後悔先に立たず
◆後悔先に立たず
──今まで残された歴史や、発見された手記によると。──
異世界に残ることを強要・脅迫された異世界の乙女たちは、無理矢理婚姻、あるいは、時には“浄化”の仕事や聖女としての求められる役目が終えた後、既成事実などの性的繋がりなど、妊娠により歴代の女性たちは皆等しく情に厚く、我が子ができて捨てることができなくなることなどの理由により、嘆き苦しみながらも異世界に残らざるを得なかった。
そのため、今回聖女の傍近くについて聖女を懐柔し信頼と信用を得させ、手許に置き続けるために関わった、皇太子も、神官も、騎士も、“聖女”を手許においておけば、“聖女”を手に入れてさえおけば、一生“聖女の加護の力”による恩恵を国のモノとし、国に繁栄と豊穣の大地をもたらし続ける、と安心しきっていたのだが・・・。
メイド・マリリンの謀略により、彼女が自死したことを知らされた後、残された物たちだけでなく、重鎮たちの衝撃と嘆き悲しみにくれる後悔は、如何ばかりだったことか。
『結婚を約束した四葉大地のもとへ帰れず、好いてもいない騎士のもとへ嫁がされるくらいなら死んで拒否する、否、死んでも嫌だ。』
と死の間際まで仰っていました、とマリリンから告げられ、また、
『魂になって』
まで帰りたがった“聖女”の今際の際の言葉を聞かされ、猛反省したが時は既に遅かったのだ。──
──しかし、どうしてこのような悲劇が起きたのか、なぜ起こってしまったのか。
原因ときっかけをつくってしまったのだと思い当たる3人は、率先して、二度と召喚が行えないように、先ず最初に召喚の間を破壊し、つぶすことから始めた。
次に、記録されていた古文書のみならず、言い伝えや文献、資料に至るまで、書き記されていた全ての書を焚書処分。隠し持っていたものも徹底的に洗い出して一切の召喚に関する記録、記述を抹消した。
また今回の“召喚の儀”に携わった者たちには厳命な箝口令を敷き、必要とあらば魔術や呪いを使ってまで証言することを黙秘させた。
さらに、何人たりとも召喚を行わないようにと法を改正。
そんな出来事が立て続けに起きたある日、“聖女”が自殺した時の一部始終とその遣り取りを目撃していた“メイ”が、3人の職務の休憩を見計らって訪ねてきた。──
3人の中で一番立場も身分も、職業上においても地位も高い皇太子がどうしたのだ、答えて構わぬよと促した。
聖女様の生前時、国の勉強をしたいと聖女様が相談しに来た時に、宰相自ら率先して行っていた。その時に、聖女様は励みになるから一緒に勉強してほしいなとねだり、この侍女も傍で聖女様と国についてかなり年齢以上の聡さとスピードで学んでいたようだった。だからその場で教えていた宰相は、早くから少女の才能と聡さを見抜いていたので、今や後見人となって女官への昇格試験を学んでいる最中ではなかったのか。
何といえばいいのか、とかなり戸惑い躊躇している様子だったので、3人で宥めすかし、不敬になっても決して罪には問わないからと快諾させて、やっとその重くなった口を開かせた。
すると、侍女は語り始めた。聖女様が亡くなった時の状況を。
実は──、と侍女が口を切り出すと、今更かと思ったのですが、このまま黙っていられるわけがありません。
あの時、──聖女様の部屋にマリリンが侵入?してきた後、マリリンは“メイ”の方をさも卑しいドブネズミでも見つけたかのように見下した表情で一瞬見たかと思うと。
『聖女様。内密にお話したいことがございます。ですが、これからあたしが話す内容は、国の存亡にも関わるとても重要なことなので、どうかお人払いを願えませんか。』
と申しつけられたが、“メイ”は私にとっては妹と同じでありとても大切なお友達なのよ?それでもダメ?と聖女様が仰ると、尚もしつこくマリリンは食い下がってきた。
『どうか、どうか、お人払いを。』
とマリリンが真剣に今にも恐れ慄き震える声で泣き出しそうになりながらも、あまりにも訴えてくるので、優しい聖女様は“メイ”に、向こうの部屋に下がっていて頂戴。用事が済んだらまた一緒にお茶しましょうね。
といつもの優しい笑顔で仰ってくださったので、“メイ”もこの時は疑問に思わず承諾すると、そういえば衣裳部屋に大量にある片付け物があったと思い出し、作業に没頭することにしたのだった。
だからわざと隠れていたわけではなかったし、盗み聞きするのもどうかと思いむしろ後ろめたい気持ちで、聖女とマリリンの遣り取りの一部始終を聞いてしまっていたのだが、急に聖女様が押し黙ったかと思うと、パタン、と何かが足の高い絨毯のせいで然程大きな音ではなかったが、落ちたような後。──
──暫くして静寂が襲ったかと思うと、突然マリリンが発狂したかのように大笑いしたではないか。
『やったわ。これで邪魔者だった女は消えていなくなってくれたわ。ホント大っ嫌いだったのよねえ。何が聖女様よ。いい気になっていい男たちを3人も独り占めしてるからだわ。あたしが始末するまでもなかったじゃない。これであたしの愛しいあの人はあたしのモノ!ざまあみろ!!』
と声高らかに嬉しそうな叫びが聞こえた後、部屋を去っていく足音が聞こえ、またしばらく辺りは静寂に包み込まれた。──
マリリンと聖女のただならぬ様子に、“メイ”は一刻も早く直ぐ側に駆け付けて慰めてさしあげたかったが、マリリンに虐められていた時の記憶と、恐ろしい言動に、なかなか衣裳部屋の扉を開けて、さっさと聖女様の様子を見に駆け付けることができなかったのだが。──
──ようやっとマリリンがいなくなったのを、衣裳部屋の扉の隙間から確認してほっと一安心すると、徐に衣裳部屋の扉を開けて、聖女様がいるはずの室内に入った。
おかしい? お茶のセットが並べられたテーブルには、まだ湯気を立てて入れられて間もないお茶が放置されている。
その近くの先ほどまで聖女様が座っていたはずの椅子には、聖女様はいない。
するとその椅子下とテーブルの間の床に、倒れ伏したままピクリとも動かなくなり、物言わなくなった聖女様と、聖女様の手許に、自分から取り上げて聖女様が預かっておく、と言った見覚えのある薬瓶があるのに気が付いた。──
──聖女様の身に何が起きたのか全てを悟ってしまった。──
『自殺なんて、ホント馬鹿で愚か者のすることよ。』
といっていたのに・・・。それに、これは余程のことがない限り私が預かっておくわ。でもこれを二度と使うことがないように、使いたいと思わないように考えてほしいな。と言って聖女様に渡しておいた、もともとは“メイ”が持っていた毒薬だったはずなのに・・・。
マリリンとのやり取りから、マリリンから聖女様が自決すること以外に、どこにも逃げ場がない位に追い詰められたのを知ったのだった──。
──結果、メイドと聖女様の遣り取りの全てを証言してくれた勇気ある“メイ”のおかげで、3人は聖女様は本心では死にたくなかったに違いない。
しかし、死ぬ以外にこの世界からも逃れられようがなく、そして“召喚の儀”を凶行をした自分たちに確かに一番衝撃を与える方法だったのであり、今さら愚かだったと気づいた、自分達だということも、改めて悟った。──
──こうして、メイド・マリリンの浅はかな行為が暴かれ、聖女に使った毒草の中には2度と子供を作れなくする軽毒があり、メイドの悪事が露見されると、罰としてそれを飲まされ、更に少しのどんな刺激でも痛みで苦しみ続け、もとメイドは断罪処分された。
その後、鉱山や宝石などを輩出する領地で辣腕を揮っている、三代かけて富豪の商人として成り上がり、しかしその功績が国にも認められたので、男爵家の地位と領地を貰い、新興貴族として一代で築いた男に見初められた。男爵にかなり気に入られた元メイドは、でっぷり肥え太って脂ぎった40代の当主の元へ否応が成しに嫁がされた。
これは王命であり、また聖女を結果自殺に追いやった罰だとし、断ることもできなかった。
男爵の元で、あまりにも逃げようとするからと四肢を切り落とされ、いやだいやだと煩く泣き喚き文句しか言わないので歯を全てと喉もつぶされ、性玩具として扱われ、何人もの愛人もいる性的虐待が趣味の変態鬼畜男爵に弄ばれ続けた。
男爵と皇家とは、鉱物や宝石の取引の代わりに、但し、元メイドを一生涯幽閉することを魔術を用いた確約書まで交わさせて、強制送致。元メイドは死ぬまで苦しみ続けたという──。