3人寄れば・・・愚者の知恵
◆3人寄れば・・・愚者の知恵
──“月食”が帰還の条件であることを、“日食”と偽ったのは、我々のためでもあり聖女たちのためでもあるのです。聖女を何度も召喚するのは、大変な労力と魔力と人材資源の無駄ですから。“アオイ”を上手に説得して囲い込んで、永遠にこの国のために働かせ続けるのが、彼女のためにも、国のためにも良いことだと思いませんか?。
幸いにも、彼女は我々にすっかり気持ちを許してくれてるはずです。この世界に他に頼るべき身寄りもなく、縋るべき身内もいないのですから。
彼女は神力の修行の時に、情に絆されて力を発揮するタイプでしたから。
優しく接して、鳥籠の雛のように真綿で包み込んで離さなければ、きっと我々の思い通りになるはずですよ。
と、陛下や宰相以下、国の重鎮たちに、声高らかに自信満々に進言したのは、神官のユディウス。
それと、あの“召喚の儀”で現れた、小さくか細い、しかし凛とした瞳と表情で、陛下に臆することもなく異世界の挨拶だという“お辞儀”をした時の少女の笑顔を見た時に感じた、なんと可憐なことか。
本当に一目惚れしたくせに、ヘタレで言葉が少なく口下手なために、せっかくのプロポーズの言葉をも最期には、
「これは王命による政略結婚ですから。自分にも聖女様にも断ることは決してできませんし、権利もないのです。」
と言ってしまい、結局、否定も言い直しもできないまま、誤解され続けたまま、皇家や神殿に強要されて政略だけで婚姻を迎えるのかと思われている、護衛騎士ジョンジャック。
しかし、それでも騎士の“アオイ”に対する恋慕の想いをも、利用しない手はないでしょうと。
さらに、ユディウスの提案の通り、聖女が“魔瘴気浄化”を終えると、見る見る国難が嘘のように消え去り、この1年ですっかり不作も食糧難の心配もなく国に豊かさが戻った。魔獣まで国の外へ逃げ出したのか、姿が見られなくなり、このまま聖女をこの国に拘束しておけば、確かに国の繁栄のためにもなる。
それに、“帰還の儀”のために使われる、“犠牲”であり“生贄”となる魔力持ちたちの人材の確保や、月食の条件と再度別の聖女を召喚することの不利益など鑑みても、人材を確保するために奔走していたアレクシス皇太子にはとてもよい考えに思え、これを承諾。
それぞれの利害が一致したので、“聖女”をこの世界に、この国にとどめ続けておくことを決定された。
国の重鎮たちは、国益を考えれば、それが一番のよい考えに思えた。
満場一致で、聖女をこの国に縛り続けるための進言に賛同した──。