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シティーガールハンター3  作者: 椎家 友妻
第一話 消えたフランソワ
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7 もふもふ王国

 そのお店は、クレープ屋さんから五分も歩かない場所にあった。

 ショウウインドウにはくまさんやワンちゃん、ウサギさん等のかわいらしいぬいぐるみ達が並び、

その上に(かか)げられた看板には、『もふもふ王国』と書かれている。

 「ずっと気になってたんだけど、なかなか来る機会がなかったの。ね、早く入ってみようよ」

 由奈ちゃんはウキウキした様子でそう言うと、軽い足取りで店の中に入って行った。

 「あ、ま、待ってよ由奈ちゃん」

 慌ててその後に続く私。

店の中はそう広くはないものの、そこに置かれた棚や台の上に、

ショウウインドウ以上にズラリと様々な動物のぬいぐるみが並んでいる。

有名な海外のぬいぐるみだって由奈ちゃんは言っていたけど、

確かに日本のキャラクターのぬいぐるみは、このお店には見当たらない。

だけどどのぬいぐるみも可愛くて、見ているだけでホンワカした気持ちになってくる。

そしてそんなぬいぐるみ達を見て

 「見て見てしぃちゃん!このクマさん、すっごい可愛い!」

 と言いながらはしゃぐ由奈ちゃんを見ていると、更にホンワカした気持ちになった。

店の中には他にも学校帰りの女子高生や、小学生くらいの女の子も居て、

ぬいぐるみ達を眺めながらキャッキャ言いながら楽しそうにしている。

その様子を見ていると、そんな彼女達よりも頭ひとつ以上背がでかくて、

女子力のジョの字もないような私は、

こんな女の子女の子した店にはとても合わないんじゃないかと、ちょっと不安な気持ちになってくる。

由奈ちゃんが一緒じゃないと、こんなお店には絶対に入れないわ。

 などと考えていると、ショウウインドウの外に、一人の小さな女の子が立っているのが目に入った。

歳は六歳か七歳くらいだろうか?

ふんわりとカールした髪を左右に分けてくくり、白いブラウスに桃色のスカートをはいている。

パッと見た感じ、活発で元気そうな女の子だけど、今はその顔色に影が差し、

とても悲しそうな様子でショウウインドウのぬいぐるみを眺めていて、

そのつぶらな瞳からは、今にも涙があふれだしそうだった。

一体どうしたんだろう?

あの中に欲しいぬいぐるみでもあるんだろうか?

それが買ってもらえなくてあんなに悲しそうな顔をしているの?

でもそれだけの事であんなに泣きそうになるのかな?

 そんな事を考えていると、何だか胸の奥がザワザワしてきて、

その子の事が放っておけない気持ちになってきた。

するとそんな私に気がついた由奈ちゃんが声をかけて来た。

 「どうしたのしぃちゃん?気になるぬいぐるみでもあった?」

 それに対して私は、首を横に振ってこう返す。

 「ううん、そうじゃなくて、ショウウインドウの外に居る子が気になって」

 それを聞いてショウウインドウの外を見やる由奈ちゃん。

 「何だか悲しそうだね。しぃちゃん、何があったのか聞いてみようよ」

 「ええ?見ず知らずの私達が声をかけたら怖がられるんじゃないかな?」

 「それは声をかけてみないと分からないよ。

それにしぃちゃんは、園真探偵事務所で『困っている人を助ける』お仕事をしてるんでしょう?

今がまさにその時じゃない」

 「いや、あそこでの仕事はそんなに立派なものじゃないよ?」

 况乃さんがどうしてあの歳で探偵なんかをやっているのかは知らないけど、

『困っている人を助ける』為にやっているのではないという事だけは断言できる。

うん、断言できる。

 けど、すっかりそう信じ込んでいる由奈ちゃんはそんな私の言葉など全く聞く様子もなく、

私の背中を押して店の外へと出た。

 そしてショウウインドウの前に立つ女の子のすぐそばまで来た私は、

今更引き返す訳にもいかないので、その子の前にしゃがみ、できるだけ優しい口調で声をかけた。

 「ねぇ、さっきから悲しそうな顔でぬいぐるみを見てるけど、

どうしたの?ここに欲しいぬいぐるみでもあるの?」

 すると女の子はふるふると首を横にふり、その小さな口でつぶやくように言った。

 「いなく、なったの・・・・・・」

 「居なく、なった?もしかして、おじょうちゃんの、ぬいぐるみが?」

 私がそう言うと、女の子は私の方を向き、顔をくしゃっとさせた。

そしてせき止められていた川の水が一気に流れ出すように、女の子は声を上げて泣き出した。

 「うゎああああん!びぇええええん!」

 「うぁっ⁉ええっ⁉ど、どうしたの⁉」

 いきなりの出来事にあたふたする私。

どどどどうしよう?

小さい子を泣かせてしまった。

これってやっぱり私のせい?

見ず知らずの私がいきなり声をかけたから、怖がらせちゃったのかな?

 頭の中がグルグルして、もうどうしていいのか分からなくなった。

するとそんな女の子のかたわらにしゃがんだ由奈ちゃんが、女の子の頭を優しくなでながら言った。

 「よしよし、良い子だから泣かないで?

ねぇ、もしよかったら、何があったのかお姉ちゃん達に教えてよ。

私達で何か力になれる事があるかもしれないから。ね?しぃちゃん?」

 「え?う、うん」

 由奈ちゃんにそう言われ、私はハッと我に返ってうなずいた。



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