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105.とっておき

 「うちのとっておき」

 そう言われたものの、俺は反応に困る。

 鞄自体はシンプルなデザインに質も良く丈夫そうで良いものだというのはわかるが、魔道具を数多く取り揃えるこのオルディス商会のとっておきと言われると少し違和感がある。


「この鞄ですか?」

「これは、魔法袋付きの鞄なんですよ。」


 魔法袋とは、簡単に言えばたくさん入る袋だ。袋の内部にかけられた高度な魔法により中の空間を拡張している。かけられた魔法の程度によって差はあるものの、小さいものでも荷馬車一台分くらいのものが入るらしい。

ゲームや小説で言うところの「アイテムボックス」ってわけだな。


「息子から聞きましたが、ケイ殿は我が家の秘密をご存じだとか。これは私どもの”魔法収納”を誰にでも使えるようにと考案された優れモノなのです。これ一つでなんと荷馬車五台分もの荷物が入りますよ。旅のお供に一つは持っておきたい魔道具です。」


 数々の顧客を相手にしてきたであろう、百戦錬磨の商人オルディス氏の流れるような商品説明が続く。

 なんでもたっぷり収納できるのは勿論のこと、旅の途中に賊に襲われたとき、魔法袋の存在が知られないよう鞄の中に袋が縫い付けられており、さらにそれは布で隠すことができる。つまり鞄自体は普通の鞄で、中の隠しポケットが魔法袋になっているというわけだ。

 たしかに、これ一つあれば今回のように旅に出たり買い物をしたりするときに便利そうだな。大きな荷車やシリウスたちに大荷物を運ばせなくて済む。なにより、人間に化けたシリウスたちはどう見ても非戦闘職の細身の人間、大荷物を軽々と背負っていると悪目立ちするんだよな。

 よし、買おう。問題は金、なんだけど。


「そ、それで、お値段の方は……?」

「こちらの鞄が金貨55枚になっております。隠し袋という少々手の込んだつくりをしておりますのでお値段は少し高めですが、性能は申し分ないですよ。もっと小さな容量でよければ、こちらは鞄の作りは同じで容量は荷馬車約2台分、お値段は金貨35枚です。ちなみにもっと大きな容量をお望みでしたら……」


おおう、結構するな。鞄に金貨55枚って、地球でもかなりのブランド品だぞ。確か姉がボーナスを積み立てて買おうとしてたブランド物のハンドバッグ、あれが50万円くらいだった気がする。大学で2000円の鞄を使っていた俺にとっては未知の世界だ。でも、あると便利なんだよな。


「……この鞄を下さいっ!」

「お買い上げありがとうございます!お色は黒と茶がございますがいかがいたしましょう?」

「うーん、茶色で!」

「かしこまりました。すぐお使いになられますよね?」

「はい。」

「では肩ベルトの調整をいたしましょう。こちらにどうぞ。」


 結局最初に勧められた容量のバッグを買ってしまった。デカいかなとも思ったが、旅の準備やいろんな買い物品を入れて いるうちに物は増えていくだろうし、村に帰った後も大きいものとかを運ぶときに重宝するだろうしね。

 ……さすがにもうオルトロスの死体を大量に運ぶことはないとは思うけど。

 何はともあれ、これで俺達四人分の荷物が収まるな。

 それにさっきの魔導コンロも。

 うん、最初の買い物としては、正解だったのではないかと思う。










 それからさっきの売り場で大型魔導コンロを一つ買い、魔物除けの鈴や魔石を使った扇風機のようなものなど様々な魔道具を見せてもらった。

 さらに、隣の店舗にある雑貨屋にもお邪魔させてもらい、石鹸や紙やペン、インクなどなど、目に付いたものをひたすら買っていった。

 特に砂時計、これはかなり感動した。今まで正確な時間を計るのは無理だと諦めていたけど、こんな方法があったとはね。

 三分、五分、十分の三種類の砂時計をお買い上げ。

 村に帰ったら量産して色んなところに置こう。時間が量れるというのは何かしら役に立つと思うしね。


 雑貨屋を出たあとも、あっちへフラフラこっちへフラフラ、色んな店に顔を出してみた。ここらで自由行動にしようと言ったが、シリウスとアヤナミは俺を置いてどこかに行くなんてとんでもないという態度だ。ゼノは行きたそうだけど、二人がそう言うもんだから「行きたい」とは言いにくいんだろうな。

 俺とアヤナミ、ゼノとシリウスの二グループに別れてみる。シリウスはゼノの護衛だ。ゼノに限って大丈夫だとは思うけれど、子どもを一人で行かせるわけだし安全には気をつけた方がいいだろう。

 日が落ちる前に宿屋に集合ということにして解散。あ、お小遣いとして金貨一枚渡しておいた。少ないかとも思ったけど、子どもの小遣いとしては十分だろう。


 どうやら市場は毎日では無いらしい。村には無い食べ物があれば買っていこうかと思ったが、市場自体がないならしょうがない。親切な店の主人が明日また開催されるよと教えてくれた。明日には帰ろうと思うので、帰る前に市場をのぞいてみよう。


 衣服については、はっきりいって村の方が質が良い。世界樹の加護をたっぷり浴びて育った綿や麻、羊毛たちを使った糸だ。それにテレサを始めとする洋裁集団。おまけにシルクまで。

 こちらの圧勝である。

 問題は人手が少ないからそんなに量は作れないことだな。

 と言っても、着る人も少ないので今のところそんなに困ってはいないのだが。

 デザインもそんなに凝ったものは見当たらなかったし、凝ったデザインは上流階級用のドレスなんかが多く、村で働く俺たちには不向きだった。

 ま、これもうちの姉に任せよう。姉貴監修の服のデザインが『賢者の書』にこれでもかと挟み込まれているしね。


 あっちもこっちものぞいたので気が付けば結構疲れている。アヤナミは大人しくついてきてくれているが、ずっと俺の用事ばかりに付き合わせるのも悪いよな。


「アヤナミはどっか行きたいところないのか?」

「私はケイ様のお役に立てればそれだけで……人間の生活にもそこまで興味はありませんし、知識として頭に入れておくだけで……」

「そ、そうか。」

「人間というのは様々なものを作るのが好きなんですね……。」


 店先に展示されている何種類もの色とりどりの帽子を眺めながら呟く。龍の世界では身に着けるものにそこまでこだわらないのだろうか。というか、龍の姿なら身に着けるものすらないのか。


「あ、じゃあさ、ちょっと待ってて。」

「ケイ様?」


 俺は急いで屋台に向かって走る。そして再び急いでアヤナミのもとへ。


「ずっと歩いてて疲れたろ?」


 俺は屋台で売っていた、棒状のパンにはちみつをたっぷり塗ったものを渡す。

 疲れた時には甘いものが一番。アヤナミには服やアクセサリーよりも、こっちのほうがいいかもしれない。

 ……アレ?もしかして俺、今、ちょっとイケメンっぽい……?

 

「……龍ですのでこの程度で疲れることはないのですが……」

「…………」


 ……撃沈。さらば、俺の気遣い…………。


「でも、甘くておいしいです。ありがとうございます。村でも今度作ってみますね。」


 ま、いいか。

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