2 ええわぁ
学校を出た私は、一直線に昨日の公園へと向かった。
もしかしたらまた智矢ちゃんに会えるかもしれないと思ったのだ。
そしてその考えは的中し、智矢ちゃんは昨日と同じベンチに腰掛け、浮かない顔でうつむいていた。
そんな智矢ちゃんに、私は声をかけた。
「こんにちは、智矢ちゃん」
「あ、あなたは昨日の、えーと・・・・・・」
「詩琴だよ、習志野詩琴」
私がそう名乗ると、智矢ちゃんは
「そうでした!」
と声を上げ、ペコリと頭を下げて言った。
「昨日は妹がお世話になりました。途中ではぐれて捜し回っていたので、とても助かりました」
「いえいえ、私はたまたま智由ちゃんを見かけてお話を聞いていただけだから、
そんな大した事はしてないよ。それより、今日はフランソワを捜しているの?」
私の問いかけに、智矢ちゃんは力なくうなずいた。
ランドセルを背負っていない所を見ると、一度家に戻ってからフランソワ捜しに出て来たようだ。
その智矢ちゃんは浮かない顔のままこう続ける。
「一時間くらいあちこち捜し回っているんですが、
フランソワをさらった犯人らしい人は全然見つからないんです。
凄く特徴のある格好をしていたので、見ればすぐにわかるんですが・・・・・・」
そう言って地面に視線を落とす智矢ちゃん。
確かフランソワをさらった犯人というのは、
真っ黒のミニスカートのワンピースで、黒のストッキングに黒い靴に黒い髪。
文字通りの全身黒ずくめの人物。
そんな格好をしているのは、街に色々な人が居るといえど、
智矢ちゃんが目撃したその犯人くらいのものだろう。
それにその人物とは細身の女の人という事なので、見つければ私でも取り押さえられるはず。
まあ、綾芽や潟奈ちゃんみたいに、見た目とは裏腹にアホみたいに強かったら話は別だけど、
あの子達みたいなのはそうそう他には居ないだろう。
ともかく私は、元気のない智矢ちゃんに向かって明るい声で言った。
「智矢ちゃん、私もフランソワをさらった犯人捜しに協力するよ!一緒にフランソワを取り戻そう!」
「えっ、でも、昨日知り合ったばかりの習志野さんに、そんな事をお願いする訳には・・・・・・」
智矢ちゃんは申し訳なさそうな顔でそう言ったが、私はニッコリほほ笑んでこう返す。
「そんなの気にしなくていいの!
私はそういうのをほっとけない性質だし、智由ちゃんの悲しそうな顔を見たら、
何とかしてフランソワを取り返してあげたいって思ったの」
私がそう言うと、智矢ちゃんはようやくニッコリ笑い、幾分明るい声になってこう言った。
「ありがとうございます。正直私一人じゃ凄く心細かったので、
習志野さんに協力してもらえたら、凄く心強いです。どうかよろしくお願いします」
そう言ってペコリと頭を下げる智矢ちゃん。
そんな智矢ちゃんに私は自分のホッペを右手の人差指でポリポリかきながら言った。
「こちらこそよろしくね。あと、習志野さんじゃなくて、詩琴でいいよ?」
「そ、そうですか?それじゃあ・・・・・・」
と、智矢ちゃんはここでひとつ深呼吸をして、私を上目づかいに見上げながら、
妙にモジモジした様子で言った。
「詩琴、お姉ちゃん・・・・・・」
お、お、お姉ちゃん。
お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん・・・・・・。
智矢ちゃんから放たれた『お姉ちゃん』という言葉が、予想外に私の心をキュンとしめつけた。
な、何だろうこの感覚?
年下の女の子にお姉ちゃんと呼ばれる事が、こんなにもキュンとくるなんて知らなかった。
私の今のこの気持ちを、一言で表すとこうなる。
ええわぁ・・・・・・。
どうして関西人みたいになってしまったのかは気にしないで欲しい。
それはともかく、お姉ちゃんと呼ばれた事に黙り込んだ私を見て、
智矢ちゃんは両手をワタワタ動かしながら言った。
「あ、ご、ごめんなさい、いきなりお姉ちゃんだなんて。
えと、私、妹しか居ないから、詩琴さんみたいなお姉ちゃんが居ればいいなぁと思ってて、
いきなり、なれなれしかったですよね?」
「そんな事ないよ!」
私は無駄に力を込めて叫び、自分の胸を右手の拳でドンと叩いてこう続けた。
「これからは私を本当のお姉ちゃんだと思って頼ってくれていいからね!
一緒にフランソワをさらった犯人を見つけようね!」
それに対して智矢ちゃんは、ぱぁっとひまわりが花を咲かせるような笑顔を浮かべて言った。
「うん!詩琴お姉ちゃん!」
ええわぁ・・・・・・。




