3 フランソワ、死す
ジャキィン!
という耳触りな音ともに、首切鋏に切断されたフランソワの首が宙に浮かび、
そのまま段ボールの山の上から転がり落ちていった。
それを目の前で見せられた智由ちゃんは、のどが張り裂けんばかりの大声を上げて泣き叫んだ。
「ふらんそわぁああっ!うわぁあああんっ!」
そして刹羅の傍らにポトリと落ちたフランソワの体から、大量の白い粉がこぼれ出る。
やはりフランソワの中にも麻薬が詰め込まれていたのか。
いや、そうだとしても、智由ちゃんの大切な友達をこんな目にあわせていいはずがない。
それにぬいぐるみの体に麻薬を詰めて密輸する事自体、絶対に許されない事なんだから!
私の中でマグマのごとく怒りが吹き上がる。
それは智矢ちゃんも同じらしく、今にも刹羅に襲いかかるような勢いで叫んだ。
「許せない!絶対に許せない!こんなひどい事するなんて、あなたはそれでも人間なの⁉」
「ダッハハハッ!人間だからこそ、こんなにひどい事ができるんだよ!
それにアタイは殺しが職業、いや、性分なんだ。
ぬいぐるみだろうが人間だろうが、殺して、殺して、殺しまくる。
それがアタイがこの世に存在する理由なんだよ!」
刹羅はそう言って、蛇のように不気味な舌をベロンと出した。
しかし智矢ちゃんはそれにひるむ事なく、まっすぐな瞳で刹羅をにらんで言い返す。
「そんなの絶対間違ってる!例えどんな人間だろうと、人殺しはけないんだから!」
「ハンッ!これだからションベン臭いガキは嫌なんだよ。いつだってアタイに耳触りな事を言いやがる。
もうこれ以上グダグダ言ってもしょうがねぇから、とりあえず、お前の妹から殺してやるよ」
刹羅はそう言うと、ロープで縛られて刹羅の傍らにひざまづいている智由ちゃんの首に、
両刃を開いた首切鋏を構えた。
「智由!やめて!私はどうなってもいいから、その子だけは助けてあげて!」
悲鳴のような叫び声を上げる智矢ちゃん。
そんな智矢ちゃんに手を伸ばし、智由ちゃんも恐怖に震える叫び声を上げる。
「うわぁあああん!おねえちゃぁあああん!」
「ダッハハハッ!いいねぇその恐怖と苦痛に満ちた叫び声!
アタイはそういう人間の首を無残に跳ね飛ばすのが、この上ない快感なんだよ!」
あの女、魂が腐っている。私は怒りのあまり、血が出るほどに歯をかみしめている事に今気がついた。
しかしその怒りは目の前の殺し屋だけでなく、それをただ見ている事しかできない、
自分の無力さにも向けられている。
目の前で幼い女の子が助けを求めているのに、それを助けてあげられないなんて、私は何て無力なんだ。
心がどんなに正しくても、それを実現するだけの力がないと、そんな心は無いのと同じじゃないの!
私は両拳をこれでもかというくらい握り締める。
やっぱり私は一人じゃ何もできない、ヘッポコ人間なんだ。
うまくいけば智由ちゃんを助け出せるかもしれないなんて思った自分の浅はかさがホトホト嫌になる。
冷酷無比の殺し屋が相手な上に、屈強で野蛮な男達に囲まれた状態で、
ちょっと空手をかじっていた程度の私がどうこうできる訳がないじゃないの。
もう、ダメだ。私の力じゃ、智由ちゃんも智矢ちゃんも助ける事はできない。
私の心は絶望と無力感に打ちひしがれた。
と、その時だった。
「まあまあ刹羅さん、そう手荒な事ばかりするものではありませんよ」




