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103.オルトロスは超高級品だった

「着きましたよ。ここがうちの店、オルディス商会です。」

「こ、ここが……?」

「荷下ろしがありますので裏手に回りますね。カストル、お前は先に行って従業員に帰ったと伝えてくれ。あと、会頭に取り次いでくれ。」

「はい!」


 そ、想像してたのと違う……。

 通りにあるような雑貨屋や帽子屋みたいな商店を想像してたのだが、オルディス商会はそうではなかった。

 デカい……そして立派だ。

 オルディス商会って豪商だったんだな……ヘイディスさんが普通に接してくるから想像すらしてなかった。

 そんな俺の表情を見て、『暁』のメンバーが自慢気に言う。


「すごいだろ?オルディス商会はこの街でも有力な商会で、噂じゃもうすぐ貴族になれるんじゃないかって。」

「この建物だけじゃないぜ、隣も、後ろも、この区画ほとんどがそうだ。」

「でも全然気取った商売してなくて、俺ら庶民にも良くしてくれるんだよ。」

「そそ、依頼を受けてる間も丁寧だしな。」

「ぶっちゃけ依頼人によっては家来みたいに扱われてちょっとイラっとするんだよなー。」

「買いかぶらないでください。商会が順調なのも皆さんのおかげですよ。」


 どうやら会頭のオルディス氏はかなりの有名人らしい。それなのに庶民にも丁寧に接するって……実力のある人間ほど腰が低い、『実るほど頭を垂れる』とはこのことか。


「さて、皆さん、ここまでありがとうございました。」

「じゃ、この依頼書に依頼完了のサインをしてくれ。」

「はいはい。そしてこちらが依頼料ですね。あとは心付けです。久しぶりに酒場にでも行って一杯やってください。」

「いつも悪いな。……ん、サイン、確かに頂戴した。」

「今後もぜひ御贔屓に~」

「でも、今回はオルトロスの件で危ない目に合わせてしまったからな。」

「俺らもダンジョンにでも行って修行しなおすか。」

「まあでも、また何かあったらいつでも呼んでくれ。ヘイディスさんの頼みなら喜んで引き受けるぜ。」


 依頼完了のサインを受け取ると、俺やシリウスの方に向き直った。


「俺たちは冒険者ギルドにこいつを持っていくからここまでだ。旦那、いろいろとありがとうな。」

「シリウス様、アヤナミ様も助けていただき有難うございました。」

「一応、俺たちも冒険者としちゃ”ゴールド(ランク)”、そこそこの経験を積んでる。何かあったら頼ってくれ。」

「護衛は敵わないかもしれないが、情報くらいなら役に立てるしな。」

「旦那もいろいろ見て回るんだろ?気を付けてな。」

「はい、皆さん、ありがとうございました。」

「人間の冒険者さんたちと話せてよかったです。ありがとうございました!」


 俺とゼノの言葉を聞いてひょいっと片手をあげると、『暁』のメンバーは去っていった。

 ヘイディスさんに促され、俺たちは中へ。下働きのポルコはせっせと荷を下ろしている。

 オルトロスの素材が詰まった木箱はゼノとシリウスが運んでくれた。重そうな木箱を三つも四つもひょいひょいっと持つゼノを慌てて止める。今は人間の振りをしているんだから、そんなに軽々持っちゃダメ!普通の少年は三つも四つも持てないから!そういうと「あ!」っという顔で慌てて荷を下ろす。そして半分はシリウスに。ふう、危ない危ない。

「お客様なのに裏口からご案内することになるとは申し訳ない。」と言っていたが、裏口も十分綺麗だしそんなことは気にしない。店内を見るのはあとのお楽しみにしておこう。






「これは素晴らしい……」


 俺たちは二階の応接室に通された。小さめに作られたこの部屋は高額な買い物や特別な取引をする、いわゆる”VIP”のための部屋だ。防音もしっかりしているらしく、プライバシーの保護も万全である。

 ふかふかの椅子に腰かけ、査定の結果を待つ。ちなみにゼノはポルコの荷運びを手伝うらしい。いつの間にか下働きの二人と仲良くなっていたんだな。

 シリウスとアヤナミにも椅子がすすめられたが、「我々は従者ですので」と俺の後ろに立っている。村の屋敷では当たり前となった光景なので俺もとやかくは言わない。

 真剣な顔でオルトロスの牙を見つめるのは素材鑑定士のクラウディオさん。いかにもベテランっぽいご老人だ。さすがは大店のオルディス商会、素材や宝石、食物系など、それぞれお抱えの専門鑑定士がいるらしい。

 クラウディオさんは顔を上げると、隣に座る店主――オルディス氏に告げた。


「どの部位も傷や欠けも最小限、おまけに腕のいい解体師がいたのでしょう、どれも綺麗に処理されています。品質で言えば最高ランクですな。」

「なるほど。さて、ケイ殿、最高品質のオルトロスということで、買取価格はこれくらいでどうでしょうか?」


 ビシッと髪と口ひげを撫でつけたオルディス氏が俺に向き直る。

 仕立てのいい衣服をまとい、見た目から推測される年齢に比べて貫禄がある。しかし威圧的な感じが全くしないのはこの人本人の実直さがにじみ出ているからだろう。


「まず、オルトロスの骨が一匹分で金貨15枚、牙が一そろいで金貨32枚、歯が一そろいで金貨12枚。爪は全部で金貨16枚、肝が一つ金貨20枚、脳が一つ金貨29枚。皮が金貨30枚。これが十匹分で金貨1540枚。さらにオルトロスの肉が五匹分で金貨250枚。しめて金貨1790枚。――今回は希少な素材をたくさん持ち込んでいただいたので、端数切り上げの金貨1800枚でいかがでしょう?」


「……え。」


 ……金貨1800枚。金貨、1800枚。……聞き間違いではなく、金貨1800枚。

 えええええええ!!??たっかっ!!!オルトロスたっかっ!!!

 高級品とは言われてたけど、そんなすんの?

 何となくだけど金貨何十枚とか、何百枚とかの世界だと思ってたよ!

 買取でこれってことは、加工とかされて店に並ぶときにはもっと値が上がるってことでしょ?

 オルトロス、やばいな……。


「この金額ではご苦労に見合いませんでしょうか?でしたら……」

「いえ、いいです!これでお願いします!!」

「ありがとうございます。では、買い取り代金のご確認を一緒にお願いいたします。」


 金貨十枚ずつのタワーを一緒に数え、間違いないということで取引成立。

 俺が買い物用に持って来た、金貨が百枚ほど入った麻袋に入れてみると、何とか入りはしたがパンパンだった。

 なによりずっしり重い。これが金貨1800枚の重み……。


「この後はお買い物ですか?」

「いやぁ、長旅で疲れてしまったので今日は早く休もうかと。」

「愚息から聞きましたよ。命を救っていただいたうえ、かなり良くしていただいたとか。父親としてお礼を申し上げます。」

「いやいや、それより、今日の宿なんですけどおすすめはありませんか?」

「そうですね、この近くですと『二本の止まり木亭』はリーズナブルで旅人や冒険者御用達ですな。少々値が張っても良いのでしたらここから二つ先の区画にある『芥子の実亭』は商人に人気で、珍しいことに浴槽付きの風呂があるのですよ。値が張ると言っても良心的な部類だとは思います。あとは……」


 オルディス氏に宿の情報を教えてもらい、俺たちは『芥子の実亭』に行ってみることにした。

 明日、この店の商品を見に来てもいいか。そう尋ねると「もちろんです」と微笑み、案内役にヘイディスをつけるようにしましょうと取り計らってくれた。

 その後、オルディス氏とヘイディスさんに見送られて俺たちは商会を後にした。

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