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117.伝説のドワーフ

 互いの取引も終わり、帰る前に少しだけ村を見て回りたいというのでヘイディスさんを案内した。

 特に工房や研究所が気になるらしい。

 そういえばヘイディスさんのところも魔道具と雑貨が主力商品だと言っていたもんな。


 道具と言えばヴォルフラムかジークだな。まずはヴォルフラムの工房に案内する。


「やぁ、ちょっとお客さんが来ているんだけど、見ていってもいいかな?」

「あん?別に良いが、壊すんじゃねぇぞ。」


 ヴォルフラムは作業の真っ最中なのか、顔も上げずにそう言った。

 どうやらアルミの生成に成功したらしい。今はそれをどう利用しようかの試行錯誤中だ。

 叩いたり、延ばしたり、いろいろな形に変化していく。

 傍らにはアルミで作った鍋やボウル、スプーンといったものが乱雑に積み上げられていた。

 アルミの鍋は地球でもよくつかわれていたし、軽くて使いやすそうだな。


「この金属は、ものすごく軽いですね……!それにこの輝き!」

「アルミっていう、うちの村の特産なんですよ。まだ実用化はしていないんですけどね。」


 積み上げられた鍋の一つを持ったヘイディスさんが驚きの声をあげた。

 まあ、この世界で使われている鉄の鍋に比べたら薄いし軽いし、おまけに白っぽいし、目を引くのは当然だろう。

 これはもう一つのジークの工房も期待が持てるな。






「こ、これは……!!」


 工房に入ると、ジークはいなかった。あれ?どこに行ったんだろう。

 中で待たせてもらってもいいかな。

 ヘイディスさんは、ある一点を見たまま硬直してしまった。視線の先にはジークの作ったガラスや金属工芸品の数々。

 

「け、けけ、ケイさん!なぜここにこんなものが!?」

「こんなものって?」


 俺の問いに、棚に無造作に置かれている金属工芸品の一つをとってずいっと押し付けてくる。

 これは香炉か?透かし彫りや小さな宝石がちりばめられていて綺麗だけど、残念ながら村での出番はない。

 

「これですよ!私の目に狂いがなければ、これは伝説の工芸師、ジークベルト氏の作品ですよ!その大胆かつ繊細な細工は見る者の心を虜にし、ヴァメルガ帝国をはじめ各国の王侯貴族に愛されました。六十年ほど前に突如姿を消し行方知れずに……今では手に入らない幻の作品ということで、彼の作品は高値で取引されています。その作品たちがここに……!」


 え、ジークってそんなすごい人だったの?

 なんか以前「帝国の王都に品を卸して云々……」と言っていた気はするけど、嘘じゃなかったんだ。


「ああ、ジークは今この村に住んでいるんですよ。」


「なんじゃ、なんか用があるのか?またなんか依頼か?」

「あ、ジークおかえり。勝手に入って悪かったな。」


 ナイスタイミングでジークが帰ってきた。

 見慣れぬ顔――ヘイディスさんに気がつくと、「他所からの客か?」と尋ねてきた。


「あ、あなたがジークベルト氏ですか!?」

「あん?そうじゃが。」

「お会い出来るなんて夢のようです。あなたの工芸品は素晴らしく……」


 ジークの手を握り熱く語るヘイディスさん。

 ヘイディスさんがこんなにジークのファンだとは知らなかった。

 ジークも褒めちぎられて気を良くしたのか顔がどんどん緩んでいく。


「お前さんは人間にしてはなかなか見る目があるようじゃのう!」

「勿論です!あなたの作品は他の方とは一線を画していますからね!」

「よーし!特別にお前さんにも見せてやろう。村長、例のやつだがこんなもんでどうじゃ?」


 そう言って、俺に手渡してきたのは以前俺が依頼したガラス鏡だった。

 ガラスの透明度と言い、反射の仕方と言いすごく綺麗に出来ている。変に影が歪んだりすることもないし、文句なしの出来だ。


「すごいな、ジーク。完璧だよ。」

「とにかく磨きあげるのに骨が折れたわい。量産はちと難しいな。」

「そんなに何枚も何枚もは要らないよ。必要なところにだけ取り付けよう。」

「ケイさん……ケイさん!」


 ヘイディスさんの大声に全員ピタリと動きを止める。


「え、な、なんですか?」

「これは一体なんですか?銀の板の中にケイさんがもう一人……かと思ったらジークベルト氏が現れたり、ああっ!今度は私まで!」

「これは鏡ですよ。光を反射させて目の前のものを映すんです。」

「鏡は私の商会でも取り扱っております。でもこれは全くの別物……これほどまでに鮮明に映る鏡など見たことがありません!」

「当然じゃ。これはわしが苦労して丹精込めて作り上げたもの。おいそれと真似をされてたまるかい。」

「うちでも作り始めたばっかりで、ジークにしか作れないんですよ。」

「――っ……ジークベルト様、そしてケイさん!お願いします!次に来た時には、この鏡を売ってください!」


 土下座する勢いで頼み込むヘイディスさんに思わず圧倒される。

 こんなに必死なヘイディスさん初めて見た。

 この世界の人にとって、鏡ってそんなにやばい物なの?

 

 とにかく必死に頼み込むヘイディスさんに押され、次の取引は鏡を含むジークの作品を出すことを約束してしまった。

「一枚作るのに時間がかかるから、量産は無理じゃぞ」と言うジークの言葉にもめげず、できた分だけで良いからとくい下がるヘイディスさんには勝てなかった。


 物腰柔らかでいつも余裕を感じさせるヘイディスさんの本気を見た瞬間だった。













 ヘイディスさんにとっての大商談がまとまったということで上機嫌で宿に向かっていった。

 長旅で疲れた体を癒してもらうためにオンディーヌの疲労回復の風呂も堪能してもらう。

 もちろん『暁』の皆さんや、下働きの二人もだ。

 香り付きの石鹸に感動して「ぜひ取引を!」とまた食い下がられたが、これは村人用だ。勝手に取引して石鹸の在庫を減らしてしまうと、(主に女性陣に)殺されかねない。だから断った。

 生産体制が確立して、量産できるようになったらね。そういうと、「いつでもお待ちしております!」と頭を下げられた。

 明日は朝早いとのことだったので、今日の内にお土産を渡しておいた。

 果物とビールとワイン。これは売り物用じゃなく皆さんでお召し上がりくださいということで。

 お酒ということで、『暁』の皆さんがものすごく喜んでくれた。

 

 翌朝早く、ヘイディスさんたちは村を発った。

 












 大量に買った魔法袋は大活躍だった。

 鬼人たちが狩りに行く時に持っていくことで、何頭も同時に狩ってくることができるようになり、効率がグッと上がった。農作業や魚獲りもそうだ。今までエプロンやカゴに入れて、いっぱいになったら保管庫や木箱に移し替えて……としてきたのが、腰にぶら下げた小さな袋にどんどん入れていくだけで良くなったんだから。

 これぞ正しい投資ってやつだな。うんうん、買ってよかった。

 そして賃貸料システムを取り入れたことで、図らずも俺の不労所得が誕生した。以前配った金が俺のところに戻ってきているだけの気もするが。まあいいだろう。今はまだ「経済ごっこ」の段階だしな。

 不労所得で遊んで暮らせる日も近い……のか?

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