4 顔が潰れるまで
その縫来は智矢ちゃんに踏みつけられていた余韻にひたっているのか、
ウットリした表情で天井を眺めている。
そんな縫来の傍らに私が立つと、ようやく我に返った縫来は驚いた様子で声を上げた。
「な、何ですかあなたは⁉いつの間にこの部屋に⁉」
そう言って縫来は起き上がろうとしたが、
私はそんな縫来の喉仏を靴を履いたままの右足で乱暴にふみつけた。
ゴン!
その拍子に後頭部を激しく床に打ち付ける縫来。
そしておぞましい物を見るかのような目で私を見上げながら言った。
「痛いじゃないですか!ら、乱暴な事はやめなさい!」
それに対して私は、氷河期の猛吹雪のごとき冷たい口調でこう返す。
「は?縫来さんは女の子に自分の顔を踏まれて喜ぶド変態なんでしょ?
だから私も踏んであげますよ。顔が潰れるまで。
どうです?嬉しいでしょう?」
私は割と親切な気持ちをこめてそう言ったけど、
その親切心はどうやら縫来には伝わらなかったらしく
(よかれと思ってやった事が、しばしば真逆の結果をもたらしてしまうという事は、人生ではよくある事だ)、
嫌悪感と恐怖にまみれた表情で声を荒げた。
「嬉しい訳がないだろ!私は思春期を迎えた娘は嫌いなんだ!
気性が荒くて精神が不安定で言う事を聞かなくて手がつけられない!
それに何より手足が太くて体が重い!
君みたいな筋肉ムキムキで大きな足に踏まれてもちっとも気持ちよくならないよ!
私は純真無垢でいたいけな少女の、細くて小さい足に踏まれたいんだ!
そう!そこに居る彼女のような女の子――――――ゴブゥッ⁉」
これ以上聞いても無駄なので、私はかかとを縫来の鼻っ柱にめり込ませた。
すると縫来の鼻は私のかかとの形にグニャリとひしゃげ、
両方の鼻の穴から大量の鼻血が噴き出した。
そして目から大粒の涙をあふれさせながら、縫来はさっきとは一転して大人しい口調になって言った。
「わ、わかった、わかりました。私が悪かったです。
も、もうその子に私の顔を踏ませようなんて事はいたしません。
だから許し――――――ギャフゥッ⁉」
許して欲しいのかどうなのかよく聞こえなかったけど、
私はとりあえず、自分のかかとを縫来の眉間にめりこませた。
すると縫来は両手で目元をおおい、さも痛そうにのたうちまわる。
そして涙と鼻血にまみれた顔で、私にすがるように言った。
「あ、あなたは、お小遣いが欲しくはないですか?
実は私は、この倉庫にあるぬいぐるみに詰めている魔法の粉を売りさばいて、
莫大なお金を手に入れているのです。
その筋で売れば、1グラムで数万円の値が付く代物ですよ!
それをあなたには特別に1キロ差し上げます!
これだけあれば働かなくても好きなだけ遊んで暮らせますよ!
どうです⁉悪い話じゃないでしょう⁉
だからここは見逃し―――――――グボホォッ⁉」
見逃して欲しいのかどうかはよく分からないけど、
私はとりあえず縫来のみぞ(・・)おち(・・)に自分のかかとをめりこませた。
すると縫来は息苦しそうにうずくまり、息も絶え絶えに私に訴えた。
「お、お願いです。どうか、許して下さい・・・・・・
これ以上、その丸太のような足で私を踏むのはやめてください。
これ以上その重たい足で踏まれたら、私の顔は潰れてしまいます・・・・・・」
その言葉に、私の頭の中で何かがプツンと切れた。
そして人間は、ある一線を怒りが越えるとかえって冷静になるものだと、この時初めて分かった。
そしてその冷静になった頭と口調でこう言った。
「へぇ、
そう、
じゃあ、
もう、
終わりに、
して、
あげる」
私の言葉に縫来はホッとした表情を見せたが、そんな縫来に私はこう付け加えた。
「次の、
一撃でね」
「なっ⁉」
縫来の顔が再び恐怖にゆがむ。
そんな縫来の傍らに歩み寄り、私は再び右足を振り上げる。
それを見た縫来は大きく目を見開き、声を裏返らせながら叫んだ。
「や、やめてくれ!その凶暴な足を下ろしてくれ!私はそんな足に踏まれたくない!」
しかし私はそんな言葉には一切耳を貸さず、
縫来の顔面目がけて振り上げた足の裏を目一杯めり込ませる。
この瞬間、私の必殺技が誕生した。
「面潰し!」
説明しよう。
面潰しとは、いたいけな女の子に自分の顔を踏ませて喜ぶオッサンの顔面を
踏みつぶしてこらしめる必殺技である。
その威力は、十トントラックに顔を踏まれるのに相当するほど強力だ
(しかしこれは私の体重が何キロあるかという事とは一切関係がないので注意して欲しい)。
そんな私の必殺技をまともにくらった縫来の顔はグシャッというにぶい音を立て、
インドの草原で昼寝をしていたらうっかり象に顔を踏みつぶされたオジサン
(インドでそんな事があるのかどうかは知らないけど)
のようにグチャグチャのペッタンコになり、そのまま気を失って動かなくなった。
手足はピクピク動いているので、どうやらまだ生きてはいるようだ。
ともかく醜いド変態オヤジをこらしめた私は、仁王立ちのままフゥッと大きく息を吐いた。
するとそんな私に智矢ちゃんが後ろから抱きついて来て、泣きながら声を上げた。




