1.転生したと思ったらフライングでした
初投稿です。よろしくお願いします。
俺の名前は細川 圭。二十歳。
幼い頃から病弱で、医者には「20歳まで生きられないだろう」と言われていた。
その時は目の前が真っ暗になるくらいのショックを受けたものだが、なんやかんやで二十歳を迎えることができている。
ただ、友達とかけっこをして遊ぶことも、中学や高校で部活動に入って青春することも、大学で彼女を作ってリア充することもなかったけれど。
大学は半年で中退、そこからずっとこの病室ぐらしだ。
ネットサーフィンや動画サイトで日がな一日を終え、繰り返し行われる検査。結果はもう気にしていない。
二十歳を迎えた今、もういつ死んでもおかしくないことは自分が一番良くわかっている。
未練がないといえば大嘘になるが、家族は毎日のように様子を見に来てくれるし、小さい頃からお世話になっている医者の先生も看護師さんたちもいい人だし、人には恵まれたほうだと思う。
容態が急変したのはその夜だった。急に酷い頭痛に見舞われ、目の前が真っ白になる。
(ああ……とうとう死ぬのか…………)
看護師さんたちがバタバタと駆け込んでくるのがうっすらと見え・・・俺は完全に意識を手放した。
_____白い。
真っ白な空間だ。なにもない。
いや、あるにはある。白い霧のような、ドライアイス?のような。匂いも冷たさも感じないけど。
真っ白い空間に白い霧が薄らとじゃ、なにもないに等しい。
「おや、そなたはどうした?」
突然、声が聞こえた。振り返ると、いつの間にいたのだろうか。これまた真っ白い爺さん。
世界史の教科書に出てくるプラトンそっくりの長いもじゃもじゃ髪と長いひげ、服も髪もひげも真っ白で、空間に同化してしまいそうだ。
ただ、不思議と存在感がある。空間に溶け込んでいるのに、一度気がつくとどこにいてもわかりそうな、不思議な感じだ。
「えっと、これは夢でしょうか?」
初対面の老人にはできるだけ丁寧に、人生の先輩である年長者を敬うのは大好きだった爺ちゃんの教えだ。
「これは夢ではない。いわば神の領域じゃ。まあ、驚き混乱するも無理はないわい。」
穏やかでよく通る声で答える爺さん。神の領域?すると俺は……
「ということは、俺…私は死んだのでしょうか?貴方様は神様ですか?」
「然様、わしはエルネアを統べる神ディミトリオスじゃ。そなたは前の世で死に、新たに生まれ変わる。」
「やっぱり……死んだんだ。」
覚悟がなかったわけではない。しかし、こんなにもあっけないものなのか。
「ところで、そなた、エルネアの民ではなさそうじゃが、前の世はどこに住んでおったのかね?」
「エルネア?私が住んでいたのは、日本の東京という街で……」
「ニホン?はて、そんな惑星があったかのう?」
「あっ、惑星は地球です。地球に住んでおりました。」
「むむ?地球とな?……そなたの名は何というのかね?」
「えっと、細川圭といいます。」
話の流れからして、「エルネア」というのも地球と同じような惑星の名称のひとつなのだろう。つまり他の星に飛ばされるってことか。
記憶……は残らないよな?まさか同じような病弱な運命とか?勘弁してほしい。
俺がウンウン唸っていると、なぜか目の前からも唸り声が聞こえた。
「うーむ」とか、「これはおかしい」とか、爺さん、もといディミトリオス様が唸っていた。
「あの、どうかしたのでしょうか?」
たまらず声をかけると、ディミトリオス様がすまなさそうな顔でこちらを見てきた。
「そなたには大変申し訳無いが、ここにそなたが来たのは手違いのようじゃ。記録によると、そなたが死んでわしのもとへ来るのは半年後となっておる。」
「え……ということは、つまりどういうことでしょうか?」
「つまりじゃな、なんの手違いかはわからぬが、そなたはあと半年は生きられたのじゃ。このようなことは初めてでのう……いや申し訳ない。罪なき人間の命を半年分も奪ってしまったのじゃ。」
ディミトリオス様は本当に申し訳無さそうにしている。さっきまでの堂々たる威厳は消え、困り果てた爺さんにしか見えない。
半年分の寿命を取られたことは無視できないが、なんだか責めるのも可哀想になってきた。
「あの、私は大丈夫ですから。どうせもうすぐ死ぬ予定だったんだし、生きていても病室で過ごすだけの退屈な人生でしたから。それに、医者から言われたよりも少しだけ長生きできたんで、もうそれで十分ですよ。」
ああ、なんだか言ってて悲しくなってきた。でも、これは間違いなく本心だ。家族や友人にお別れを言えなかったことは悲しいが、もともといつ死んでもおかしくなかったのだから、結局お別れなんて言えないだろう。
「そのような悲しいことを言うでない。うううむ。では、せめて、これからのそなたのことを少しだけ知らせてやろう。」
「よろしいのですか?」
「まあ、転生時に記憶は消えるから気休め程度にな。そなたが転生するのは、わしが作りし惑星『エルネア』の小国、ノーラッド王国じゃ。ノーラッド王国の北東の村娘の子として生まれる」
なんというか、普通だな。ゲームや漫画では勇者に生まれ変わったり、貴族の◯男として生まれるのが多かったが、ただの村人か……
「あの、ノーラッド王国とはどういった国なのでしょうか?」
「うむ、そうじゃな。説明すると…………」
ディミトリオス様の説明によると、エルネアの文明度は地球よりもかなり遅れており、中世ヨーロッパあたりの文明らしい。
また、ファンタジーで言う「剣と魔法の世界」であり、人族(人間)と魔族との闘いが繰り返され戦争が絶えないという。ノーラッド王国も例外ではなく、先の戦争(人間の住む隣国との)で国が疲弊しており、魔族の侵入に頭を悩ませている。
しかも、俺が転生する村は魔族領に一番近いところであり、有事の際の砦的役割だというのだ。
いや、そりゃないよ!前よりひどくなってんじゃん!
そりゃ地球での生活も自由とは言えなかったよ?小さい頃から体が弱くて、友達と泥だらけになってサッカーしたり、山で駆け回ったりなんてできなかったし、人生の後半は殆ど病室で過ごしたんだから。
でも、戦争なんてやってなかったし、着るものや食べるものには不自由しなかった。静かに平和に暮らせたんだよ。
それが今度は戦争?魔族?下手したら戦争に駆り出されて死ぬかもしれないってことだろ?というか文明が中世なら子ども時代に病気や栄養失調で死ぬかも…………
「ディッ、ディミトリオス様!それはないですよ。散々病気と付き合って、今度こそ平和に楽しく人生を送れると思ったのに……」
「すまぬがそなたの転生先は変えることができんのじゃ。これは世の理として決まっておる。」
「あああああ……それなら残りの半年を諦めなければよかった……せめてやりたいことを一つでもやってから死ねば…………」
真実を知り更に絶望する俺に、ディミトリオス様が提案した。
「それなら、残りの半年間でそなたの未来の環境を整えてみてはどうじゃ?」
「???……どういうことですか?」
「そなたは地球の生まれじゃろう?知識も技術も進んでおる。このまま半年寿命を伸ばしてやったところで、楽しい余生とは行かぬじゃろう。ならば、そなたが死ぬ半年の間、世界間の転移能力を貸してやろう。これで一足先に「細川圭」としてエルネアに行き、そなたの思うままに発展させれば良い。そのくらいの融通はきかせてやるぞい。」
「そんなことをして良いのですか?」
「別に構わぬ。違う星から知識や技術が伝わるなどよくある話じゃ。そなたの世界にも、実際に存在しない生き物や時代にそぐわない技術の一つや二つあったじゃろう?」
たしかに、世界の不思議特集なんかで見たことがある。ピラミッドの謎や実在しないドラゴンなどの伝説が各地にあることなど。
考えてみたらどうしてそんな発想ができるのか不思議だ。
「それらは前世の記憶を引き継いだ転生者が伝えたのじゃ。わしら神々の間では、星の発展を調節するために度々そういった転生者を送り込むことがある。今回もそういうことにしてしまえば良い。わしとしても、自分の作った星が発展するのは悪いことではない。」
「でも、もしそれで戦争を更に激化させるようなことになったら……」
「残念じゃがの、人間はどうのように進化しても戦争だけはやめられんものなんじゃ。他の星でもそうじゃった。わしらはそれも人間の営みの一部だと思うておる。まあ、あまりに大量に人が死ぬような技術を導入されては困るが、見たところ、そなたは善良な人間のようじゃし、そのようなことはせぬじゃろう。」
「それはもちろんですとも!平和に静かに暮らしたいのに、そんなの持ち込んでたまるかって話です!!」
「ほっほっほ!それなら良いのじゃ。さて、この申し出、受けてみるかね?」
「もちろんです!精一杯発展させてみせますよ!」
どうせ何もしなくても、転生先は変わらないんだ。だったら、残りの半年間で、やれるだけのことはやってやるさ。
半年間…………
「ただ、やっぱり半年は短いような・・・たいして発展しますかね?」
「ああ、それなら心配いらぬ。地球の時間軸とエルネアの時間軸は違うのじゃ。そなたが地球で過ごす半年は、エルネアでの十年に相当する。十年あれば、身の回りを整えるくらいは出来よう?」
「なるほど、わかりました。なんとか頑張ってみます。」
こうして、俺は余命半年を使ってフライング開拓をすることになった。
2023年4月6日加筆
Twitterにて、「余命半年のフライング開拓~来世の俺のために神の力で全力チート村づくり~」の挿絵(主人公イメージ画)をUPしました。
読者の皆さんの個々のイメージがあると思いますので、なろう本編にあげる予定はありません。
見てやっても良いよという方は、下記のTwitterアカウントよりご覧ください。
アカウント名:きくらげ@小説家になろう(https://twitter.com/kikuragenarou)