男がいたので彼にはうちの家畜の世話を担当してもらうことに。
そして、個人的に興味深かった彼。シンバと名乗る男の前の職業は、『伯楽』だ。
簡単に言うと、馬の専門家だ。馬の健康状態を見極めたり、丈夫で質の良い馬を見分けて売ったり。
聞けばレストイア王国の貴族御用達だったというが、なぜにそんな人が奴隷に?
「貴族御用達とはいえ、私自身は領地も私兵も持ちません。戦争で様々な場所をさすらいましたが、着の身着のまま、見知らぬ難民の男に大切な馬を任せるものはおりません。ゆえに仕事にならず、金に困った次第です。」
なるほど。まさに戦争の不運という奴か。
とはいえ、うちに馬はいないんだよなぁ。とりあえず、家畜の世話に任命するか。
「……たとえばさ、馬以外の動物、牛とか羊の健康状態とかわかる?」
「専門とはいきませんが、四つ足の動物でしたら何となくは……」
「よし、じゃあ、シンバは家畜の世話兼この村の獣医ってことで。」
「かしこまりました。」
すべての移住者の割り振りが終わり、新たな工房に必要な設備などの要望も聞いたので、ひとまず今日はこれで解散。
移住者たちも初めてのことが多く疲れただろう。はやく休んでもらうとしよう。
さて、俺はノームたちに建築の相談でもするかな。
春の収穫一回目が終わり、今日は収穫祭だ。
一回目の収穫なので、必然的に量はそこまで多くない。そして、成長の早い作物だけに限られる。
まあ、そうはいってもここは世界樹の根元、通常の三~四倍の速さで成長するもんだから結構な種類の作物が収穫を迎えた。
ニンジン、ダイコン、ジャガイモ、ホウレンソウにレタスに大葉、少量だがキュウリやトウモロコシまで実っている。
さすがに果実類は春には実らなかったが、白やピンクなどいろいろな色の花を咲かせて村をにぎやかにしてくれている。
今年初めての収穫、感謝とこれからの豊作を願う祭りだ。楽しく盛大に行こうじゃないか。
収穫したこれらの野菜と、森でとれた肉でご馳走を作る。
サラダにポトフにホウレンソウとジャガイモのチーズ焼き、保管してある米でおにぎりも大量に。
さらに残っていた餅米で餅をついた。力自慢の鬼人たちが大活躍してくれたよ。
餅つき自体もいい見世物になる。子どもは勿論、初めて見た移住者のみんなやエルフたちも大喜びだ。
砂糖醤油ならぬはちみつ醤油でパクリ。子どもたちにはのどに詰まらせないようよく注意する。
大豆が収穫出来たらきなこをつくって保管しておこう。サトウキビもはやく収穫したい。
冬前に作っておいた干し柿もだす。春に食べられる貴重な果物の一つだ。
更には今朝とって来たというシカとヘルチキン。豪快にステーキのように焼いたり、魔導コンロのオーブンでヘルチキン丸鶏のままローストにしたり。
食堂から広場にやって来たエルヴィラ。彼女が誇らしげに掲げる美味しそうなヘルチキンにみんな拍手喝さいだ。
料理が揃えば、いよいよ宴会だ。酒もふるまい、飲んで食べての大騒ぎ。
楽しそうな俺たちを盛り上げようとしたのか、シルフが果樹園の花びらを雨のように降らせてくれた。
子どもたちはキャーキャー言って喜んでいる。
大人の女性陣も「きれいねぇ……」「春って素敵」とうっとりしている。
「こんなに美味しいものがあるなんて……」
「こんなに楽しい祭りがあるなんて、知らなかった。」
「ここにこれてよかった……」
「ヘルチキンの肉なんて、一生食べることはないって思ってたよ!」
「お腹がいっぱい……いつぶりだろう……」
「ご主人様に選んでいただけて、本当に幸運です……!」
移住者たちが泣きながらご飯をほおばり、また涙を流す。
泣くほど喜んでくれたなら、こっちとしても連れてきた甲斐があるというものだ。
「ほら、今日は皆の歓迎会でもあるんだから、泣いてないでもっと食べなよ!」
「お餅は食べた?美味しいのよ!」
「お酒はいかがですか?」
「おれ、セシルって言うんだ。お前はなんて言うの?」
「僕はゼノ。ほら、君もあっちに行こう?シルフの風に乗ったことはある?」
泣き笑いの移住者たちとともに、宴会は夜まで続けられた。