13.なんじゃこりゃあ
朝、ほぼ同時に竪穴住居から出てきた俺たちは、早々に異変に気づいた。
……なんかものすごい建物が立ってるんですけど。
宮大工づくりの神社のような建物が三つ、等間隔に並んでいた。
さらに、広場には俺たちが作ったテーブルとは比べ物にならないほどきれいなテーブルに、背もたれ付きの椅子、調理台の天板はすべすべの石造りだし、石を積んで作ったはずの竈はセメントのようなもので作り直されていた。ついでに二口になっている。
「あらまあ……。」
「こりゃまた……。」
「ええっと……。」
「ここどこ?」
「お城みたいだねー。」
うん、そんな言葉しか出ないのもわかるよ。
いやいやいやいや、何これ、ナニコレ!?
もはや小屋じゃないよ。神社じゃん!こんなところで寝たら罰当たりそうだわ。
まさか夜通し作っていたのか?
呆然と立っている俺の前に、昨日の棟梁らしきノームが誇らしげに立っていた。
……もう何も言うまい。こういうのは受け入れてしまえば楽だからね。うん、受け入れよう。
「あらあら、随分とはりきったようですね。」
気がつくとライアが楽しそうに笑っていた。
ノームが誇らしげに一礼する。
「昨日いただいたお料理が美味しかったので、夜も頑張ったらしいですよ。とにかくこれで小屋ができましたね。」
一人のんきなライアに、俺たちは笑うしかなかった。
棟梁ノームの案内で、小屋の中を確認する。
まずは畑のすぐ前に建ててもらった食料庫。
大量の食料が入るように他の小屋の倍以上の大きさを考えていたが、出来上がってみると予想以上にでかい。
見た目は歴史の教科書で見た『正倉院』っぽい。あれ?『正倉院』って国宝とかを保管してたんじゃなかったっけ?
まあ、食料は俺らにとって宝に等しいから、あながち間違いではないか。
中は広々としており、壁際には棚も作ってもらった。
大きなものも保管できるように、壁の一面は棚無しだ。
すでに食料がきちんと運び込まれており、梁からはロープが数本たれている。ここに干物系をぶら下げてもいいかもな。
うんうん、素晴らしい出来だ。俺らには絶対に作れなかったね。
他のみんなはあまりの立派さに「へぇ」とか「ほぉ」とかしか言ってなかった。
その気持ち、わかるよ。
次に住居、これは二つとも同じ作りだ。
ちなみに、見張りの必要がなくなったので、部屋割は男女で分かれることにした。
家族と離れて寝ることについて「大丈夫?」とマリアは聞いていたが、「おれもう十歳だよ?」と呆れ気味に反論していた。
「まだ」十歳なんだけどな。頼もしい奴め。
食料庫と同じ高床式で、段差の低い階段を登ると木製の引き戸。
部屋の中はまだ木枠だけだがベッドが三つ。荷物なんかを置ける棚。背もたれのない椅子なんかがあった。
学校の課外活動で行く『青少年の家』みたいだな。俺は病気で行けなかったから、姉貴の写真で見ただけだけど。
窓は扉と同じく引き戸式。虫が入る心配もなさそうだな。
一応網戸とかの設置も検討しておこう。
子どもたちは大はしゃぎで、ベッドの木枠に寝転んだり、窓を開け閉めしたりと忙しい。
大人たちも子どもほどではないにしろ、棚やら扉やらの触っては「へぇ」とか「ほぉ」とか言っていた。
「ノームさん、すっごーい!!!魔法使いみたい!」
「力持ちだし、こんなんつくれるし、すげーよな!!!」
子どもたちからの称賛に、帽子で分かりづらいがとても誇らしげだ。
ドヤ顔でセシルに向かって人差し指を出すと、セシルもすぐさま人差し指を合わせる。
どうやらお決まりの挨拶になったようだ。
「お兄ちゃん、それ、なあに?」と聞くフランカに、「ノームたちの挨拶だ。」と得意げなセシル。
それ最初にやったのお前だけどな。まあお互い気に入ってるみたいだから気にしない。
「なにか改善してほしい箇所はありませんか?」
「いやあ、とんでもない!あまりにも見事で驚いたわい。」
「建物の形も、見たことないけど素敵だわ!」
「こんな立派な家に住めるなんて夢みたいねぇ。」
ライアの言葉に、三人ともブンブンと首を振る。
「じゃあ、食事が終わったらベッドづくりをしようか。それと、ノームたちも一緒に御飯食べるか?」
「いいね、みんな連れてきてよ!お礼も言いたいしさ!」
「ノームさん、ご飯一緒に食べよー!」
俺たちの誘いに棟梁ノームはしばし迷っていたが、すぐに森の方へ駆け出した。
さて、ノームたちが集まる間に、食事の準備を進めよう。
俺たち一行は広場の方に戻った。
今日の食事は、トマトやキュウリをたっぷり使ったサラダと、人参とキャベツ、川魚を入れたスープ、ふかしたジャガイモだ。
足の早い野菜からなるべく消費していく。
もちろん、デザートには子どもたちの大好きなイチゴもある。
朝から甘い果物が食べられることに二人は感激していた。
「色んなお野菜があるねー。」
「前の村より美味しいよな!」
「朝から果物を食べられる日が来るなんてねぇ」
「まるで貴族様にでもなった気分じゃわい」
「でも、こんなにふんだんに使ってよかったのかしら…?」
どうやらみんながいた村は相当貧しかったようだ。戦争中だったし、そりゃそうだよな。
ノームたちは、昨日よりも増えていた。軽く百人はいるんじゃないだろうか。
昨日は男ばかりだと思っていたが、小さなノームよりもさらに小さい、おそらく子どもと思われるノームや、母親と思われるノームもいた。
ちゃっかり家族総出でご馳走になるつもりだ。
まぁ、夜通し働いてもらったんだからこれくらいはしないとな。
昨日と同じように、ジャガイモを中心とした野菜たちを小さく切って葉っぱの上に置いた。
小さいとはいえ、流石に百人分は一つの葉に収まらない。何ヶ所かに分けて置いておくと、わらわらと好きなものを食べだした。
「なあ、この際、ノームたちもここに住んだらどうだ?」
俺は昨夜から思っていたことを言ってみた。
ノームは優秀だ。特に家づくりにおいては俺たちなんか比べ物にならない。
この先も何かと頼りにするつもりだ。
それならいっそ、この村に移住してもらった方が早いのではないか。
もちろん食事は用意するし、なんなら給金として出すのもありだと思う。
そんな俺の案に対し、すぐさま賛成の声が上がった。
「確かに、こんなにすごいものを作れる仲間がいたら心強いわよね。」
「この先人手は何より重要じゃ。その意味でも是非とも来て欲しいところじゃのう。」
「畑があるから、お食事も用意できるしねぇ、いてくれたら助かるわ。」
「ほんとだよ!ずっとここに住めばいいじゃん!」
「ノームさんも一緒に暮らそうよー!」
俺たちの猛プッシュに、棟梁ノームはしばし考えたのち、ライアに向かって一礼した。
「どうやら、しばらく考えさせて欲しいそうです。」
棟梁ノームは机から飛び降り、他のみんなに指示をする。すると、いくつかのグループに別れて集まり始めた。
「ノームたちは何をしているんだ?」
「部族や家族ごとに相談しているようです。ここに残るか、森の生活に戻るか。」
そうだよな。今まで森で暮らしてたのに、急に移住しろと言われても「はい行きます」とはいかない。
彼らにも生活があるだろうし。
でも、是非とも引き抜きたい優秀な人材なんだよなあ。
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