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115.蘇生薬

 気温もかなり涼しくなり、気が付けば秋真っ盛り。

 うちの畑も見事に作物を実らせ、すでに一回目の大収穫は済ませている。。

 夏からさらに三台の魔導ゴーレムを作成し、今回の秋の収穫で導入してみた。

 前回と同じ「もぎ取り式」のほかに、麦などを刈る「刈り取り式」も作ったらしい。もぎ取り式は二本足で歩いていかにも”魔導人形(ゴーレム)”だったが、刈り取り式はもっとずんぐりしていて箱型に近い。まあちゃんと収穫さえできれば形は気にしないけど。

 秋の大収穫の内一回目を無事に終わらせてうちの食糧庫も潤沢だ。

 というか、世界樹の恩恵で成長が早いもんで消費の方が追い付かない。連作作物は特にそうだ。トマトやキュウリやオクラとか、初夏から収穫しているのにいまだに実ってくるもんな。


 有り余る食料をケチっていても仕方がないので収穫期の料理は豪勢にいく。

 マリアさん、エルヴィラ、アヤナミ、あとカルナとフランカ。エルヴィラは最初は肉切り担当だったがすっかり他の料理にも加担している。料理自体も好きらしく、鬼人の里でもよく作っていたんだと。

 でもさすがに毎日毎日村人全員分はきついかな?超人的なアヤナミがいれば別だが、いつもいるわけではないしね。

 各家にキッチンは作ってあるはずなのだが、マリアさんの料理がおいしいのでみんな食べに来る。

 あとエルフ族は料理を作ることにあまり興味がなさそうだ。食べることは好きなのにな。

 料理教室でも開くか、料理人をもう二、三人雇いたいところだよなぁ。



 

 物資が豊かになるこの時を待ちわびたかのように、オルディス商会から手紙が来た。

 はじめて”転移の水盆”を使ったけど、本当に水盆から浮き上がるように手紙が現れて感動した。

 これが魔道具か!見た目からしてとてもファンタジー。実に俺好みである。

 手紙には商隊を向かわせたいが、こちらから持ってきてほしい商品の希望はあるか的なことが書かれていた。

 なければ適当にいろいろ持ってきてくれるらしい。

 早速オルディスさんに返事を出す。魔法袋を中心とした魔道具や雑貨を見たいと書いておいた。あとキメラについて。

 転移の水盆に吸い込まれるようにして消えた手紙は、しばらくすると再び水盆からゆらりと現れた。どうやらさっそく返事が来たらしい。

 手紙や小さい小物なら瞬時に送れてしまうこの水盆、かなり便利な魔道具だと思う。

 地球にも現物を一瞬で送れる機械なんてのはなかったしね。さすが世界中のギルドや王宮で使われているだけのことはある。

 どうやら今回もヘイディスさんが来てくれるらしい。

 キメラという高級品の取引と、俺の村が特殊ということで、見知った人間のみを毎回送ってくれるそうだ。

 こういう気遣いができるところが大商会になるための秘訣なんだろうな。

 キークスの街に行っていろいろ見たけど、結構ぶっきらぼうだったり放任主義だったりが多かったからオルディス商会の手厚いサービスは本当にありがたい。


 二十日程経って、ヘイディスさんたちがやって来た。護衛は今回も『暁』の皆さん。下働きのカストルとポルコも前回と同じだ。


「いらっしゃい、ヘイディスさん。わざわざ来てくれてありがとうございます。」

「ケイさん、驚きましたよ!いつの間にあんなに立派な街道を!?」

「いやぁ、ははは、道中不便はなかったですか?」

「全くです!あの滑らかなタイル……キークスの道よりもよほど立派ですよ。」

「ありがとうございます。早速中へどうぞ。」


 館の応接室に行き、早速取引開始。まずはこちらからの品々を見せる。


「野菜に果物……見たことのない珍しい作物もありますね。これはどのように食べるのですか?」

「ああ、これは……」

「この果物、普通の市場で売られているものよりもすごく甘いです!何割か高い値をつけてもいいと思いますよ!」

「そうですか?ではその辺はご相談で。」

「こちらはエルフの薬ですね。……上級のポーション類がこんなにあるのですか!?」

「ええ、うちのエルフたちが研究熱心なもので。」

「これは調合が非常に難しく、なかなか手に入らないんですよ。いやぁ、助かります!買い取り額も上乗せさせていただきますね!」


 ヘイディスさんはニコニコだ。お眼鏡にかなうものがあってよかったよ。

 ちなみに世界樹の樹液と葉で作った薬。これもたくさんあるから買い取ってもらおうかと思ったが「こんなにたくさんなんてとても買い取れません!」と拒否された。なんでも伝説の”フルポーション”と言われるもので、一商会で取り扱っていいものではないらしい。あまりに出回らなすぎて価格も定かではないが、一瓶で大金貨300~600枚はするだろうとのことだった。

 大金貨600枚?金貨じゃなくて、大金貨で?

 10㎖も入っていないような小瓶なのに、やばいな。世界樹って怖い。


「……ちなみに”フルポーション”の上って、あるんですか?」

「私も古い文献でしか読んだことがありませんが、死者をも蘇らせる薬、”蘇生薬(エリクサー)”というのが存在するらしいです。なんでも世界樹の樹液に世界樹の葉、ドライアドの涙に龍の血で作られるとか……もちろん、試せた人はいませんがね。」


 ”蘇生薬(エリクサー)”、俺もマンガで読んだことがある。死者をも蘇らせるって、ヤバすぎだろ。

 ……まてよ?世界樹の樹液に、世界樹の葉、ドライアド、龍…………。

 うちの村に、”蘇生薬(エリクサー)”の材料全部揃ってるんですが…………。

 思わず後ろに控えているシリウスを見ると、にっこり微笑まれた。

 

「できますよ?”蘇生薬(エリクサー)”。ケイ様が望むのであれば血でも肉でも差し上げましょう。」


 そういって手のひらにぐっと爪を立てる。

 俺は慌てて止めた。


「待て待て、やんなくていいから!シリウスに痛い思いさせてまで”蘇生薬(エリクサー)”を作ろうとは思わないよ!」

「おや、そうですか?ご入用の時はいつでもどうぞ。」


 いくら作れるとはいえ、シリウスやアヤナミを傷つけたいとは思わないし、ライアを泣かせたいとも思わない。

 別に死者を蘇生させたくなんかないし。

 だからとにかく早まるなと言いたい。


「ははは……まさかとは思っていましたが……本当に世界樹があるのですね…………」


 呆然とひきつった笑いを浮かべるヘイディスさん。


「あの、このことは秘密で……」

「当然です!こんなことが知られたら周辺の国々からどう悪用されるかわかったものではありませんからね!下手をすればこの村をめぐって全世界が戦争を始めます!絶対に漏らしません!」


 ヘイディスさんがいい人で良かったよ。

 まあ、”蘇生薬(エリクサー)”は置いといて、”フルポーション”は数は少ないがいくつかを買い取ってもらった。

 これでとりあえずヘイディスさんが希望した商品は全部だ。”アレ”を除いてはね。


「……では、そろそろ”アレ”を出していただけますか?」


 ヘイディスさんがごくりと唾を飲み込んだ。

 

 

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