5 シティーガールハンターの実力
「なるほど、今回の高藤様の依頼は、赤井栄助が殺された真相の究明と、
命を狙われるかも知れない高藤様自身のボディーガード、という事でよろしいですね?」
その言葉に高藤さんがうなずくと、况乃さんはソファーから立ちあがって言った。
「わかりました、その依頼、我が園真探偵事務所が責任をもってお引き受けいたします。
ミルグイーヌカンパニーの不正を突き止め、
これを速やかに排除し、高藤様が安心して眠れる夜を取り戻して見せましょう。
高藤様のボディーガードは、こちらの花巻綾芽が担当いたします。
見た目とオツムはこの通りおバカで頼りないじゃじゃ馬娘ですが、
その筋では『シティーガールハンター』と呼ばれ、それなりには腕が立ちます。
高藤様に、犯人が指一本触れられないようお守りいたします」
「えぇーっ?それじゃあ私、しばらくしぃちゃんと離れ離れになっちゃうじゃないですか!
そんなの嫌ですよ!
ボディーガードはあの色白のスパスパ女(潟奈ちゃんの事だ)にやらせればいいじゃないですか!」
况乃さんの言葉に、露骨に不満そうな声を漏らす綾芽。
その綾芽のほっぺを况乃さんが右手でグニーンとつねり、鬼のような形相で言った。
「潟奈には、この連続殺人事件の犯人を調べさせているのよ。
殺しの手口に心当たりがあるって言うからね。
だからあんたはつべこべ言わずに高藤様のボディーガードをしなさい。
例えエイリアンが襲って来たとしても、高藤様を守りきるのよ!」
「いひゃいいひゃい!わひゃりまひはから、手をはなひひぇくらひゃい!」
自分のホッペをもちのようにのばされ、痛そうにもだえる綾芽。
その様子を不安そうに眺めながら、高藤さんはおずおずと尋ねた。
「あのぅ、本当に、彼女にボディーガードをお願いしても大丈夫なのでしょうか?
見た所、何処にでも居そうな普通の女の子にしか見えないんですが・・・・・・」
確かに、高藤さんの言う事はもっともだ。
今のお下げ髪にグルグル眼鏡をかけた綾芽は、
况乃さんが言うようにおバカなじゃじゃ馬娘にしか見えない。
これが戦闘モードになると、屈強な大男もバッタバッタとなぎ倒すような強さを持ち合わせているとは、
到底信じられないだろう。
実際にこの目で見ている私でさえ、未だに信じられないのだ。
それは况乃さんも重々承知しているらしく、深く頷いてこう続けた。
「確かに、高藤様の不安はよくわかります。ですが・・・・・・」
と、况乃さんはここで自分の制服のブラウスの裾の中に手を入れ、
そこから自分の拳銃を取り出し(どうやってブラウスの中に拳銃をしまっていたのかは不明)、
その銃口を高藤さんに向けた。
「え?」
いきなりの出来事に目を丸くする高藤さん。
その高藤さんに、况乃さんは何のためらいもなく、
持っていたデザートイーグル(だったっけ?)の引き金を引いた。
ズゴォン!
モデルガンとは思えない物凄い発砲音が部屋に響く!
えぇっ⁉何で⁉
と思う間もなく、いつの間にか綾芽が目の前の高藤さんに飛びつき、
抱きかかえるようにしてソファーから転がり落ちていた。
そしてすぐさま上半身を起こし、况乃さんに向かって抗議の声を上げる。
「何でいきなり高藤さんを撃つんですか⁉当たったらどうするんですか⁉」
しかし况乃さんは何ら悪びれる様子もなく
「空砲だから大丈夫よ」と言い、
綾芽の腕の中で硬直している高藤さんに向かってこう続けた。
「とまあこんな感じで、いきなり目の前で銃撃されても、
綾芽はちゃんと高藤様をお守りしますのでご安心ください。
あと、五百メートル以上離れた距離からスナイパーライフルで狙われても、
この子はちゃんと感知して高藤様の身の安全を確保しますので、狙撃の心配も無用です」
「は、はぁ・・・・・・」
安心だろうが心配無用だろうが、とにかく今の空砲ですっかりおびえてしまった様子の高藤さんは、
况乃さんの言葉に声を震わせながらうなずいた。
とりあえず、綾芽が頼りになるボディーガードだという事は分かってもらえたのかな?
それにしても、もっと穏便に綾芽の実力を分かってもらえる方法はなかったのかなぁ?
まあ、例えあったとしても、况乃さんがそんな手間のかかる選択をするとは思えないけど・・・・・・。
とまあそういう事で、ミルグイーヌカンパニーの悪事を暴くまでの間、
綾芽が高藤さんのボディーガードを担当する事になった。
事務所を出て行く時、綾芽は大層不満そうな顔をしていたけど、
まあ、だからと言って途中で仕事を投げ出して帰って来るような事はしないだろう。
あれでも一応『シティーガールハンター』という、その筋では有名な始末屋らしいからね。
それはさて置き、高藤さんと綾芽が事務所から居なくなった所で、私は况乃さんに尋ねた。
「あのぅ、ちなみに私もこの依頼で、何かお手伝いをした方がいいんでしょうか?」
正直な所、私は智由ちゃんの大切なぬいぐるみであるフランソワと、
それをさらった犯人捜しをしたいんだけど、
もし私も今回の依頼で何かお手伝いをしなければならないとなると、
その時間がなくなってしまう。
できる事なら私は智由ちゃんのフランソワ捜しに行きたいんだけど・・・・・・
と思っていると、そんな私の気持ちを酌んでくれたのかは分からないけど、
况乃さんは私をまっすぐに見据えてこう言った。
「詩琴は、さっき言っていた智由とかいう女の子のぬいぐるみ捜しをしたいんでしょう?
いいわよ、行っても」
「え?いいんですか?」
てっきり何かしらコキ使われると思っていた私が思わず聞き返すと、况乃さんはうなずいてこう続ける。
「ええ、この依頼で詩琴に手伝えるような事はないし、もしかすると、
そっち(・・・)の(・)線から事件につながるかもしれないもの」
「え?そっちの線って、どっちの線ですか?」
私はマヌケな声で尋ねたが、况乃さんは
「まだそれを説明できる段階じゃないわ」
と言い、それ以上は何も答えてはくれなかった。
とにかくこれで、フランソワ捜しのお許しが出た。
明日学校が終わったら、フランソワを捜しに行こう。
あの公園に行けば、智矢ちゃんに会えるかな?
何としてもフランソワをさらった犯人をひっ捕まえて、智由ちゃんの大切なお友達を取り返してやる。
私はひそかに心の中で、熱い正義の炎を燃やすのだった。




