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114.悩みの種

 ――――――魔王領――――



「……と、言うわけなのでございます。」


 魔王城、謁見の間で跪き報告をするのは名門吸血鬼(ヴァンパイア)一族ヴァレリー伯爵家当主、テオドール・セザール・ヴァレリーだ。


「それは真か。」

「はっ。我が息子からはそのように聞いております。」

「ふむ……。」


 ヴァレリー家の息子、シモン・セザール・ヴァレリーは、ひと月ほど前屋敷から姿を消した。

 書置きには、『デスマウンテンを見物に行く』とだけ書かれており、誰と、いつ頃帰るなどの知らせは全くなかった。

 大方成人して一人での外出を許され、浮かれているのだろう。しかし、いきなり魔族領を出てデスマウンテンに行くとは。

 あの辺りは魔族領に属していない野生の魔物も多く、険しい山道や鬱蒼とした森が続く。文字通り人(魔族)が立ち入ってはならない”神の領域”なのである。

 無事に帰ってきてほしい。当主テオドールはそう思っていた。


 そして、シモンは帰ってきた。しかし様子がおかしく、小刻みに震えたまま「すみませんすみません……」と呟いたかと思うと、バタリと倒れ、そのまま寝込んでしまった。そして食事も満足にせず高熱に浮かされる日々が一カ月以上続いたのである。

 ダークエルフの医者の見立てによると、どうやらシモンは何者かの魔力に充てられたらしい。

 シモンからの話によると帰り道でとある人間から血をもらったとか。

 どうやらその人間の持つ魔力があまりにも高く、その血液を飲んだシモンは体内で血液中の魔力を分解できずにこうなってしまったらしい。

 体内の魔力が抜けきるまでおよそ一カ月を費やし、先日ようやく起き上がれるようになったばかりだった。


「……血液一つで吸血鬼(ヴァンパイア)をも昏倒させる人間か。」

「それだけではございません。その人間の従者と思われる男、息子によりますと魔王様と同等ともいえる力を感じたとか。」


 本当のことを言うと、シモンは「魔王様を凌ぐほどの恐ろしい力」と言っていた。しかし魔王様本人の御前でそんなことを言っては瞬時に塵芥とされてしまう。報告は大事だが私だって我が身がかわいい。ヴァレリー伯爵は真実を飲み込んだ。


「陛下、如何致しましょう。聞けば相手はごく少人数。勢力を増やす前に芽を摘んでおくのがよろしいのでは?」

「今なら魔族総動員、出撃すれば村の一つくらい簡単に落とせます。」


 血気盛んな部下たちが口を出す。


「……貴様らは馬鹿か?」

「へ?」


「あそこは神々のおわす不戦の森、軽はずみに兵を出して良いところではない。それに人間のくせに吸血鬼(ヴァンパイア)を恐れもせず、自らの血まで与えようとは……回復した吸血鬼(ヴァンパイア)を相手に勝てるという自信に他ならぬ。言わば我らを恐れていないというメッセージだ。事実、こやつの息子はその人間、それもただの少量の血液によって衰弱させられたのだから。」


「なんと……」

「脆弱な人間のくせに……」

「でしたら尚更我らの力を……」



「黙れ。」


 魔王の威厳たっぷりの声で水を打ったように静まる。


「……ランベールよ。どう思う?」

「はい、恐れながら申し上げますと……」


 魔王の側近にして右腕と名高いランベールが答える。


「現時点では情報が少なすぎます。村の規模や同じ力を持つ人間がどれ程存在するのか、相手を懐を知るためにも、一度挨拶に向かうのがよろしいのではないでしょうか。理由はヴァレリー家の息子を助けたお礼など、どうとでもなります。相手は不可侵を希望しています。手土産のひとつでも持って、敵対する気は無いと思わせれば心象は悪くなりますまい。」

「うむ。」


 敵情視察、もとい、未知の村の調査。その結果によって今後の対応も変わるだろう。

 放置しておくべきか、友好して置くべきか。

 ――はたまた、早急に潰しておくべきか。
















「それで、どうだった?」


 あれから大臣のベリアルを村に派遣した。その報告を魔王は待ちわびていた。


「はい、はっきりと正直に申し上げますと、あの村と絶対に敵対してはなりません。」

「と、いうと?」

「まず、村には世界樹があり、ドライアドが出現しております。」

「何?人間の村に、そんな馬鹿なことが。」

「嘘ではございません。そして領主の男には私の魔法が一切通用しませんでした。さらに従者の男、魔力量から推測するに龍族ではないかと思われます。」


 魔人族の中でも特別魔法に長け、若くして大臣に上り詰めたこの男の魔法が人間に効かないだと?それに龍族?

 そんなことが本当にあるのか?


「ドライアドですが、明らかにあそこの人間に味方しており、それどころか人間の世話までしています。千里眼で辺りを調査しましたが下級精霊も無数におり、あろうことか畑仕事などの労働をさせていました。他にも見たことの無いほどしっかりとした作りの建築や技術、食料も豊富、更には一村人がシルクの服を来ております。」

「何!?奴らは精霊を支配下に置いておると言うのか?そしてシルクスパイダーを飼い慣らしていると?」

「精霊どころか龍族もです。さらにあの土地の土と水の清浄さ……大地と水の上位精霊の加護を受けていると見て間違いありません。」

「そんなことが有り得るのか……?」


 呆然とする魔王にそれまで微動だにせず黙っていたランベールが言葉を発す。


「水の上位精霊が関係しているとあれば、ますます手は出せません。魔族領は先代魔王様が水の上位精霊のご不興を買って間もない……城の一部は未だに凍りついたままです。再び怒りを買えば、この地は水底に沈むか、渇ききった荒地になること必至でございます。」

「……うむ。幸いにも奴らとは相互不可侵の取り決めができた。交易の話も出ておるし、これをうまく利用して……いや、利用しようなどと考えていては余計な火種を生むかもしれぬ。とにかく慎重に扱うのだ。良いな?」

「「はっ。」」


 世界樹にドライアドに龍族。まさかこれほどの戦力を取りそろえる人間がいようとは。

 我が魔王軍を総動員しても、戦力差は圧倒的。


「……ハァ。」


 魔王の悩みの種が一つ増えた。

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