5 由奈ちゃんは彼氏持ち?
「えっ?」
由奈ちゃんの発言に頓狂な声を上げる私。
え?由奈ちゃんは今、柊さんにも(・)って言った?
っていう事はまさか、由奈ちゃんにも彼氏が居るって事?
ドバギャァアアアン!
私は雷にうたれたような衝撃を受けた。
そして改めて由奈ちゃんをマジマジと見詰める。
その由奈ちゃんは意味深な笑みを浮かべて私を眺めている。
ま、ま、まさか、そうなの?
由奈ちゃんは私の知らないうちに、大人への階段を上り始めていたの?
そう思った私は上ずる声で由奈ちゃんに尋ねる。
「ま、まさか由奈ちゃんも、彼氏が居るの?」
それに対して由奈ちゃんは、小首を傾げてこう返す。
「さぁ~、どうかなぁ?」
ひ、否定しない・・・・・・
って事はやっぱり、由奈ちゃんにも彼氏が居るんだ(というか、柊さんに彼氏が居ると決まった訳でもないのだけど)。
そう思った私は目の前も頭の中も真っ白になった。
するとそんな私を見た由奈ちゃんが、プッと吹き出して言った。
「あははっ、冗談だよ冗談。私に彼氏なんて居る訳ないよぉ」
「へ?そ、そうなの?」
目を点にして間の抜けた声を出す私に、由奈ちゃんは笑い過ぎて涙を浮かべながらこう続ける。
「当たり前だよぉ。私ってドジで子供っぽいし、
柊さんみたいに男の子とでも平気な感じでオシャベリとかできないし、
しぃちゃんみたいにスタイルもよくないし、そんな私に彼氏ができる訳がないもん」
「えぇっ?」
その言葉に再びマヌケな声を上げる私。
まあ由奈ちゃんに彼氏が居ないのは良かったけれど、由奈ちゃんのその認識は間違っている。
断言しよう。
由奈ちゃんは、モテる。
確かに表向きは柊さんが一番モテてる感じだけど、
私の見た所、クラスの男子どもで由奈ちゃんに想いを寄せているヤツは相当数居る。
下手をすれば柊さんよりもその数は多いかもしれない。
何故なら、由奈ちゃんは問答無用で可愛いからだ。
おまけに人の悪口とか言わないし
お料理上手だし
ちょっとドジな所とか逆に守ってあげたくなるし
友達思いだし―――――――
このまま続けると第八話くらいまでかかってしまいそうなのでここでやめておくけど(機会があればまた説明します)、
とにかく由奈ちゃんはバリバリモテるのだ。
だからそう遠くないうちに、由奈ちゃんに告白しようなんて男子も出てくるだろう。
その時はそいつを殺そう。
そして高校を卒業したら私もアヤメビトコーポレーションに就職して、
由奈ちゃんに言いよる男を片っ端から抹殺していくのだ。
うん、そうしよう。
私の将来は決まった。
と、心の中で決心していると、由奈ちゃんが上目づかいに私を見ながら言った。
「ねぇ、そういうしぃちゃんは彼氏は居ないの?もしくは好きな男の子とか」
「居る訳ないよ!」
私は全身全霊の力を込めて答えた。
だって私は由奈ちゃんが好きなんだもの!
は?百合かって?
違うわよ!
私はあのプラモ屋の葺野瓜子さんみたいに、可愛い女の子だったら誰でも好きな訳じゃあなくて、
由奈ちゃんが好きなの!
由奈ちゃんじゃないとダメなの!
二番目は居ないの!
「し、しぃちゃん?」
目の前で由奈ちゃんがきょとんとした顔で私の名を呼んだ。
どうやら私はおかしなスイッチが入り、目に見えない誰かに魂の叫びをぶつけていたようだ。
その事にハッと気付いた私は、両手をブンブン振りながら言った。
「あ、いや、わ、私に彼氏は、居ないよ?あ、あははー」
するとそれを聞いた由奈ちゃんは、ホッとした様子で言った。
「よかったぁ、もししぃちゃんに彼氏が居たら、
もうこんな風に一緒に帰ったり、遊んだりできなくなるもんね・・・・・・
あ、でも、もししぃちゃんに好きな人ができたら、その時は精一杯応援するからね!
だから隠さずに教えてね!」
「えぇ?そんな事があるのかなぁ?
じゃあ由奈ちゃんも、好きな人ができたら教えてね?その時は――――」
この世から消すから・・・・・・と、いう言葉をすんでの所で飲みこみ、ぎこちない調子でこう言った。
「お、応援、するから・・・・・・」
応援、できるのだろうか?
もし由奈ちゃんに彼氏ができたら、私は嫉妬の炎で身も心も焼き尽くされてしまいそうな気がする。
考えただけでも胸が締め付けられて、黒くにごった感情が心の中にあふれ出す。
私は由奈ちゃんのように、綺麗な心を持っていないのだ。
はぁ・・・・・・。