122.改革には当然金がかかる
第121話の各自の役割のところにセシルとフランカを入れ忘れておりましたので加筆しております。
ご指摘くださった方、ありがとうございました!
セシルとフランカごめんよ……。
再び地球に転移してみた。
この春から新しい作物に手を出そうと思って、地球で種や苗をゲットするためだ。
村人も増えたし、ちょうどいい機会だと思う。
早速パソコンでいろいろ見つつ、姉貴にメールする。「なんか便利そうなのあったら持ってきて。」の一言も添えて。
昼過ぎに母さんがやって来た。いつものようにお菓子や果物をもって。
「最近、理絵が毎日のように通ってるそうじゃない。いつのまにそんなに仲良くなったの?」
そうだ。俺にとっては久しぶりでも、こっちの時間からしたら二、三日おき、下手したら毎日会っていることになる。
家ではろくに会話もしなかった姉弟だ。母さんが不思議がるのも無理はない。
でも別に、昔から仲は悪くなかったと思う。特に会話の必要性を感じなかっただけだ。
どことなく嬉しそうな母さんとしばらく話をして、母さんは帰っていった。
夕方、今度は姉貴がやってきた。
ホームセンターの袋を下げて、「はいよ。」と袋ごと俺に突き出す。
「とりあえず買えるものだけ買ってきたけど、アボカドとかパイナップルはさすがに売ってなかったわ。ネットで苗木を買って持ってくる感じでいい?」
「ああ、もちろん。ありがとう、姉貴。」
「んじゃ、今この場で買うからお金。」
「へいへい――あ。」
病室の棚から財布を出して、俺は気づいた。金がない。
そうなのだ。今まで様々なものを買ってはエルネアに持ち込んでいたが、そのたびに俺の懐は寂しくなっていく。最近は百均グッズなどで何とかなっていたものの、ネットで見たパイナップルやアボカドなどの苗木は千円、二千円するものばかりだ。
「どうしよう姉貴、金が足りない……」
「ええ!?……百円二百円なら良いけど、何千円もするのは奢らないわよ!」
「頼むよ姉貴〜、今回だけだから!」
「今回だけなわけないじゃない!これからも色々欲しくなるだろうし、あんた収入ないんだからどうしようもないじゃない。」
「ええ〜……」
そうは言ってもここまで色々見てしまったら諦められない。
だってパイナップル美味しそうだし。
アボカドも食べたいし。
ああ、可哀想な来世の俺……!
「なんか良い方法ないかなぁ……」
「金は貸したら終わりだと思ってるから。たとえ弟であっても借金は請け負いません!」
「ちっ!現実主義者め。」
「てかさぁ、あんたが自分で持ってくればいいじゃん。」
「は?」
「あんたのとこさぁ、話によると金銀財宝ザクザク出てるらしいじゃん。宝石の一つや二つ、こっちに持って来れないの?」
「それだ!」
全く考えもしなかった。
「え、あんたまさかそれ考えなかったの?向こうのものはこっちに持って来れないとか、なんか理由があるんだと思ってたわ」
「ごめん、全く頭になかった。まあ、向こうからこっちはやったことないからできるかわかんないけど……」
我がお姉様、なんと賢いのだろう!
……というより俺が馬鹿なのかな。
「とにかく一回やってみてよ。」
「わかった。一回寝るから二時間後にまた話そう」
「はいはいおやすみ。」
いそいそと布団に潜り込む。
…………。
………………。
「……ごめん姉貴、見られてると寝れねぇわ。」
「……でしょうね。また明日来るわ。」
とりあえず解散した。
地球。翌朝。
あれから俺は夜になると再びエルネアに転移し、ディミトリオス様の”ご褒美”の鉱石たちの中から良さそうなのをいくつか持って来た。
地球からエルネアだけじゃなく、エルネアから地球も行けるんだな。
初めて知ったよ。
まあ、考えてみれば『賢者の書』とか普通に行き来させてるんだから、冷静に考えればわかる事だったわ。
我ながら阿呆である。
とりあえず気を取り直して持ち物を確認。
持って来たのはルビーとエメラルド。こっちの世界みたいに加工はしてないが、宝石職人のグレゴールに見てもらったから、品質についてはバッチリなはずだ。
「でもちゃんと適正な値段で買い取って貰えるかな。」
リサイクルショップの店員に宝石の価値なんて分かるのだろうか。
心配する俺をよそに、姉貴は自信たっぷりに胸をたたく。
「任せて!『どれでも鑑定団』で有名な鑑定士のお店調べてきたの。予約もとってあるから、明後日行ってくる!」
「まじかよ姉貴、仕事できすぎだろ。」
「ふふん、働く女はこうでなきゃね!」
どんだけのバイタリティだよ。
多分、俺が元気だったとしてもあそこまでは動けないと思う。
ありがたやありがたや。
「で、どうだった?」
鑑定してもらった帰りに病院に来てくれた姉貴に、俺は恐る恐る尋ねる。
はたして、うまくいったんだろうか。
「見よ!これ!!」
超絶ドヤ顔で手を突き出す姉貴。その手には、扇状に広げられた札がたくさん。
「品質がめちゃめちゃ良かったらしくて、いい値段で買い取ってもらえたわ!原石だったからこの値段だけど、もし綺麗にカットや加工されたものだったらウン百万してもおかしくないって!」
「まじかよ!やったな!ってか、今更だけど怪しまれなかった?」
「死んだおじいちゃんの遺品って言ったらあっさり納得してもらえたわ。結構こういう宝石とか昔の貴金属を集めるコレクターが、おじいちゃん世代には多かったみたい。」
「じいちゃん、まだ生きてるじゃねえか。」
「言うだけならタダでしょ。」
いくら資金のためとはいえ、勝手に殺してやるなよ。
老人ホームに入ってはいるけど、ピンピンしてるみたいだからな。むしろ俺よりずっと元気。
「ま、これで当分は大丈夫だな。」
「そうね。でも、次からは加工品を持ってきたら?その方が高く売れるみたいだし。」
「加工品って言っても、こっちのデザインと違いすぎて『どこで買ったの?』とか怪しまれるかもしれないだろ。」
「だからさぁ、次からはコレ!」
俺に突きつけてきたのは、指輪やイヤリングのカタログのコピーだった。
なるほど、その手があったか。
「これを向こうに持ってって、同じように作ってよ。なんかそういうの得意な人がいるんでしょ?」
「いるいる、ドワーフの彫金師が。OK、次からはアクセサリー持ってくるわ。」
「ドワーフなんて、めっちゃファンタジーじゃん!頼んだわよ!」
「まあ当分の資金はこれで大丈夫だよ。ありがとな。姉貴。」
その後は「やっぱり髭もじゃで小さいの?」「優しいの?気難しいの?」「映画とかゲームで言ったらどの作品が近いの?」など、ドワーフについて質問攻めされた。
とにかく、お目当てのものは手に入った。
さて、エルネアに行って畑の大改革だ。