5 智由ちゃんは浮かない顏
「うゎああん!詩琴おねえちゃぁん!怖かったよう!」
智由ちゃんの前ではしっかり者のお姉ちゃんで居ようとしているけど、
智矢ちゃんはまだ小学生の女の子。
変な事はされなかったけど、ある意味それ以上に変な事をさせられて、さぞ怖かったろう。
そんな智矢ちゃんの頭を優しくなでながら私は言った。
「悪者はやっつけたからもう安心だよ。それより智由ちゃんは何処にいるの?」
ここに踏みこんでから智由ちゃんの姿を見ていない私は、
部屋の中を見回しながら智矢ちゃんに尋ねる。
それに対して智矢ちゃんは部屋の奥にある机を指差して
「あそこです」
と言ったので、私はその机のそばまで歩み寄る。
すると机の下に、クマのぬいぐるみを抱いて座り込んでいる智由ちゃんが居た。
おそらく智矢ちゃんが変態社長の顔を踏む事を引き受け、
智由ちゃんをここに隠れさせていたんだろう。
そんな智由ちゃんのそばにしゃがみ込み、私は手を差しのべながら言った。
「智由ちゃん、もう悪いヤツはやっつけたから大丈夫だよ。
だから智矢お姉ちゃんと一緒にお家に帰ろ?」
私の言葉に智由ちゃんは
「うん」
と小さくうなずいたが、その顔はひどく悲しそうだった。
それもそのはず。智由ちゃんが今抱いているクマのぬいぐるみのフランソワは、
さっき刹羅によって首をちょん切られてしまったのだ。
その頭は智由ちゃんの傍らに転がっていて、それを眺めながら智由ちゃんはつぶやいた。
「フランソワのおくび、とれちゃった。
いきものは、おくびがとれるとしんじゃうんだよね?
フランソワもしんじゃったの?」
「う、う~ん・・・・・・」
智由ちゃんの言葉にうまく答えられない私は、両腕を組んで考え込んでしまった。
こういう場合はどう答えればいいんだろう?
死んじゃったと言えば死んじゃったんだろうけど、
ぬいぐるみに生きてるとか死んでるとかの考え方はあるのかしら?
とりあえず頭はちゃんとあるから、うまく縫いつければ元通りにできるんだろうけど、
私はそんな裁縫の技術はないし、フランソワをこの場で治す事はできない。
う~ん、どうしよう?
と、途方に暮れていた、その時だった。
「しぃちゃん!助けに来ましたよ!」
という声とともに、綾芽が事務所の扉を豪快に蹴破って姿を現した。
そして床の上でくだばっている縫来を見つけ、目を丸くして声を上げる。
「ありゃりゃ?悪の親玉はもう片づけちゃったんですね?」
その傍らには左肩に包帯を巻いた潟奈ちゃんも居て、
そんな潟奈ちゃんを支えるように、綾芽が肩を貸していた。
その二人を見てホッとした私は、立ちあがって綾芽に声をかける。
「まあね。綾芽は、あの男達を全部片付けたの?」
それに対して綾芽は暴憐棒を持った右手を振り上げ、得意げな口調で言った。
「もちろんですよ!暴憐棒を操る私にかかれば、
あんなゴロツキが百人かかってきたって全員ぶっ飛ばします!」
まあ、綾芽だったら本当にやりそうだわね。
そして傍らの潟奈ちゃんにも声をかける。
「潟奈ちゃん、肩の傷は大丈夫?」
「はい、傷は浅いので、しばらく安静にしていればじきに治ります」
潟奈ちゃんがそう言うと、綾芽は小馬鹿にするようにで口を挟む。
「まったく、なっちゃいないですねぇ。
私だったらあんな小賢しい殺し屋相手にそんな傷を負う事はなかったですよ?
変な情けをかけるからそうなるんです。ぷぷぷーっ」
その言葉にカチンときた様子の潟奈ちゃんは、綾芽をにらみつけながらこう返す。
「私は人を殺す為に瞬を振るう訳ではありませんので、これでいいのです。
彼女もこれでこの件からは手を引くでしょうし、事件は解決ですよ」
事件は解決、か。
確かにそうなんだろうけど・・・・・・
と、私が浮かない顔をしていると、それに気付いた綾芽が首をかしげて問いかける。
「どうしましたしぃちゃん、何だか浮かない顔ですねぇ。便秘ですか?」
「便秘じゃないわよっ!
そうじゃなくて、智由ちゃんのクマのぬいぐるみの首がちょん切られちゃって、
どうしたらいいのか困っているのよ。綾芽、あんた裁縫とかできない?」
私がそう問いかけると、綾芽は胸をはり、自信満々の様子でこう言った。
「できません!私、手先を使う細かい作業は苦手なので!」
「何でそんな自信満々に言うのよ?じゃあ潟奈ちゃんはどう?」
私が潟奈ちゃんの方に顔を向けて尋ねると、潟奈ちゃんは私から顔をそらしてこう答える。
「すみません、私、物を切るのは得意ですが、物を縫い合わせたりするのは苦手で・・・・・・」
つまり裁縫は苦手なのね。
そうなると、由奈ちゃんに頼むのが一番確実かな。
由奈ちゃんは家庭科系のスペシャリストだから、お料理やお裁縫は得意中の得意。
自分でぬいぐるみなんかも作ったりするから、
フランソワの首をつなぎあわせるくらい、チョチョイのチョイでやってくれるだろう。
と思っていた、その時だった。




