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134.奴隷商マクシム

「なんだっ!?」

「何があった!?」


 突然の轟音と地響きに、建物の内外から叫び声が聞こえる。この音はおそらく外からだ。

 マクシムは窓を開け、音のした方を覗く。俺達も一緒に覗き込んだ。


「これは……。」


 どうやら隣の区画で建設作業中に、三階建ての屋根の一部と足場が崩れたらしい。

 そして運悪く、崩れた屋根のレンガや石が下に停車していた馬車に直撃したようだ。


「うちの馬車じゃねぇか!クソっ!!」


 言うが早いか、マクシムは部屋を飛び出していった。


「俺達も行こう!」


 俺、ヘイディスさん、シリウス、アヤナミもマクシムを追いかける。

 現場となった裏通りは瓦礫がいたるところに散乱し、ひどいありさまだった。

 何よりも馬車が瓦礫につぶされており、その中に人の手足が見える。

 どうやらこの馬車、奴隷を仕入れる専用の馬車で、中にはたくさんの奴隷が詰め込まれているらしい。


「クソがぁ!!どけっ!」


 マクシムは野次馬を払って馬車の方へ行き、瓦礫をどかそうとする。

 しかし、人間一人二人の手でどうにかなるものではない。


「あーあ、こりゃもうダメだろ。」

「まあ、下敷きになったのは奴隷だろ?不幸中の幸いってところだな。」


 野次馬の声が聞こえる。人がこうなったのに不幸中の幸いって……。

 この国の奴隷観に俺はまだついていけないようだ。

 

「っせぇ!臭え口開く暇があんなら手伝いやがれ!こいつらだって一応は生きた人間なんだぞ!?」


 必死に瓦礫をどかそうと奮闘するマクシムを俺達も手伝う。

 

「クソっ!俺は奴隷商だ!奴隷は俺の大事な商品だ!簡単に手放してたまるかよ!!」


どうやらこのマクシムという商人、口はすこぶる悪いが奴隷達を大事にはしているらしい。手を真っ赤にして瓦礫をどかそうとする。

 大きな瓦礫はシリウスの魔法にお願いした。大きな瓦礫は宙に浮きあがり、道端に静かにおろされた。

 小さなものは砂塵と化す。これで俺達や中の人が出る時に怪我をすることもないはずだ。

 シリウスが魔法で馬車の真上にあった大きな瓦礫を浮かすと、中から続々と人が這い出てきた。


「オラ!死にたくなかったらさっさと出やがれ!自力で出られねぇやつはいんのか!?」


悪態をつきながら下敷きとなった奴隷達を引っ張り出す。俺達も全力で引っ張り出す。幸い、命は全員助かったようだ。

しかし全員怪我をしていて、中には骨が折れている人もいる。


「アヤナミ、頼む!」

「はい。」


 アヤナミの力で怪我は瞬く間に治った。

 怪我が治った奴隷達はぽかんとしている。


「魔法だ……」

「魔導師様か……?」

「奴隷の怪我を、わざわざ魔法を使って治すなんて……。」


 そうこうしている間に、オットー氏が出てきた。

 怪我が治った奴隷達を中に入れ、「あとは私が。」と従業員を下げる。

 事故とはいえ、店の商品(しかも高額)に傷をつけたのだ。裏稼業の人間としてしっかり”お話し合い”をするのだろう。

 まあ実際には怪我は全てアヤナミによって治療済みなんだけど。





「すまねぇな。うちのゴタゴタに巻き込んじまって……あと、奴隷共を助けてくれて。その、感謝してるよ。」

「いやいや、あんな事故があったんだから。みんな無事でよかったよ。」

「……オメェは奴隷を丁寧に扱う気があるんだな。」


 部屋に戻り、マクシムが顔を赤らめながら礼を言ってきた。よっぽど気恥ずかしいのか、すごい勢いで目が泳いでいる。

 それにしても、マクシムの態度は意外だった。奴隷達のために部屋を飛び出して、あんなに必死に瓦礫をどけて。

 アヤナミに治療されたマクシムの手は、爪が割れ、皮がむけて真っ赤になっていた。

 『商品』として奴隷達を虐げていると思っていたけど、ちゃんと『人間』として扱っている。


「俺も、マクシムの態度には驚いたよ。もっと『奴隷なんて死のうが生きようがどうでもいい』って感じだと思ってた。」

「あぁ!?自分トコの商品を『どうでもいい』なんて言う奴があるか!」

「あはは……いや、周りの野次馬の反応からそう思っただけだよ。」

「マクシムは見かけはこんなですが結構いいやつなんですよ。だから私も信頼を置いています。」

「ですね。ちょっと見直しました。」

「あのなぁ……。」

「もともとマクシムは表の世界で仕事の斡旋をやってたんですよ。どっちかって言うと奴隷には反対の立場ですね。でも、ある時突然その職場をやめて奴隷商に。私も詳しくは知りませんがね。」

「え?そうなんですか?意外。」

「余計なこと言ってんじゃねぇ!」


 ヘイディスさんの言葉に顔を赤らめ語気を強めるも、「ふうっ」と息を吐いた。

 窓の外を見ながら静かに続ける。


「俺は昔から人を見るのが好きだったし、得意だった。何となくわかんだよ。『こいつは将来成功する』『こいつは自分の才能を伸ばしきれてない』ってな。その特技を生かして、仕事斡旋所で働いた。でもな、世の中結局金だ。仕事の斡旋にも結構な金を喰う。慈善事業してるわけじゃねえから当然だ。……でも、金がなくて仕事の紹介すらしてもらえない『才能持ち』を、俺は道端で何人も見てきた。特にここ数年はそれが多くなってんな。」

 

 だからマクシムは金を払わずに”人材”として登録できる奴隷商に目を付けた。

 道端に転がっている『才能持ち』に話を持ち掛け、奴隷契約をする。主人が見つかるまでは衣食住の世話もし、必要ならば読み書きや武術の訓練もさせた。

 もともと素質のある者達を集めているため短期間でどんどん吸収し、『上質な奴隷』として高く売れるようになった。

 オットー氏はマクシムの才能と計画を買い、見事その読みは当たった。オットー人材斡旋所は数年で業績を大きく伸ばした。

 

「俺だって心がねえわけじゃねえ。国が起こした戦争でこんなとこまで流されるなんざ気の毒なもんだって思うぜ。でもな、こっちだっててめえの生活と従業員の生活が懸かってんだ。金にならねえなら下手に助けてもしょうがねえ。俺も俺もと寄ってこられても困るからな。だからせめて役に立ちそうなやつを商品にすることで命をつなげ、お貴族さん方に高く売り払う。運が良けりゃ一生面倒見てもらえるし、才能をうまく伸ばしゃ重宝してもらえるかもしんねぇ。俺にもたんまり金と評判が手に入る。これが俺にできる最大の譲歩だ。」

 

 おどろくほど真っ当な人だと思った。見た目は怖いし、口はすこぶる悪いけど。

 社会的な弱者に心を痛め、自分にできることを考えてできる範囲で実行する。しかも一回きりとかではなく、持続的に支援が可能になるように利益も出しながら。

 ヘイディスさんが信頼し、仲が良い理由が分かった気がする。

 

「マクシム、奴隷商としてあんたを心から信頼するよ。さっきも言ったけど、俺も村の開拓と村人の生活のために色々工夫しながら頑張っているんだ。今回はそのための人材が欲しい。買った奴隷は『村民』として大事にすると約束するよ。俺に最高の人材を紹介してほしい。」

「ケッ、急に領主の様な顔つきになりやがって。まあさっきの礼だ。せいぜい役に立ちそうなのを見繕ってくるから待ってな!」


 そういうとマクシムは部屋を出ていった。

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