126.他のエルフたちも負けていない
冬場に研究に勤しんでいたのは、なにも魔法研究チームだけではない。
まず、魔導ゴーレムチームが新たに数台の魔導ゴーレムを開発した。どうやらボディや部品にアルミやステンレスと言った新素材を使用し、加えて各ゴーレムの動作スピードも速くなったとか。
今の段階で「刈り取り式魔導ゴーレム」が七台、「もぎ取り式魔導ゴーレム」が八台、「引き抜き式魔導ゴーレム」が三台。
今年の収穫が楽しみである。
道具関連で言えば、発明チームが「精米機」を開発した。
魔石で『洗浄』の魔法を発動し、さらに対象を指定することでゴミやぬかだけを落とすというものだ。
『洗浄』の魔法が米作りの役に立つとは。発想の勝利という奴か。
ともあれ、これで「白米」が食べられるようになった。
今までは玄米に近いものだったからな。玄米もいいけど、やっぱり慣れ親しんだ白米が好きだ。
ちなみに精米機の『洗浄』能力は調節できるらしく、好きな段階の米を作ることができるそうな。
ありがたやありがたや。日本人の米に対する愛をわかってくれたみたいで嬉しいよ。
こうなったら毎日のように白米を食べてやろうかな。あ、たまには玄米ご飯とか、白米と玄米をブレンドしてみてもいいかもしれない。
じゅるり。妄想だけでよだれが出てきたぜ。
さらに、精米機の完成である可能性が見えてきた。
ずばり、「日本酒」製作である。
醤油や味噌作りの段階で麹や醪の作り方は発酵研究チームがマスターしている。
この度、新たに日本酒製作チームを設けよう。
日本酒のおいしさの秘密は米をどれだけきれいに洗えるかだと聞いたことがある。精米機の導入で美味しい日本酒造りに近づいたのではないだろうか。
酒は村のみんなも大好きだし、日本酒は料理にも使えるから反対する人間もいないだろう。
発酵研究チームに早速掛け合ってみると、「素晴らしいです!!」と食い気味に了承された。
しかし、全員が酒造りに行ってしまうと調味料や他の発酵研究が滞り、だからといって一人でやるのは労力的に難しいと言われてしまった。
しかし、そこは酒好きのエルフたち。村での大きなプロジェクトを持っていない、所謂「細々研究チーム」の数人が立候補し、無事にこの春から日本酒造りをすることが決まった。
「新しいお酒を造るって本当?」
「ニホンシュ?というのですか?」
「どんな味がするのでしょう。」
「当然、わしらにたんまりと飲ませてくれるんじゃろうなぁ?」
「エルフの威信にかけて、絶対に美味しい日本酒を作るのですよ!」
……噂が広まるの、早くないか?
発明家集団は、うちの灯りもアップグレードした。
これまではエルフ族が簡易的に作る『灯り』の魔法によって、村の至る所が照らされていた。しかし、それは一週間ほどで消えてしまい、再び作り直してもらう必要がある。
村や畑が広がるにつれて負担が増えるということで、新たに開発したらしい。
その結果、「魔導ランプ」と「魔石ランプ」ができた。
「魔導ランプ」は今までと同じエルフの作る柔らかな乳白色のランプだ。
『灯り』の魔法自体を結晶化したことで持続性が格段にあがり、二十年くらい持つようになったらしい。そして周りが一定の暗さになると自動で灯りがつくというセンサー機能も搭載している。明るさもさらに明るくなった。これを街灯として至る所に設置する。
「魔石ランプ」は、室内用の灯りだ。見た目はよくある普通のランタンだ。魔石を軽く押すことでランプに魔力が伝わり、灯りが点る。
魔石一体型の他に、魔石のスイッチだけ別にした物もあったらいいんじゃないかと言ったらすぐに採用してくれた。
魔石一体型は手元用の置型ランプに、スイッチ別型は天井に吊るして天井照明に。
これも順次村の全ての施設に取り付けていく。
今ある機能をアップグレードしていくことでさらに便利に。
おかげでこの村は、現代にも負けない煌々とした明るさの夜を享受できている。
屋敷から望む村の夜景も、控えめだがとても綺麗だ。
もっと町が発展したら、より美しくなるんだろうな。
道具以外にも、エルフの研究の成果は出ている。
クレア姉妹のおかげで村の女性陣が軒並み美容に目覚めていったわけだが、アリスとカミラというエルフの女性二人が美容研究の道に本格的に進んだらしい。
ちなみに二人とも、顔立ちの整ったエルフ族の中でもとくに美人だ。いかにも美容に関心がありそうな華のある二人である。
彼女たちももともとは植物の性質や成分などを研究していたらしい。そこで、植物のエキスやハーブウォーターを使った「化粧水」を完成させた。
数種類の植物のエキスに浄化水(『浄化』の魔法で不純物を失くした、所謂”精製水”だな)、そして中級ポーションを少量加えた物らしい。
中級ポーションを加えることで、肌の細かい傷やシミ、蓄積されたダメージを修復し、まるで生まれたてのような美しい肌に持っていくんだとか。
どこぞの化粧品広告のような説明をしていた。
さらに、オリーブオイルやホホバオイルなどの油分を加えた「乳液」や「クリーム」なるものも開発。村の女性陣に神のように崇められていた。
(村の女性陣の強い圧力もあり)当然、本格的な研究チームへ昇格。専用の工房を持ち、研究を続けることになった。
だが、ポーションの効果もあってか確かに塗ると塗らないとでは翌朝の肌が違う気がする。
地球では俺も安い化粧水くらいは塗っていたが、これは地球の物よりも効果があるかもしれないぞ。
町で女性向けに売ったら高く売れそうだな。石鹸やシャンプーと一緒に売ったら人気商品になりそうだ。
……ま、当分は村内での消費だろう。村の女性陣よりまだ見ぬ他国の女性を優先なんかしたら、それこそ殺されそうな気がするからな。