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“アオイ”に課せられた役割~“四葉のクローバー”に籠めた願いとお守り袋~


◆“アオイ”に課せられた役割~“四葉のクローバー”に籠めた願いとお守り袋~


 ──この世界における唯一の妹の代わりにしながら、“メイ”の少女ならではの可愛い声や仕草に癒され、また、共に異世界の勉強をするようになったおかげで、お互いに励まし励まされ合いながら、“聖女”としての役目が終わったら元の世界へ必ず帰るんだ、と頑張り続けた“アオイ”。

 それに、もともと情に厚く絆されやすい性格である。一日でも早く疲弊し続ける国民たちを、自分にできる“聖力”があるというのなら、早く救いたいとも思っていたので、その努力が実を結ばないはずはなかった。



 程なく、生活魔法などの基本的な魔法はもちろん、“浄化”の神力もやっと安定して制御できるようになりましたね、とユディウスにも太鼓判を押され、とうとう神殿巡りの旅が始まった。

 本当に厳しい指導で、鬼かと思ったよユディウスさん、と心の中で悪態をつきながらも、成功すればきちんと褒めてくれる神官に見直してもらって、ホントに良かったと歓喜する“アオイ”であった。


 パルスフィールド国内にある神殿は、奇しくも“アオイ”の世界での煩悩と言われる数と同じ、108箇所。

 108の神殿を其々の移動区間を安く見積もれば半年はかかるという。実際には、魔道具でかなり快適に迅速に移動できる馬車での移動であり、もちろん居心地もよいので、4か月くらいで済むらしい。


 その神殿巡りの間中、傍に3人の同行者が着けられた。皇太子アレクシス、神官ユディウス、護衛騎士ジョンジャックである。たぶん”アオイ”が途中で聖女の職務を放って、逃げ出せないようにするための監視でもあるのだろう? その彼らに、常に見張られながらの行軍なので、快適なはずの魔道馬車での移動も、常に緊張を強いられてしまい、気疲れする“アオイ”だった。


 しかし“アオイ”は気づかなかった。否、理解しようとすらしなかった。彼女が日本人として奥床しいことと、異世界とはいえ皇族・貴族という、おそらく高い身分にいる人たちに気軽に声をかけてはいけないと思い込んでいたがために。なかなか自分から疑問に思ったことを口に出せない、という性質のせいでもあった。またその逆に、異世界人の3人が身分の高い貴族で、言いたいことや本音を遠回しに比喩を使って表現するせいで、知らなかったのだ。


 魔獣が街中まで入り込むほど沸いていたし、魔獣以外にも聖女に対して邪な考えや、不埒な真似をする者がいないとも限らないため、万が一“アオイ”に危害が及ばないように、国でも上位の腕前の3人で、“アオイ”を護衛し、見守るためだけだったということに。

 そうとは知らず、必死に“聖女”の役目と責務を果たそうと我慢し続け、監視役だと誤解したままだったことも原因の1つだったのかもしれない。


 そんな雰囲気の中、“魔瘴気浄化”の神殿巡りの旅の途中の、ある日の休憩中、“メイ”や同行者の3人らと一緒にランチを楽しんでいる時だった。元の世界の四葉のクローバーにとてもよく似た植物、『トルフォリュムレンゲ(※注)』?なる植物を発見した。“アオイ”は、日頃の鬱憤を晴らすかのように、他にもないのか、見つけるまで馬車に戻らないからね、といつになく歓喜し興奮した。4人が理由を問うと、


 「願い事をして持っているとね、願った通りに幸せになれるのよ・・・まあ迷信だけどね」


 と自嘲しながら笑った。しかし、この出来事で4人の仲は急速に近づいた。そういうことなら私もお手伝いいたしましょうと神官。待て待て、こういうことはわたしに任せろと皇太子。寡黙なまま黙って既に自身の周囲の野草を漁る騎士。聖女様、これはどうですか?これは違いますか?と一緒に草塗れになって四つ葉を探してくれる侍女。

 そうやってどうにか、ここまで、まあこれからも神殿巡り終えるまでは一緒にいなきゃならないわけだし、と甲斐甲斐しく自分の身の世話をする3人の同行者を見やると、少しは信じてあげようかな?と、“メイ”と、自分のために、5人で見つけて摘んだ四葉のクローバー5葉を、皇太子に教えてもらった“押し葉魔法”で保管しておくことにした。


 こんな風に、“アオイ”が召喚されてから、神殿巡りが終わるまで、途中予定が狂ったり、魔獣や盗賊に襲われて遠回りしたり、災害の爪痕で予定していた経路をたどれず、大きく迂回経路を使うしかなかったりしたが、それでも念願の“魔瘴気浄化”の責務を終えた頃には、5か月が経過していた。

 こちらの世界で過ごした時間は元の世界ではどの位の帰還経ってるんだろ? ヤダ、もしかして浦島太郎みたいに何百年ってことないよね? それだったらヤバイじゃない。一刻も早く返してもらわなくちゃ。と“聖女”として108箇所の神殿巡り、“魔瘴気浄化”の祈りも神官に教わった通りの手順で、仕事をちゃんと終え、役目と責務も終わったんだ、ようやく元の世界へ帰れるんだ、と期待に胸を膨らませた“アオイ”であったが。

 皇太子たちから告げられた言葉に意気消沈せざるを得なくなった。


 「“アオイ”、すまぬ。予定していた“帰還の儀”のための、“召喚士”たちだが、前回の“召喚の儀”で半数が後遺症が治まらなくてな。もちろん、国中の“治癒士”や医師の手を駆使してもらい、何とか回復させたのだが・・・。

 ・・・それでな、代わりの“召喚士”の選別をしたのだが、彼らの都合が運悪く、すぐには集められないというのだ。貴族などのしがらみを持った者も多くてな。本当にすまぬが、準備が整えられるまではすぐに返してやれることができなくなったのだ。」


 ・・・そう。残念だけどわかった。皇太子の仕事も大変だもんね。自分より年上の人や、役職が上の貴族や、色々気苦労があるんでしょう。

 そういうことなら、“召喚士”達の予定がそろうまでは、観光する時間ができたと思って、“メイ”とさらなる異世界について勉強したり、孤児院を案内してもらうのもいいかもね。と声をかけて慰めると、納得してくれたかと理解ある態度に変わり、必ず早く予定が組めるようにこの埋め合わせをすると、また忙しそうに皇城にむかった。


 その間、“メイ”と共にお互い励まし合いながら、勉強をしたり、孤児院を訪ね、子供たちに元の世界の話を聞かせたり、遊びを教えたり、“聖女の浄化”の神力を付与した拙いながらも手作りのちいさな巾着袋の中に、四葉のクローバーに似た押し花を入れた、“匂い袋のお守り”を5つ作った。


 そして皇太子が“約束”してから、数か月を要した。つまり“アオイ”が召喚されてから8か月が経っていた。そしていよいよ“召喚士”の選別が済み、じゃあ今度こそは、と待ち構えていると、今度は神官から意外な事実が告げられた。


 「申し訳ありません、“アオイ”。召喚や帰還には、魔法陣を扱える魔力量を持った“召喚士”たちだけでなく、もう1つの条件があるのです。

 本当はこの条件をもっと早くお伝えしたかったのですが、神殿巡りを1つ終える度に、

 『これで家に帰れる日が一歩近づいたね。』と嬉しそうに仰る貴方の笑顔を曇らせたくなくて、ついつい今日言おう、明日こそはと先延ばしにしてしまいました。

 実は1年毎にしか起こらない、日食のある日だけが、異世界の扉を開く鍵なのです。そのため人材が確保できたとしても、すぐには準備できないのですよ。」


 と聞かされ、1年に1回しか発現しない“日食”が条件なら、と結局彼女はその話を信じて、さらに凡そ4か月あまり、日食が起こり、“アオイ”が召喚されたのとほぼ同じ月日になるまで、我慢し続けた。


 その間、度々“メイ”にお世話になった孤児院を訪ねては、元の世界の遊びを一緒に遊んだり、この世界にないお菓子を作って食べさせたり、花を模した刺繍の匂い袋に聖女の聖力がこめられているお守りを、孤児院の寄付金を募るためバザーに提供したりして過ごした。


 さらに、いつ皆に渡そうかと持ち続けていた“お守り”に、そういえばこれにも刺繍をしたいな。このままじゃ味気ないし?、ちょっと考えてからやがて、皇太子にはダイヤのキング、神官にはハートのクイーン、護衛騎士にはスペードのジャック、メイにはジョーカー、自分にはクラブのエース、を模した刺繍を施し、やっと4人にお守りを渡すことができた。とても驚き、そして喜んでもらえたので、それなりに仲良くなったのに、日食が始まったら、私はこの国から、この世界から離れないといけないのだから。残念に思う反面、ほっとした“アオイ”であった。


 こうして静かに1年後の“日食”を待ったのだが・・・。



 ・・・いつまでも返してもらえる気配がない。


 「私の“聖女としての仕事”は、もうとっくに終えたはずでしょう?。異常気象も天候不順も災害もなくなりました。不作も食糧難も減りました。魔獣も国から一掃され、平穏が訪れました。

 それなのになぜ、私を未だ拘束し続ける必要がどこにあるのでしょうか?。

 あなた方の都合だけで、勝手に役目と責務を押しつけられて、どんな甘い言葉で囁かされても、私の心は何物にも誰からも支配されることは、決して今後も一生ありません。心だけはどこまでも自由なはずだ・・・。

 ですから一刻も早く、元の世界へ帰してください!」


 ・・・と只管訴え続けたのに──。


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