5 太郎と太郎二号
これだけ智矢ちゃんの言っていた特徴の通りで、
恐らく今盗んで来たのだろうクマのぬいぐるみを持っているのだ。
多分、いや、絶対にこの子がフランソワをさらった犯人だ。
なので私は目の前の女の子をビシッと指差して声を上げた。
「あなたが智由ちゃんのぬいぐるみをさらった犯人ね!」
それに対して目の前の女の子はスックと立ちあがり、お尻を両手で払ってから口を開いた。
「いえ、違います。ワタシは見ての通りの・・・・・・・・・・・・・・・・・歯医者です」
「嘘つけ!全く見えないわよ!完全に今考えたでしょ⁉
絶対あなたに虫歯の治療はお願いしたくないわ!
じゃなくて、あなたが犯人でしょ!
私の知り合いの女の子があなたみたいな特徴の子にぬいぐるみをさらわれたのよ!
しかも犯人は屋根の上を走って逃げて行ったとも言ってたし、それって間違いなくあなたの事でしょ!
あなたの近くに落ちているクマのぬいぐるみが何よりの証拠よ!」
すると女の子は相変わらずすっとぼけた様子でこう続ける。
「この子達は私の歯科医院で働く歯科衛生士で、太郎と太郎二号です」
「この期に及んでまだ歯医者で通そうとするの⁉
しかも太郎二号って!次郎でよくない⁉
いや、それよりも、そんな嘘をついてもダメよ!
あなたがぬいぐるみを盗んだ犯人だっていう事は分かってるんだからね!」
「アタイ、ヌイグルミ、ヌスマナイ。ヌイグルミ、ヌスマナイ、アタイ」
「何で外国人みたいな口調で倒置法でしゃべるのよ⁉そんな事じゃごまかせないわよ!」
私がひと際強い口調でそう言うと、黒ずくめの彼女は突然キレたような口ぶりで声を荒げた。
「だぁああっ!うっせぇなぁもう!
そうだよアタイだよ!ぬいぐるみを盗んだのは!
アタイだってこんなみみっちぃ仕事なんかしたかねぇけど、
依頼主がやれって言うから仕方なくやってんだよ!何か文句あんのかコラァッ!」
「何を開き直っているのよ⁉とにかく智由ちゃんのぬいぐるみを返しなさい!
そしてそこにあるぬいぐるみも、元の持ち主に今すぐ返すのよ!」
「そんな事言われてハイそうですかって言うとでも思うのかボケ!
これを依頼主の所に届けなきゃ金になんねぇんだよ!」
「だからって人が大切にしているぬいぐるみを盗んでいい訳がないでしょう!
どうしても言う事を聞かないなら、力ずくでも言う事を聞いてもらうわよ!」
私はこれでも子供の頃から空手をしていたので、腕力には少々自信がある。
腕相撲では、同世代の男の子にも負けた事がない。
それに目の前の子は私よりもふたまわり位小柄な体だし、手足もとても細い。
これならちょっと腕をひねってお尻ペンペンでもすれば、泣いて謝って反省するだろう。
例え相手が女の子とはいえ、悪い事をした時は痛い目にあわせなければいけないのだ(私も昔は散々痛い目にあいました)。
すると目の前の女の子はそんな私の言葉を嘲るように鼻で笑って言った。
「力ずくだぁ?おもしれぇ。それならこっちも力ずくでいかせてもらうぜぇ?」
そして女の子は目の前の黒いケースの前にしゃがみ、そのフタを開けた。
ん?ここでギターだかバイオリンだかを取り出してどうする気なの?
と思っていると、ケースに入っていたのはそのいずれでもなく、そこに入っていたのは・・・・・・。
特大の、ハサミだった。
形は裁縫で使うような裁ちバサミみたいで、
大きさはギターケース(?)にちょうど収まるくらいだから、ギターと同じくらいの大きさだ。
本来なら指を通して使う二つの穴の所を、彼女は細い両腕で持ち、
その刀のような鋭い切っ先を、私の方に向けている。
な、何てでっかいハサミなの?
あれが潟奈ちゃんの『瞬』くらいよく切れるとしたら、人間の首でも切り落とせるんじゃない?
と、思った時、私はふと、ある事に思い当たった。
最近起きている連続首切り殺人の犯人も、彼女じゃないの?と。




