108.”構築”の力
”風移動”でキークスの街を後にした俺たちは、”暗黒の森”の入り口に立っている。
ちなみにゼノも”風移動”を使いこなしていた。なんでも子ども達とシルフ達とで遊んでいる時に、風に乗る方法はマスターしたらしい。
「子ども達はみんなできます」という言葉には驚いた。いつの間にそんな高度な技を……。遊びって偉大だ。
さて、村に直帰せずにわざわざここへ降りたのは他でもない。街道を作るためだ。
オルディス氏はああ言っていたとはいえ、人間がこの森を突っ切るのはかなり大変だと思う。道もなく闇雲に進むなら猶更。現にヘイディスさんたちもそれでオルトロスに襲われたんだしね。
だからここから村まで一本道の街道を通す。普通なら壮大な公共事業になるだろうが、こっちにはなんてったってシリウスがいるからな。(加減を知らない)魔法で城壁や蜘蛛の洞窟への道など、いくつもの偉業を成してきた男だ。その力、存分にふるってもらおうじゃないの。
「シリウス、ここから村まで街道を作ってほしい。できれば石畳とか、舗装された感じで。」
「お任せください。」
言い終わると同時に足元の土がボコッと盛り上がり、ズザザザザッとすごい勢いで平らな道が伸びていく。そしてガシャガシャっと小さな音を立てながら、土の道に石のタイルが敷かれていく。
手つかずの森には似合わない、非常に整った街道ができていく。
「いつも思うけどすごいな。なんでこんなことができるんだ?」
「龍ですので。」
「……あ、そう。」
「私達水の系譜が”癒し”の力を司るように、大地の系譜は”構築”の力を司るんですよ。だからこういった何かを作りあげることが地龍は得意なんです。」
なるほど、”構築”の力か。確かに大地の系譜――ノームは勿論、ドワーフもエルフも物づくりや研究で何かを生み出すことに長けている。
同じ龍でも、系統によって得意なものがあるんだな。
「龍に使えない魔法ってあるのか?」
「基本はありませんね。しかし上位精霊ほどの威力はありません。」
「あとは、私が大地系の力を使ってもシリウスさんほどの威力が出ないように、他の系列の魔法は使い辛いです。」
「まあ、大抵の人間や魔族からしたら差がわからない程度だと思います。弱点にはなりませんのでご安心を。我が主には万全の守りをお約束しますよ。」
にっこりと笑われてしまった。その笑みが怖い。
「ただいま。村は何ともなかった?」
「ただいま!」
「おかえりなさい、長旅お疲れさまでした。」
「村長!おかえりなさい!」
”風移動”で一気に村に到着。エルドとイヴァンが門で迎えてくれた。
その声を聞きつけて、あっちからこっちから村人が集まってくる。
「おかえりなさい!」
「人間の街はどうでしたか?」
「オルトロスは高く売れたんじゃろうな?」
「ケイお兄ちゃん、おかえりー!」
「まあまあ、まずは食堂でご飯でも食べたら?」
食堂に移動して報告会。村のみんなも街の話を聞きたいのか、入れ代わり立ち代わりやってくる。
マリアさんが料理も出してくれて、ちょっとした宴会のような賑やかさだ。
マリアさん特製の温かいスープを飲みながら、俺はいろいろ話した。
農村や採掘の街、そして大都会キークスの街。商人や冒険者、いろんな人が歩いていたこと。
街には商店がいくつもあり、全部見切れないほど種類も豊富だったこと。
魔道具なんかの珍しい品物もたくさんあったこと。
市場にも行き、村になかった食べ物をたくさん買ってきたこと。
”食べ物”というワードに子ども達が反応したのは言うまでもない。「村長、持って帰ってきた?」「僕たちも食べられる?」と質問攻めにされた。
買ってきた果物を渡すと、大喜びで向こうに行ったよ。ゼノもセシルによって強制連行。あとは子ども達の輪の中で、ゼノが旅の話を得意げに話していた。
「この作物、もちろんみんなが食べる用に買って来たんだけど、もしかしたら植えたら実がなるんじゃないかと思って。」
「世界樹様のおかげでどんな作物も素晴らしい出来になっとる。これらも植えればよく育つじゃろうな。」
「見慣れないけど、いい香りねぇ。私たちの村にもなかったわ。」
「果物だけでなく、豆や葉も。村の食卓がさらに豊かになりますね。」
「石鹸や紙も村で作れるようになりたいわね。どうやって作るのかしら?」
「あ、そうそう、これを買ってきたんだ。ジークたちに見てほしいんだけど。」
そういって俺は魔導コンロをとりだした。いきなりの大物にみんなはびっくり仰天だ。
「これはなんじゃ?」
「これは、魔導コンロっていって、料理のための火を出す魔道具だよ。魔石を使ってるんだ。これ、構造を調べて作れないかな?」
一つは買って来たけれど、なにせ高い。将来的に一家に一台ほしいと思ったらいくらお金があっても足りない。
村で安く作ることができたらどんなにいいか。
ジークは鉄板を撫でたり魔石を押したり、オーブンの蓋を開け閉めしながら「ふむ、ほう。」とひとり呟く。
「何となくじゃが、大した魔法は使っとらんようじゃし何とかなるじゃろ。鉄も魔石もうちには山のようにあるしな。わしの他にも暇そうなドワーフの連中を使えば問題ないわい。」
「じゃあ、」
「ふん、こんなもの、ドワーフにかかればお茶の子さいさいよ。こいつは一旦工房に持っていくぞい。」
そういうと重たい魔導コンロを軽々と抱え工房の方へ行ってしまった。
この様子じゃ、あとは任せても大丈夫そうだな。
帰りにアヤナミが言っていた通り、ドワーフも大地の系譜だからものづくりはお手の物なんだろう。
その後も入れ代わり立ち代わりくる面々に旅の話を何度もせがまれ、解放されたのはあたりが真っ暗になってからだった。