2 むらがる悪党
智矢ちゃんの家からかれこれ三十分ほど自転車をかっ飛ばし、
目的地の工業団地の中で更に十分ほど迷った末に、
私と智矢ちゃんはようやくミルグイーヌカンパニーの倉庫の前にたどり着いた。
そこは学校の体育館くらいある大きな倉庫だった。
鉄製の巨大なシャッターが、智由ちゃんの居場所への行く手をはばむように、
私と智矢ちゃんの前に立ちはだかっている。
「何だか、怖い雰囲気の所ですね。本当にこの中に、智由が居るんでしょうか?」
「多分、ね。智由ちゃんと、あと、さらわれたフランソワもここに居るはずだよ」
私は太郎と太郎二号(二号は首を飛ばされてしまったので、傷口をガムテープでふさいできました)が入ったリュックを背中に背負いながら答える。
そして巨大シャッターの脇にある小さな通用口のドアノブに手をかけると、ガチャリと開いたので、
私と智矢ちゃんはそこから恐る恐る中へ入った。
中はほとんど何も見えないくらいに真っ暗だった。
高い位置にある窓から差し込む月の光で、
倉庫の中に大きな段ボール箱が何段にも積み上げられているのは分かった。
この倉庫のどこかに刹羅と、人質に取られている智由ちゃんが居るはず。
なので私はお腹の底から声を張り上げて叫んだ。
「久尾刹羅!あなたのお望み通り、太郎と太郎二号を持って来てあげたわよ!
もったいぶってないで姿を見せないさいよ!」
すると少しして、
「ダッハハハハッ!」
という、聞き覚えのある笑い声が響き、次の瞬間、
いきなり天井の照明が一斉に点灯し、倉庫の中が明るく照らし出された。
いきなり明るくなったので、私と智矢ちゃんは思わず右手で目元を覆って顔をそむける。
そして少し慣れた所で右手をどけて正面を見やり、
その光景に、私も智矢ちゃんも驚きのあまりに凝り固まってしまった。
目の前に広がる大きなスペースには、頭も根性も悪そうなゴロつきの男達が、
鉄パイプや金属バット等といった物騒な物を持ってワラワラとたむろしている。
その数ざっと五十人。
どう見ても従業員には見えないし、おそらくミルグイーヌカンパニーに雇われた用心棒なのだろう。
そしてその奥に積み上げられた段ボールの山の上に、見覚えのある黒のワンピースをまとい、
右手には、人の首を斬りおとす為の殺人兵器である首切鋏を携え、
左手には一匹のクマのぬいぐるみを抱えた少女が一人。
死人のような青白い肌、
蛇のようにうねった黒髪、
悪意と殺意に満ちた瞳。
見間違うはずがない。あれは久尾刹羅だった。
そんな彼女の傍らに、きゃしゃな上半身をロープでグルグル巻きにされた智由ちゃんの姿もあった。
「智由!」
その姿を見て咄嗟に声を上げる智矢ちゃん。
そしてそんな智矢ちゃんに気付いた智由ちゃんも、悲痛な叫び声を上げる。
「おねえちゃん!このおねえちゃんが、フランソワをかえしてくれないの!
ちゆのだいじなおともだちなのに!」
「ダッハハハ!あったり前だろうが!こいつには金の種がしこたま詰まってんだぜ?
お前の友達だか何だか知らねぇけど、ハイそうですかって素直に返す訳がねぇだろうが!」
そう言って左手のぬいぐるみを高々と掲げる刹羅。
それを見た智由ちゃんが再び泣きそうな声で刹羅に訴える。
「かえして!フランソワをかえして!」
「そうよ!フランソワは私の妹の友達なのよ!それをあなたが奪う権利は何処にもないわ!」
智矢ちゃんもそう叫ぶが、刹羅はそれをあざけるようにこう返す。
「心配すんな!ちゃんと返してやるよ!た・だ・し、あの世でな!ダッハハハ!」
つまりそれは、私達をここから生きて返す気はないという事だ。
なので私は背中に背負っていたリュックを下ろして刹羅の方に突き出して叫んだ。
「そんな事言ったらこのリュックに入っているぬいぐるみは渡さないわよ!
あんた達の目的はこのぬいぐるみ達の中身でしょう⁉
この中身が何なのか、ちゃんと分かってるんだからね!」
「だったら尚更生きてここから返す訳にはいかねぇなぁ。
この会社の大事な秘密を知った人間は、もれなく死んでもらうぜぇっ!
このフランソワみてぇにな!」
刹羅はそう言うと、左手に持ったフランソワを空中に放り投げた。
そして右手に携えていた首切鋏を両手に持ちかえ、その両刃を大きく開き、
落ちて来るフランソワ目がけて容赦なく閉じた!




