9 まっぷたつ
とまあそんな調子で、綾芽と潟奈ちゃんは襲いくる男達をバッタバッタと打ち倒して行く。
その二人の強さはあまりにも圧倒的で、
戦っているというよりは、歩くカカシを一方的にシバキ倒しているようにも見えた。
「な、な、何なんだコイツらは⁉本当に人間なのか⁉」
私の腕を掴んでいる男(っていうかいつまで掴んでんのよ⁉)も流石に怖気づいた声を上げる。
すると次の瞬間、襲いくる男達の集団から抜け出た潟奈ちゃんが一直線に私の方に突進して来て、
私の傍らの男の脳天に、瞬の峰を思いっきり打ちこんだ。
ゴワシャァッ!「ぐばぼっ⁉」
えげつない衝撃音とともに、男の顔がスクラップになった車のようにひしゃげ、その場につんのめった。
その男の顔を容赦なく踏みつけ、潟奈ちゃんは私に言った。
「大丈夫ですか詩琴さん⁉どこかお怪我は⁉」
「ありがとう、私は大丈夫だよ。それより女の子二人が変態男に連れて行かれたの!
久尾刹羅も一緒だから、早く助けに行かないと!」
「そうですか、それでは私もお供します。この場はあの怪力バカ女に任せておけば問題ないでしょう」
「誰が怪力バカ女ですか⁉」
潟奈ちゃんの言葉に、持ち前の怪力でバッタバッタと男達をなぎ倒しながら、綾芽が抗議の声を上げる。
この場にはまだ二十人くらいの男達が残っているけど、あの調子なら確かに大丈夫そうだ。
そう思った私は、男達をぶっ飛ばし続ける綾芽に声をかける。
「綾芽!私と潟奈ちゃんは智矢ちゃんと智由ちゃんを助けに行くから、この場はお願いできる⁉」
「仕方ありませんね!見せ場はそのプッツンスパスパ女に譲りますよ!」
「誰がプッツンスパスパ女ですか!」
綾芽の言葉に露骨に不愉快そうな表情を浮かべる潟奈ちゃん。
するとその言葉を聞いた数人の男が、私達の方に振り向いて叫んだ。
「おいコラ!何処に行こうってんだよ!」
「どさくさにまぎれて逃げるってのか⁉」
そう言ってズカズカとこちらに向かって来る男達。
こんなヤツらに構ってる場合じゃない。
早く智矢ちゃんと智由ちゃんを助けに行かないと!
そう思っている私の前に潟奈ちゃんが立ちはだかり、男達の方ではなく、
その傍らの、高く積み上げられた段ボールの方に体を向けた。
それを見た男達は、首を傾げて問いかける。
「おいおい何処を見てんだよ?俺達はこっちだぜ?」
「それともビビってまともに顔も合わせられねぇのか?」
しかし潟奈ちゃんはそれには答えず、
鞘から瞬を抜き、
その鞘を地面に置いて、
両手で瞬の柄を握り、
その切っ先を天井向けて振り上げた。
いつも鞘に収まっている所しか見た事がなかったけど、
振り上げられた瞬の刀身は宝石のように磨きあげられ、
刀に興味がない私でも、思わず見とれてしまうほどに美しかった。
それにしても、段ボールの山に向かって瞬を振り上げて、
潟奈ちゃんは一体何をするつもりなんだろう?
そう思っている私に、潟奈ちゃんは瞬を振り上げたまま口を開いた。
「詩琴さん、危ないですから、少し下がっていて下さい。今から私の、超必殺技をお見せしますから」
するとそれを聞いた男達が大声で笑いながらはやし立てる。
「聞いたかよ⁉超必殺技だってよ!ギャッハッハ!」
「格闘ゲームかっつうの!全く笑わせてくれるぜ!」
しかし潟奈ちゃんはそんな男達の声を吹き飛ばすように、あらん限りの声で叫んだ。
「真っ二つ!」
それと同時に潟奈ちゃんは振り上げた瞬を一気に振り下ろす。
その直後、二秒程の間を置き、十メートル程の高さに積み上げられた段ボールの山が、
上から下まできれいに真っ二つに斬り裂かれた。
「どぇえええっ⁉」
「ほんがぁああっ⁉」
驚きの声を上げる男達。
そして真っ二つになった段ボールの中から大量のクマのぬいぐるみ達があふれ、
箱の中で一緒に斬られたぬいるぐみの体から、
密輸された麻薬の粉があふれ出し、倉庫の床に散乱した。
ほ、本当に真っ二つにしちゃった。
しかもうず高く積み上げられた段ボールの山を上から下まで。
これなら三階建てのビルでも真っ二つにしちゃうんじゃないの?
そう思いながら身震いする私。
そして彼女が何故アヤメビトコーポレーションで最強と言われていたのかを、改めて実感した。
そんな潟奈ちゃんは、目の前で震えあがる男達に半身に構え、
弓を射るような鋭い眼光でにらみながら言った。
「こうなりたい人は、かかって来てください」
その言葉に対し、うなずいてかかって来る男は一人も居なかった。
それを確認した潟奈ちゃんは足元に落ちた鞘を拾ってそれに瞬を収め、
その様子をポカンと眺めていた私に声をかける
「さあ詩琴さん!先を急ぎましょう!」
「え?あ、う、うん!」
ハッと我に返った私は頷き、潟奈ちゃんと一緒に倉庫の奥へ向かって走り出した。
あの変態社長は、確かこっちの方に歩いて行った。
この奥に事務所みたいな部屋があるんだろう。
そう思いながら走っていると、案の定事務所らしき部屋の扉が見えて来た。
そしてその扉を守るように、仁王立ちで立ちはだかる少女が一人。
久尾刹羅だった。




