102.到着
毎回のように「いいね」をくださる方がいらっしゃいますね。
毎日来てくださっているのでしょうか。
ありがとうございます。やる気がみなぎります!
あれからいくつかの街を通り抜け、何日かの野営をし、街や村の宿を転々とすることおよそ九日間。
ようやく目的の街が見えてきた。
ここまでくると馬や徒歩で行き交う旅人らしき人の姿も多く見かけるようになった。
荷馬車も多いし、あの鎧を着て剣や槍を携えている集団は冒険者だろうか。いろんな人を目にする。
綺麗に舗装された輸送ルートを走ってきたおかげでペースも早く、何より快適に旅ができた。
農村部のあまり舗装されていない道は、どうしても凹凸が多くてひっきりなしに馬車が揺れていたからね。最初の方は馬車酔いして吐きそうになるし大変だったよ。
「皆さん、ここが我々の故郷、キークスの街です。」
キークスはオルテア王国でも三本の指に入る大都市だ。様々なものが行き交う交易の中継都市であり、旅の途中に寄ったデルタの鉱物資源をはじめ食料、道具、衣服、宝飾品、武器、防具、薬……あらゆるものが集まってくる。
「モノをそろえたければ王都かキークス」と言われるほど、その多様さは折り紙付きだ。また良質な素材を目当てに様々な職人たちもこの街に根を下ろしており、あらゆる産業が発展している。まさに国の中枢の一角を担う都市と言える。
当然だが街には商人が多く、キークスに拠点を構える商人以外にも国内外から行商人が訪れ、物資の売買がなされている。
「ですので、必要なものがあればここで揃えておくのが良いと思いますよ。よろしければお店の紹介などもしますので。」
「ありがとうございます。楽しみだなぁ。」
交易の街、つまりは買い物の街だ。こうなったらありとあらゆるものを見まくって、村によさそうなものはどんどん買っていこう。念のためと思って、お金は多めに用意したからね。
ついこの間まで「都市部の人間とはやっていけそうにない。人里離れた村でひっそり暮らす」なんて考えていたはずだが、実際に街を目にするともはやそんな考えは綺麗サッパリ消えてしまう。人間とは現金な生き物である。
大門での関所通過もすっかり慣れた。しかしながらさすが大都市キークス。順番待ちの列が長い長い。
なかなか進まない列に退屈しながらも、順番はしっかりと守って待機。ルールはルールだからね。人間としての基本だ。
二時間以上待っていただろうか、ようやく俺たちの順番が回ってきた。
「次!おお、ヘイディスさん!おかえりなさい!今回は長かったですね。」
「ええ、残念ながら目当てのものは手に入らなかったのですがね。」
「きっとまた珍しいものなんでしょう?」
「皆さんの役にも立つかと。その際はぜひお店に寄ってくださいね。」
「では身分証を確認いたします。護衛の皆さんの分もご一緒に。……はい、問題ありません。こちらの方々は?」
「私の恩人ですよ。彼らの身分は私が保障します。」
「では、身分証のない方は一人銀貨六枚お願いします。」
大門ではつぶらな瞳のまだ若そうな兵士が対応してくれた。大都市の関所なだけあって口調も丁寧だ。きっと貴族やお偉いさん方も多く利用するからだろうな。それにしても銀貨六枚か……なんかだんだん高くなってるな。都会ほど税金が高いのはまあ仕方のないことなのか。その分街が潤って豊かになって、それがまた客を呼び込んでってか。
別にいいんだけどな。金はドワーフの商隊から得たビール代があるから。
一人銀貨六枚きっちりお支払いして、ようやく俺たちは目的地に到着したのだった。
「あー!久しぶりだな、この空気。」
「このにぎやかな感じが逆に落ち着くよな。」
「帰って来たって感じがするよ。」
「みんな、気を抜くのはまだ早いぞ。依頼主を送り届けるまで依頼完了とは言えん。最後まで気を引き締めろ。」
「わかってるよ、リーダー。」
「ケイさんたちも一度私の商会に来てくれませんか?そこで早速買取もしてしまいましょう。物が物ですし、護衛がいるとはいえあまり長い間放置しない方がいいですから。」
「わかりました。買取の方、お願いします。」
オルディス商会の店にヘイディスさんを送り届ければ依頼は完了となり、そこで『暁』のメンバーとはお別れだ。
なだらかな石畳で綺麗に舗装された道路沿いには、うちの村と同じハーフティンバーを取り入れた建物が並ぶ。
どうやらこのあたりが商業街らしい。服屋に雑貨屋に本屋、こっちには宝飾品に帽子、食堂や酒場、宿屋も何軒もあるし、道を一本入ったところには野菜や果物などの市場もある。
まさにファンタジー、これぞファンタジー。俺が憧れていた景色である。
いいよなぁ。こういう統一感の中にちょっと個性が光る店が並んでてさ、人の行き交いも活発で……。
俺たちの村もゆくゆくはこういう風になってほしいなぁ。
そのためには人も増やして、いろんな職業を増やしていかないとな。
ドワーフの商隊のおかげで貨幣も入ってきているから、経済活動もしていかなきゃだな。
技術力は申し分ないが、うちの村にはまだまだ足りないものが多い。
せっかくの機会だ。街の様子をしっかりと目に焼き付けて、村に足りないものを見極めていこう。
そしてできるところから少しずつ改善していけば、俺たちの村だってもっともっと素晴らしいところになるはずだ。
よし、頑張ろう。うん。
オルディス商会に向かう馬車の中でひっそりと、俺は気合を入れなおした。