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127.再び蜘蛛の洞窟へ

 シルクスパイダー研究のパーシヴァルによると、気温が暖かくなって来た今くらいの季節から、シルクスパイダー達は妊娠を始めるらしい。もしかしたら研究に協力してくれる蜘蛛がいるかもしれないということで、スカウトのために再び洞窟へ行くことにした。

 今回は俺、シリウス、フランカ、パーシヴァル、そして魔法研究チームの四人。

 魔法研究チームを連れて行くのは、蜘蛛の洞窟内に『転移魔法陣』を設置するためだ。洞窟の入り口、もしくはアラクネがいた階層に設置できれば、これからの移動が楽になるからな。

 一度行ったことがあるし、アラクネから協力するように言われているから攻撃されるようなことはないと思うけど、一応護衛のシリウスと交渉役のフランカも連れていく。

 パーシヴァルも専門家だし、何より「絶対に行きます!」と切望されたので連れていく。

 そうそう、手土産も持っていこう。肉や魚や作物類。魔法鞄に入れてしっかり肩にかける。


 蜘蛛の洞窟の入り口まではシリウスの背に乗っていく。

 前回の鬼人達に運ばれての移動もかなり早かったが、やっぱり龍の速度にはかなわない。木や傾斜を無視して空を飛んでいけるというのも大きい。

 さすがのエルフ達も空を飛ぶのは初めてらしく、大いに興奮していた。

 なかなか自分達の住む森を上から眺めるってないもんな。

 フランカも大興奮で、「すっごーい!たかーい!!!」と叫んでいた。


 小一時間ほどで洞窟の入り口に到着した。

 中に入る前に、エルフチームは洞窟の入り口より少し離れた平らな部分に魔法陣を書いていった。

 指先が金色に光り、地面をなぞっていく。なぞられた場所も淡い金色に光っていく。

 エルフがこういう風に魔法を使う姿はなかなか興味深く、ずっと見ていられる。

 俺は黙ったまま、フランカは「光ってる!」「きれーい」などと漏らしながら作業の様子を見守っていた。

 複雑な文様が書かれた魔法陣は、全部書き終えるまでに一時間ほどかかった。

 その間一言も喋らず集中していたエルフ達は、書き終えて顔をあげると「ふうっ」と大きく息を吐く。


「お疲れさん。」

「お待たせしました。これで村と洞窟を繋ぐ魔法陣は完成です。」

「書くのに時間がかかるのと、四人がかりでやらねばならぬのが少々ネックですね。」

「ですが、これからはいつでもすぐにここにこれますよ。」

「早速、帰りに使ってみましょう!」


 やりきった顔のエルフチームが口々に言う。確かに、エルフ四人がかりで一時間もかかる魔法ってかなり大がかりだよな。

 もしこれが人間の祝福者とかだったら、それこそ百人とか千人とか必要になってくるんじゃないだろうか。作業の期間も数十分どころじゃすまないだろう。

 うちの優秀な村民には頭が下がるばかりである。




 一行は洞窟内をひたすら歩く。

 エルフ以外は一度来たことがあるので中の様子や道順はわかっている。正直俺は自身はなかったが、シリウスが完璧に把握しているというので任せた。

 アラクネのおかげか、シリウスのおかげか、奥へ進んでも蜘蛛達は襲ってこなかった。

 パーシヴァルは蜘蛛達の一挙手一投足、瞬きもせずに観察してはメモを取っていく。

 フランカを介して会話も試みたがっていたが、先に進むのが優先なのでそれは却下。

 どんどん下層へ降りていき、シリウスの魔法で金色の円盤――エレベーターも出してもらう。

 

「こういう魔法があるのですね……」

「なるほど、上下の移動に……」

「ふむふむ。」

「勉強になります。」


 エルフ達はシリウスの魔法を見て口々にそう言い、懐から紙とペンを取り出してメモを取る。

 大蜘蛛達が闊歩している洞窟の内部なんて、普通、初めて来たら怖くてたまらない場所だと思うんだけど、肝が据わっているのかただ単に研究熱心なのか。

 

 最下層に着き、白い糸に覆われた洞窟内を進むと、以前来た時と同じように二体のデーモンスパイダーが待ち構えていた。


「フランカ、『アラクネに話を通してほしい』って伝えてくれるか?」

「わかった。あのね蜘蛛さん達。私達は――――。」


 俺達のことを覚えているのか、襲ってくることはなかった。

 フランカの言葉を聞くとしばらく固まっていたが、やがて一体が洞窟の奥へと向かっていった。

 相変わらずパーシヴァルはメモを取り続ける。「体長は……体毛は……顎の形が……」と小さい声で何か言っているのも聞こえた。本当に研究熱心だな。前回は恐怖心が少しはあったと思うんだけど、攻撃してこないとわかったから好奇心が勝ったのか。


「久方ぶりだな。蜘蛛達から話は聞いている。村ではなかなか丁重に扱ってくれているようじゃないか。」

「アラクネ、久しぶり。蜘蛛達を派遣してくれてありがとう。」

「研究とやらは進んだのか。」

「おかげさまで。今村に四匹の蜘蛛がいて糸を作ってもらってるよ。あ、そうそうこれお土産。」


 魔法鞄に詰めていた大量の手土産を渡す。包装とか一切なしのダイレクトだけど、たぶんそんなことは気にしなさそうだしいいか。

 アラクネもさして気にした様子もなく「ありがたく貰おう。」と言ってくれたし。

 

「それでさ、これからの季節、蜘蛛達の妊娠期と聞いて来たんだけど。」

「ああ、それでか。また母蜘蛛を派遣しろ、そういうことだな?」

「うん、ダメかな?」

「別にかまわん、むしろ食料に困らない分無事に生まれる可能性も高まる。種族が繫栄するのは悪いことではない。」


 そういうと、デーモンスパイダー達を遣いに出した。きっとちょうどいい時期の母蜘蛛を探してくれているのだろう。

 上層に行く時にデーモンスパイダー達がすぐ横を通ったが、近くで見るとやっぱり恐ろしい。真っ黒な太い脚に針金のような鋭い毛がびっしりと生え、背中の赤黒い縞模様。危険な香りしかしない。

 エルフ達も縮こまって一言も発しない。まるで気配を消そうとしているかのようだ。

 ……ただ一人、パーシヴァルを除いて。

 彼だけは、デーモンスパイダー達が横切ったときに「なんと美しい姿……堂々たるたたずまい……」とうっとりした顔で見ていた。

 これが美しく見えるのか……さすがシルクスパイダーに生涯を捧げようと思った男。

 ……まあ、「蓼食う虫も好き好き」って言うしな。ひとの好みに口を出すのはやめておこう。


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