6 ギロチン
そう思った私は、震えそうになる声を必死に抑えながら彼女に尋ねた。
「ち、違うとは思うけど、最近起きている首切り事件の犯人って、あなたじゃ、ないわよね?」
そうよ、あんなにおっかない凶器を持っているとはいえ、
あんなに手足が細くて、年端もいかない女の子がそんな事をする訳ないじゃないの。
私は自分に言い聞かせたが、そんな私の問いかけに対する、彼女の答えはこうだった。
「そうだよ、アタイだよ」
彼女が犯人だった・・・・・・。
彼女の言葉を聞き、その場にひざまずきそうになる私。
そんな私に彼女は続けた。
「アタイはとある組織の殺し屋でねぇ、
この『首切鋏』を使って獲物の首を切り落として殺すのが好み・・・・・・いや、仕事なのさ」
彼女はそう言うと、『首切鋏』と呼ぶ自分のハサミの刃の部分を、愛おしそうにベロンと舐めた。
ヤバイ、この子の言ってる事は多分本当だ。
あの『首切鋏』とかいう大型のハサミは、あの子の両手に妙に馴染んでる感じだし、
獲物の首を切り落とすって言った時のあの子は表情は、えも言えない悦びに満ちていた。
かつてアヤメビトコーポレーションで殺し屋をしていた潟奈ちゃんは、
その組織では最強と言われながらも、人を殺す事を恐れ、
本能の部分で拒否をして、実際に人を殺した事はなかった。
だけど目の前のこの子は人を殺すという事に何の抵抗も屈託もなく、
むしろそれに快感や悦びを感じ、率先して人を殺そうとしている。
多分今回の連続首切り事件も、あのハサミで被害者達の首をことごとく切り落として来たのだろう。
そう直感した私は、その場に尻もちをつきそうなくらい両足が震えて来た。
このままだと私もあのハサミで首を切り落とされる。
それは分かっているんだけど、怖くて足が震え過ぎて、その場から動く事ができなかった。
蛇に睨まれた蛙とは正にこの事なんじゃないだろうか?
私が園真探偵事務所で助手をするようになってから何度かヤバイ目にもあってきたけど、
間違いなく今回が一番ヤバイ。
私、ヤバイ!
どどどどうしよう。
まさかぬいぐるみの誘拐犯が恐ろしい殺人犯だったなんて思いもしなかった。
いや、待てよ?
あの時况乃さんは、
『そっちの線でつながるかもしれない』
って言ってたよね?
それってもしかして、私が追っていたぬいぐるみの誘拐犯と、
况乃さん達が捜していた殺人犯につながりがあるかもしれないって事だったの?
それならそうと言ってよ!
それが分かっていれば、一人で犯人捜しなんかしなかったのに!
と、今更心の中で况乃さんに文句を言ってもしょうがない。
とにかく今やるべき事は、目の前のいかにもヤバそうな殺し屋から逃げる事だ。
私はこれでも逃げ足にはそこそこ自信がある。
とにかく、今逃げようすぐ逃げようどこまでも逃げよう!
そう決心した私は、踵を返して一目散に逃げようとした、けど。
すってーん!
恐怖に震えていた私の両足はうまく言う事を聞いてくれず、
そのまま前のめりに顔からすっ転んでしまった。
うゎあん!バカ!私の両足!
こんな時に動かなくていつ動くのよ!
ああもうダメ、終わったわ私の人生。
こんな事ならもっと由奈ちゃんと色んな所に遊びに行けばよかった(遊園地に動物園、映画館にハイキング等等)。
あとお小遣いもケチらず、白玉あんみつにトッピング全部乗せとか、
ケーキバイキングで全種類のケーキを食べ尽くすとかやっておくべきだった。
あと、もっと女の子らしい洋服とかも着てみたかった(まあ私にはきっと似合わないので、由奈ちゃんに着てもらう事になるだろうけど)・・・・・・。
私の脳裏に色々な後悔がよぎる。
『我が生涯に、一遍の悔いなし』
と言ったのは誰だか忘れたけど、私の人生には五十遍でも百遍でも、後から後から悔いが湧き出てくる。
そんな私の背後に、彼女の厚底靴の足音がコツコツと近付いて来る。
そしてさも愉快そうな声で言った。
「大人しく観念しろよ。なぁに、どうせ首がちょん切れるのは一瞬だから、
痛いと感じる間もなくあの世に行かせてやるよ」
そして彼女は乱暴に私の背中を踏みつけ、両手に持った首切鋏を大きく開き、私の首に添えた。
普段からよく磨かれているせいか、月の光に照らされた首切鋏の刃が妖しく光る。
このままハサミを閉じれば、私の首は瞬く間に切断されてしまうのだろう。
そんなの、絶対に嫌だ!
首を切り落とされて死ぬなんて絶対に嫌!
だけど私の首は既に開いた首切鋏の間に挟まれていて、どうあがいても逃げ出す事は不可能。
もはや私の首が切り落とされるのは時間の問題だ。
彼女は潟奈ちゃんと違い、人を殺す事に何のためらいもない。
むしろそこに悦びを感じている。
だから私の事も、何の迷いもなく、ある種の快感を感じながら殺すのだろう。
もう、ダメだ・・・・・・。
私は静かに目を閉じる。
ここでジタバタしても見苦しいだけだ。
せめて死に際だけもいさぎよく居よう。
するとそれを見た彼女は私の背中を踏みつける足に一層力を込めて言った。
「もう死ぬ覚悟ができたのか?随分肝の座った姉ちゃんだなぁ。
最近殺した男どもは、どいつもこいつも情けないツラで命乞いをしてきたのによぉ、
これじゃあちょっと味気ねぇ。
本当はもっと泣きわめいたりションベンでもちびってくれた方が、殺し甲斐があるんだけどなぁ。
ま、いいや。どのみちアタイの姿を見たヤツは殺さなきゃなんねぇし」
と、ここで彼女は一旦黙り込み、何かを思い出したように再び口を開いた。
「そうか。ってぇ事は、あの(・・)小娘も殺しとかなきゃだなぁ。
まあ住んでる場所は分かってるし、それはまた今度でいいや」
「なっ!」
彼女の『あの小娘』という言葉に、私の心臓はドクンと高鳴った。
あの小娘というのは恐らく智矢ちゃんの事だ。
そう直感した私は顔を横に向けて彼女に声を荒げる。
「何を言ってるの⁉あの子は関係ないでしょう⁉」
しかし彼女はゆがんだ笑みを浮かべながらこう返す。
「関係ねぇ事はねぇよ。
お前はあの小娘にアタイの事を聞いて、アタイを捜していたんだろう?
これは立派な営業妨害だぜぇ?そりゃあ殺されても文句は言えねぇよ。
あ、そういやぁ妹も居たなぁ。ついでに妹も殺しとくか」
「ふざけないで!そんな事、私が絶対にさせないんだから!」
「ダッハハハ!どの面下げてそんな事をほざいてやがんだよ⁉
お前の首はもうアタイの首切鋏の中にあるんだぜ⁉
これはもうアレだよ。『お前はもう、死んでいる』ってヤツなんだよ!ダッハハハ!」
そう言ってバカみたいに笑い声を上げる彼女。
そんな事は千も承知だけど、それでも湧き上がる怒りが治まらない私は更に叫んだ。
「もしあの子達に指一本でも触れたら私が許さないわよ!絶対に許さないんだから!」
「いいねぇその反抗的なツラ!アタイが一番殺したいタイプのツラだよ!
それでこそ人を殺す快感があるってモンだ!そのツラのままで居ろよぉっ!」
彼女はそう言うと、両手にグッと力を込め、ひと思いに首切鋏の両刃を閉じた!
ジャキィン!
聞くだけでも身の毛がよだつような首切鋏の音が辺りに響く!
そして私は見るも無残に首を切り落とされ、そのまま屋根の上にゴロンと転がり落ちて・・・・・・
は、いなかった。
そりゃそうか、それならジャキィン!の時点で私は何も語れなくなっているはずだ。
あれ?何で?
私は上半身を起こしてすぐさま後ろに振り返った。
すると私の背中を踏んでいた彼女はその足を離し、大きく後ずさりをしていた。
そして閉じた首切鋏の切っ先をこっちに向け、ニヤつきながらも警戒した構えで私と距離を取っている。
ちなみにその視線は私ではなく、その後ろへと向けられていた。
一体何がどうなっているのか理解できない私は、とりあえず彼女の向ける視線の方に振り向く。
すると私の正面に、白鳥学園の白いセーラー服に身を包んだ、
桐咲潟奈ちゃんが立っていた。




