132.再びキークスへ
村のあれこれはロベルトさんにお願いし、俺達は出発の準備を進めた。
今回は俺とシリウスとアヤナミの三人で行く。村の防衛はライアと鬼人達にお願いしておいた。
ノーム達には家屋づくりを進めてもらう。
何人が移住してくるかはまだわからないので、単身者向けの長屋と家族向けの戸建ての二種類を作ってもらうことにした。長屋タイプはノーム達が今住んでいるし、特に問題なく作れるだろう。
細かいことはトウリョウに丸投げだ。
例によって”暗黒の森”の入り口までは龍に馬車ごと運んでもらう。
街道を整備したとはいえ、森の入り口から村まで約六日掛かる。それに比べたら龍の方が断然早い。
本当はキークスまでひとっ飛びしたいところだが、人の町の上空にこんな大型の龍が出たりなんかしたら、それこそ大問題らしい。騎士団による討伐隊が組まれ、住民は一斉非難。
さすがにそれを聞くと龍での移動はできないな。いちいち事を荒立てたくないし、注目されるのも面倒だし。
ヘイディスさん達は今回馬車二台で来ていたため、シリウスとアヤナミにそれぞれ運んでもらう。道理でたくさんの作物を買ってくれてると思ったよ。
例によって『暁』の皆さんはシリウスの背に。御者を務めていた下働きの二人もヘイディスさんの許しを得てシリウスの背に。
移動中、相変わらず興奮した騒がしい声が聞こえてきた。
「騒がしくて申し訳ない。」
「ははは、いいですよ。」
俺とヘイディスさんは馬車の中で世間話でもしながらのんびり過ごす。
しばらくすると森の入り口に着いた。ここからは馬車で山道を進んで行く。
およそ十二日間の旅程を経て、俺達はキークスの町にたどり着いた。
オルディス商会の裏手側に馬車を止め、『暁』の皆さんとはここでさよならだ。
俺はオルディス氏に挨拶をしようと思ったが、残念ながら不在だった。しょうがない。また帰る前にでも挨拶に来よう。
日も沈みかけてきたので、まっすぐ宿屋へ。今回はヘイディスさんおすすめの『椿亭』にお邪魔した。
『椿亭』に行く間、何となく細い路地などを見ると、確かにホームレスっぽい人が道端にしゃがみ込んでいた。ちょうど通りかかった警備隊っぽい人に追い立てられている。なるほど、こういうことか。
前回は綺麗な大通りだけしか見ていなかったけれど、こんな都会でも一本道を外れたら難民やホームレスがいるんだな。
居場所がないって辛いな。
『椿亭』は、割と新しくできた宿で、前回泊まった『芥子の実亭』よりも少しお値段はしたが、ベッドの質が良く快適に眠ることができた。もちろん風呂もついている。商人や金持ち向けのリッチな宿と言ったところか。
翌日、着替えて朝ご飯を食べた俺は町に散策に出る。
ヘイディスさんとは昼に待ち合わせしている。それまで近くの店を見て回ろう。
まず向かったのは本屋だ。ヘイディスさんから買い付けた他にも、まだまだたくさん本は欲しいからな。
せっかく学校併設の図書館があるのだから本で埋め尽くしてみたい。そしてみんなに読んでほしい。
昔の物語に神話の本に精霊教関連の本、科学、料理、生活の知恵など、ジャンルが偏らないように気を付けて選んだ。
会計台に積み上げる本と金貨の山を見て書店の主人が目を丸くしていたが気にしない。これからもお世話になると思うけど、よろしくお願いします。
次に焼き物の店。うちには土で作った焼き物というものはない。食器は大抵木製か金属製、たまにガラス製の物もある。
焼き物の食器もあればいいなと思っていた。
いくつかの工房から集められた焼き物達は、工房ごとに特徴が異なっている。
土の風合いを生かしたもの、薄くて固いもの、中には釉薬を縫って色付けをしたものもある。
焼き魚にはこれが合いそうだな、これは野菜の煮込みに……これはとっておきのごちそうにどうだろう?
色々な料理を盛り付けているところを想像しながら十枚ほど購入。いいお値段にはなったが、後悔はしていない。
村を発展させるために金を使って何が悪い。というかそれ以外に使い道がない。
魔法鞄の良いところは、焼き物が割れる危険がないことだな。どういう仕組みかはわからんが、中に入れたモノはそれぞれ別の場所に保管されているっぽい。本と焼き物と重い金貨の袋を一緒くたに入れても割れたりはしなさそうだ。
次に行ったのは樽や麻袋を扱う店だ。大中小様々な麻袋や木箱、樽、甕を売っている。
商人や農民にとっても必需品だからだろう。俺が行った時もすでに数人の客が商品の大きさを比べ真剣な顔で悩んでいた。
ここでは麻袋を大量に買う。もちろん村でも作っているが、テレサ達には衣服づくりに集中してほしいからな。麻袋自体もそんなに高いものじゃないし、買えるものは買っておこう。
甕もいくつか買っておくか。酒とか調味料とか、何かしらを入れるのに役に立ちそうだ。
他にもあちらこちらの店をのぞいているうちに、すっかり昼になった。そろそろヘイディスさんのところへ行こう。
屋台で羊肉の串焼きを買い、歩きながらたべる。
かなりスパイシーに味付けされたそれは、ジューシーに良く焼けていて美味かった。
シリウス達は遠慮していたが一人だけ食事をするのも悪いので半ば無理やり押し付ける。ピシッと整った執事やメイド風のたたずまいの二人が串焼き肉を齧っているのはなんだかちぐはぐで面白いな。
待ち合わせまでの時間つぶしのつもりだったが、なんだかんだしっかり楽しむ俺だった。